小説家の著作権トラブル実例集|無断転載と裁判例から学ぶSNS時代の自衛策

2020年3月24日

著作権の基本的な法律知識、いわゆる「引用のルール」や「著作者人格権」については頭に入っている方も多いでしょう。
しかし、実践的な「現場のトラブル」となると話は別です。「自分には関係ない」「誰も自分の底辺作品なんて狙わない」と思って油断していませんか?

Web小説をインターネット上に公開しているすべての作家は、日々見えないリスクに晒されています。著作権の法律知識は別記事「小説家のための著作権ガイド」で解説しましたが、本記事では、過去の別記事で解説した著作権の基本知識を一歩進め、机上の空論ではない「実際に起きた著作権トラブルの実例(裁判例)」に焦点を当てます。

他人の悪意から自分の作品を守り、思わぬ過失で自分が加害者にならないための、クリエイターの自衛策を徹底的に解説します。

創作ノウハウ200超|小説の書き方ガイド

事例1:なろう小説が勝手にKindleで出版された事件

「自分には関係ない」と思うかもしれません。しかし、Web小説を公開しているすべての作家が、以下の事例の当事者になり得るのです。

何が起きたのか——ネットを震撼させた「無断出版」の手口

数年前、Web小説界隈を震え上がらせる非常に悪質な事件が起こりました。
「小説家になろう」などに投稿されている誰かの作品データを丸ごとコピーし、悪意ある第三者が勝手に自分の名義で「Kindle電子書籍(KDP)」として有料販売したのです。

被害に遭った作家のX(旧Twitter)での告発ツイートは瞬く間にSNSで大きな反響を呼び、多くの作家が「自分の作品もパクられていないか」と血眼になってAmazonの検索に走る事態に発展しました。これはAmazon Kindleプラットフォーム全体の信頼を揺るがす深刻な問題です。

なぜ起きたのか——KDP自動審査の「2つの限界」

「そもそも、Amazonの審査で引っかからないの?」と疑問に思うでしょう。
もちろん、Amazon KDPで出版する際、著作権チェックのクローラー(AI)は回っています。実際に筆者も、自分のブログに掲載していた小説を電子書籍化しようとした際、「これはインターネット上で無料公開されているコンテンツですが、あなたのものですか?」とKindleから警告を受けたことがあります。ネット上の無料コンテンツとの一致は間違いなくチェックされているのです。

しかし、このチェック網には2つの決定的な限界(抜け穴)が存在しました。

限界1:部分的な改変で自動チェックをすり抜ける工作
悪意ある無断転載者は、単なる丸ごとコピペではなく、「登場人物の名前を変える」「前書きやあとがきを追加・削除する」「タイトルを無関係なものに変更する」といった細工を行います。これにより、KDPのテキスト一致率チェック(コピペ判定)を意図的にすり抜けてしまう可能性があるのです。

限界2:投稿サイトの本文がGoogle検索に引っかからない(noindex)
各小説投稿プラットフォームは、自サイトのコンテンツが悪質なスクレイピングサイトに盗まれるのを防ぐために、あえて本文が検索エンジンのインデックスに登録されないよう制限(noindex)をかけている場合があります。
これ自体はプラットフォームとして正しい判断なのですが、皮肉なことに、「検索エンジンにデータがないから結果的にKDP側のチェックシステムも機能しなくなってしまう」という裏目を引いてしまっている状況なのです。

自衛としてできること——クリエイターの防衛網

Kindle側のシステム改善を指をくわえて待っているだけでは不十分です。作家自身が能動的に打てる対策は2つあります。

対策1:SNSで「正規の公開場所」を明示する
自身のX(旧Twitter)のプロフィール欄や固定ポストで、「この作品は○○(投稿サイト名)で読めます」とはっきりと明記してください。万が一、読者が違法なKindle版を発見した際に、「作者本人が言っている公開場所と違う。正規版ではない海賊版だ」と判断できる重要な材料になります。

対策2:あえて「自分自身で」Kindle版を先に出版しておく
自分の書いたWeb小説を、正規のKindle書籍として(無料や最低価格で構いません)先に出版して登録してしまいます。KDPのシステムには「同一内容の重複を厳しく検知する仕組み」があるため、あなたが正規版を先に登録しておけば、後から悪意のある第三者が違法版をアップロードしようとしても事前審査で弾かれる確率が跳ね上がります。

