小説や創作で使うと「かっこいい」貴族の苗字、貴族の名前

2021年9月16日




 「小説家になろう」を中心に投稿される「異世界転生」「異世界転移」もののファンタジー小説は、「中世ヨーロッパ風」の世界で展開されます。

 そのため、人名や地名・国名などの固有名詞にも、「ヨーロッパ風」の響きのあるカタカナの名称がつけられます。

 本エントリーでは、ファンタジー小説の創作で使うと「かっこいい」貴族の苗字、貴族の名前について書いていきます。

 

かっこいい苗字はヨーロッパ貴族の苗字

 結論から書きますと、かっこいい苗字とは、ヨーロッパの貴族の苗字です。

 日本や東南アジアの貴族の苗字もかっこいいのですが、「中世ヨーロッパ風」の世界においてはマッチしません。そのためファンタジー小説のかっこいい苗字は、ヨーロッパ貴族の苗字となります。

 その上で、「ヨーロッパ風」の名字と名前の組み合わせがつくれると、「かっこいい苗字」と「かっこいい名前」になります。

 

ヨーロッパの貴族の苗字がかっこいいと感じる訳

 ヨーロッパの貴族の苗字がかっこいいと感じる理由は、ノブレス・オブリージュ(貴族は社会の模範となるように振る舞うべきだ)という見栄とプライドの歴史の中で淘汰・洗練されてきた名前だからです。

 分かりづらいので日本語をベースに考えてみましょう。例えば「木下」という名字の人がいたとして、この人が貴族のような権力を持ったとしたら、どうでしょう。この「木下」は貧しい民にも「木下」という名字の人々がいることを知っています。

 そうすると、俺は「木下」じゃない、名家の丹波と柴田の名前を拝借して「羽柴」だと言い始めます。

 貧しい人々との違いを見せるために、既存の名家の名前をアレンジしてかっこいい苗字をつくりだすのですね。

 そしてさらにこの「羽柴」が昇格していくと、丹波も柴田も大した家じゃないなと思い始めます。そこで「羽柴」はさらに一般にありえない名字「豊臣」を名乗ることにします。これが「豊臣秀吉」です。

 

 このように見栄とプライドの歴史の中で、貴族の名前というのは洗練されていきます。アルベルト・アインシュタインのように、個人の功績で有名になった人は別として、貴族のように何代にも渡って名家であり続けてきた家系の苗字は、実際に作られてきました。

 例えばドイツ系貴族のリヒテンシュタイン家の成り立ちは下記のようになっています。シュヴァルツェンベルク家が、リヒテンシュタインを名乗ったわけですね。

リヒテンシュタイン家の名が初めて歴史上で使われたのは12世紀にドイツ系ボヘミア貴族のシュヴァルツェンベルク家のハインリヒがウィーン近郊にある城を築いたことを由来とする。

リヒテンシュタイン家 – Wikipedia

 そして一度名家となったなら、その名字は守られてもきたはずです。商標のようなものです。

 では、ファンタジー小説の中で「ヨーロッパの貴族風の苗字と名前」を付ける方法をご紹介します。

 

ヨーロッパ風の苗字/名前をそのまま用いる

 一番簡単な方法は、ヨーロッパの貴族の苗字・名前をそのまま用いることです。

 「小説家になろう」においては、「ファンタジー小説でヨーロッパ風の名前を使うのは歴史的背景を無視している」というような議論があります。

 つまりファンタジー小説でいきなり「キリスト」という言葉が出てきたらおかしいよね? だったらクリストファーや、メシアもおかしいよね?という理論です。

 現実の宗教や化学を感じられる単語が出てきてしまうと、ファンタジーという世界観を壊しかねないと心配されている方もいます。

 しかし私は「ヨーロッパ風の苗字をそのまま使ってよい」と考えています。

 先ほどドイツ系貴族のリヒテンシュタイン家の成り立ちを紹介しましたが、結局のところ「かっこいい苗字」を選んでつけているわけです。そこに宗教的な意味があるからかっこいいのか、宗教的な意味がなくてもかっこいいのかは、ヨーロッパに住んでいない日本人の私たちだからこそ客観的に評価できます。「クリストフ」はださいから使わないと思ったならそれが正解です。

 その感覚を最大限活用しましょう。

 また、「ヨーロッパ風」の苗字をそのまま採用すると、言語について勉強したり設定を考えたりする労力を減らすメリットがあります。

 「山田」という苗字の王の第一王子が「マイケル」、第二王子が「ジョルジュ」、王女が「リン」だとどうにもチグハグ感があります。これを避ける方法が、ヨーロッパ風の苗字・名前を採用する際に欧羅巴人名録を使ってフランス風、ドイツ風、イタリア風など一国の表現に統一することです。

 こうすることで「大陸中で共通の言語を用いている」ことを示せます。

 はっきりいって、物語のためにゼロから一つの人工言語を作りあげるのは大変です。人生をかけて言語や歴史を創作している東京大学の中野智宏さん(Firraksnarreの作者)のような例がありますが、趣味で小説を書く人にとっては設定にそれほどの時間を費やすのは良い方法といえません。

 潔く、ヨーロッパ風の苗字/名前をそのまま使いましょう。

1,2文字のアレンジはOK

 ファンタジー小説の創作で使える「かっこいい苗字」「かっこいい名前」のつけ方は、「ヨーロッパ風の苗字/名前をそのまま用いる」ことだと書きました。ですが「ヨーロッパ風の苗字/名前」を使いながらオリジナリティを出したいときはどうすべきか?

 ポイントとしては、1,2文字のアレンジをしてみることです。ですがアレンジするにもポイントがあります。それは語尾をいじらないこと。

 例えばフランス貴族の苗字は下記のようなものがあります。ヌやニュ、ォワ、ェアンという語尾で終わっています。

  • アヴェーヌ家
  • アルデンヌ家‎ 
  • ヴァロワ家‎ 
  • オルレアン家‎ 
  • オーヴェルニュ家‎ 
  • バルセロナ家‎ 
  • ボーヴォー家‎
  • ラ・トゥール・ドーヴェルニュ家‎

 一方イタリア貴族の苗字は下記のようなものがあります。チ、ツィ、ツァなどのィァの表現で終わるケースが多いです。

  • メディチ家(Casa de’ Medici)
  • パッツィ家(Pazzi)
  • サヴォイア家(Casa Savoia)
  • ヴィスコンティ家(Visconti)
  • スフォルツァ家(Sforza)
  • ボルジア家(Borgia)

 この語尾を入れ替えると「○○語っぽさ」が失われやすいです。例えばフランス貴族の語尾を下記のように変えてみます。どこかイタリア風になっていませんか?

  • アヴェーツァ家
  • アルデンツィ家‎ 
  • ヴァリア家

 それぞれの言語には、固有の音韻体系があります(フランス語だけがneを「ヌ」と読み、名前にも使われるなど)。
 そのため、「○○語っぽさ」を残したい場合は語尾をいじるのは止めたほうがいいですね。

 

英語は「ヨーロッパ風」ではない

 もう一つ覚えておきたいことがあります。

 「ヨーロッパ風」の苗字/名前をつける上で、英語の苗字/名前を参考にするのはNGということです。

 英語はヨーロッパの言語の中では、特別なつづり・発音(音韻体系)を持っており、私たちが英語で習ったスペリングや発音は、他の言語ではほぼ使われない場合があります。

 例えば英語のGeorgeはジョージと読みますが、フランス語のGeorgesはジョルジュと読みます。英語ではrを発音しないためこのような結果になるのですが、一気に「ヨーロッパ風」の響きが失われた気がしませんか。

 英語が破擦音で発音するのは、ヤ行音を発音するとき舌が口の上のほうに近づきすぎてジャ行のようになるという変化が中世にラテン語から古フランス語になる頃に起こり、古フランス語の影響を受けた英語がこの発音を残しているからだそうです。
 イギリスは伝統を重んじる国ですから、古フランス語の伝統を引き継いだのでしょう。ですが、伝統を引き継いだことで逆に、貴族の華やかさを失ったのかもしれません。

 また、英語の特異な点として、つづり通りに読まない点があります。例えば英語ではnameと書いてナーメではなくネイムと読み、timeと書いてはティーメではなくタイムと読みますね。普通nameと書いたらイタリア人やドイツ人なら素直にローマ字通りナーメと読みますし、フランス人でもナームです。aと書いたらア(ー)と読むのが常識で、エイなんて読むのは英語くらいです。eはエ(ー)、iはイ(ー)が当たり前です。

 そういう意味では、ローマ字って読みやすい名前です。異世界転生して、現地の人に発音を間違えられるとしたら、その異世界は英語世界なのかもしれません。

 このように英語を使うと「ヨーロッパ風」ではない苗字/名前になってしまいますので、ファンタジー小説の名前に採用する場合は注意が必要です。

 

貴族の苗字/名前の区切り「・(中点)」と「=(イコール)」について

 ファンタジー小説の苗字と名前は「・(中点)」で区切られることが多いです。例えばルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールなどですね。

 また、哲学者ジャン=ジャック・ルソーのように、「=(イコール)」が入るケースもあります。どのように使い分けるのが正解でしょうか?