事例2:Web上の無断転載にも「100万円」の賠償命令が出た事件

「どうせ無料のWeb小説だし、パクられても実害はないだろう」と考えるのは危険な時代です。テキストの無断転載が、高額な賠償請求に発展した実際の裁判判例があります。

資産運用ブログ転載事件

他者の資産運用に関するブログ記事を、無断で丸パクリして自身のサイトに掲載した事例です。裁判所はこれを明確な著作権侵害と認め、無断転載をした側に対し約100万円の損害賠償の支払いを命じました。

私たちはどうしても「イラストや音楽の無断転載は重罪だが、文章のパクリは軽い」と錯覚しがちです。しかし、Web上のテキストデータであっても、それがクリエイターの労力によって書かれたオリジナルであれば、法律上は立派な「資産」として保護されます。
「たかが素人の文章だろう」という甘い考えでコピペをすると、被害額が百万円単位になり得るという強烈な警告となる事例です。

事例3:タイトルや短文のパクリはセーフか?「ヨミウリ・オンライン事件」

Web小説界隈では、人気作のタイトルやあらすじ(キャッチコピー)に似せた作品が大量に作られる傾向があります。短文のパクリはどこまで許されるのでしょうか。

ヨミウリ・オンライン事件(見出しの著作物性)

他のサイトが「ヨミウリ・オンライン」のニュース見出し(数十文字の短文)を無断で利用した事件です。

裁判では、「(ニュース見出しのような)短い文章には、創作性が認められにくく著作権を侵害したとは言えない」という見解が示されました。ここだけ見ると「短文ならパクり放題だ」と思ってしまいますが、続きがあります。
結果として、「多大な労力をかけて作成した見出しを無断でタダ乗りする行為は不法行為にあたる」として、本来支払うべき使用許諾料相当額(約23万円)の賠償が認められたのです。

これを小説に当てはめると、「数十文字のタイトルや短いあらすじ単体に著作権を主張するのは難しいが、度が過ぎた悪質なタダ乗り(フリーライド)は不法行為として賠償請求の対象になるリスクがある」ということになります。

事例4:「知らなかった」は通用しない「セキスイハイム事件」

今の時代、個人の創作者がイラストを外注(Skebやココナラなど)したり、フリー素材を組み合わせて自分の小説の表紙に使うことも一般的になりましたが、ここにも落とし穴があります。

セキスイハイム事件(知らずに利用した場合の過失)

制作会社が勝手にパクってきた(著作権法違反の)画像を、発注元の企業が「パクリとは知らずに」使ってしまった事件です。この裁判では、「直接パクったのは制作会社でも、それを利用した発注元にも過失(確認義務の怠り)があった」とされました。

つまり、クリエイター側が「外注した絵師がトレスしていたなんて知らなかった。自分も被害者だ!」と主張しても、発注者としての確認を怠った責任を問われ、一緒に著作権侵害のトラブルに巻き込まれるリスクがあるということです。
フリー素材や外注イラストを利用する際は、出処(ライセンス)の確認と、信頼できる相手に依頼することが極めて重要になります。

まとめ:実際の裁判例・事例から学び、未然に備える

著作権トラブルは「起きてから学ぶ」では遅すぎます。今回紹介した事例の「自衛策」のポイントをまとめます。

無断転載・海賊版リスク(Kindle事件 / ブログ転載事件)
SNSでの正規公開場所の明示や自分でのKDP出版が最善の自衛策。また、Webテキストのパクリであっても100万円規模の賠償命令が出るほど強い権利なのだと自覚する。

タイトル等のタダ乗り(ヨミウリ・オンライン事件)
短いタイトル自体に著作権は生じにくいが、度を超えたコピペ・タダ乗りは不法行為として訴えられるリスクがある。

外注や素材の過失(セキスイハイム事件)
他人の素材を借りる際、「知らなかった」は免罪符にならない。フリー素材の規約や、外注側の信頼性を厳しくチェックする。

著作権法の基本(引用のルール・著作物の定義・著作者人格権など)については、別記事「小説家のための著作権ガイド」で詳しく解説しています。法律の知識と、今回お伝えした「生々しい事例の知識」。この両輪をプロの防具として押さえておくのが、クリエイターにとって理想的な在り方です。

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