 答え。「・(中点)」と「=(イコール)」を組み合わせた場合の使い方としては「苗字名前の区切りは中点で、姓または名のどちらかが二語以上にわたるときは二重ハイフンで結ぶ」という原則があります。「=(イコール)」を使いたい場合はこのルールで記述すると良いでしょう。

 とはいえ、ルイズの例のように全てを「・」で区切っても全く問題ありません。逆に現実と違うことを示すため、全て「=(イコール)」にするのもアイデアの一つです。

 

貴族の苗字/名前にある「貴族称号」フォン、オブ、ドなどについて

 ファンタジー小説で「貴族階級」を分かりやすく区別するのが、姓名に組み入れられる「貴族称号」です。

 近世以降の西洋圏で、貴族称号の表記・呼び方には厳格な規則が登場しました。本格的に足を突っ込むと非常に難しい文献を漁る羽目になりますので、本エントリーではあくまで簡易な説明をします。

 『○○・ド・☆☆』
 『○○・フォン・☆☆』

 ヨーロッパ世界を舞台とした作品や、ヨーロッパ風異世界ファンタジー作品でも、よく見る名前ですね。
※ファイアーエムブレム風花雪月でもエーデルガルト=フォン=フレスベルグやクロード=フォン=リーガンといったキャラクターがいましたね。

 これらの「ド」や「フォン」は、いわゆる「貴族称号の前置詞」であり、貴族階級出身者の証です。メジャーなものとしては以下のようなものがあります。
 ※☆☆を姓とします。

「ラ・☆☆」(la)

:フランス系貴族。

【フォン・☆☆】(von)

:ドイツ語圏系貴族。ゲルマン系の古い家系。
※他に「ツー・☆☆」(zu)もあります。こちらは、どちらかというと新興貴族に多い称号です。

【ディ・☆☆】(di)

:イタリア系貴族。ただし必ず貴族姓につくという訳ではありません。
※他に「ダ・☆☆」(da)もあります。また、「デッラ・☆☆」「デル・☆☆」などもあるが、これらは「di」+「la」や「di」+「il」の「前置詞+冠詞」形。

【デ・☆☆】(de)

:スペイン系貴族。ただし貴族に限定するものではありません。

【ファン・☆☆】(van)

:オランダ系貴族。ただし貴族に限定するものではありません。
※「ファン」の後に「デ」(de)や「デア」(der)を伴うことも多いです。derは「デル」と読む場合もあります。

 

 これらの前置詞類は全て「敬称」として用いるものなので、呼びかけ時には省略しません。相手を呼ぶときには、姓とセットで『フォン・☆☆』や『ド・☆☆』と呼ぶのが基本です。小説を書く上でも気をつけましょう。

 

フランス貴族の苗字/名前には称号[ド](de)を付ける

 フランス人の姓で「○○・ド・ラ・☆☆」となるものがあります。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールもそうですね。

 この表記には歴史的経緯が関係しています。もともと上流階級の姓には定冠詞の「ラ」(la)や「ル」(le)を付けることが多かった歴史があります。例えば「ラ・☆☆」や「ル・☆☆」といった姓がありました。例えば「ネメシス・ラ・アルゴール」といった風にです。

 ただしこの名前は貴族とは限りませんでした。それが十三世紀頃に法律で「貴族には称号[ド](de)を付ける」と決まりました。そのため、多くの貴族階級がその姓を「ド・☆☆」に変えました。カタカナ発音表記の際は、「ドゥ・☆☆」となる場合もあります。

 ですのでフランスの貴族の名前は「○○・ド・ラ・☆☆」がついています。貴族の苗字/名前を考える上では気をつけたいポイントですね。

 

貴族階級と爵位により箔をつける

 ファンタジー小説で貴族を出す場合には、貴族階級と爵位についても気にかけてみましょう。例えば貴族階級をデューク(公爵)にするかマーキス(侯爵)にするかで、そのキャラクターの格が変わります。

 詳しくは下記のエントリーに書いていますので、ぜひ読んでみてくださいね。

和風のかっこいい苗字や名前

 和風のかっこいい苗字や名前が知りたい。
 その場合にも、考え方は同じです。ヨーロッパの貴族の苗字や名前が「見栄とプライドの歴史の中で洗練された」ように、日本においても、堂上家(日本の公卿になれる家柄。同時に上級貴族とも呼ばれる)の苗字は洗練されています。

 詳しくは下記のエントリーに書いていますので、ぜひ読んでみてくださいね。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
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