一人称視点の制約。これは本当に弱点か?
こんにちは。
杞優橙佳です。
現在、現代を舞台にした一人称小説を書いています。
※杞優にしては珍しいな!と思われる方も多いかもしれません。しかし読んでみれば、やっぱり杞優だった!と感じられること請け合いです。
ちなみに、私は一人称で小説を書いた経験がほとんどありません(ハテの世界!は近かったでしょうか?視点変わりますが。それでも自分史を執筆した時はさすがに一人称でした)。
ですのでこの度一人称小説を書くにあたって、一人称を勉強しようと思い、勉強した結果をアウトプットするためにこのエントリーを書いています。
内容は
https://ncode.syosetu.com/n0752be/119/
ワタシトノベル――私の小説の書き方メモ
を参考にしています。
というより、概略は一緒で、それに個人的な見解を付け加えたという内容になります。両方ご覧いただけると一人称視点がよりご理解いただけるのではないかと思います。
さて、上記サイトによれば
一人称視点の制約として、
下記の6点をあげられています。
1.他の登場人物の心情、心理描写を書けない
2.語り手が知り得る情報、あるいは知っている情報しか書けない
3.安易に視点切り替えができない
4.地の文を、語り手である登場人物と同じレベルの文章にしなければならない
5.ものごとを客観的ではなく、語り手である登場人物の主観でとらえなければならない
6.情景描写や戦闘描写が書きにくい
ひとつひとつ見ていきましょう。
1.他の登場人物の心情、心理描写を書けない
一人称小説の特徴ですね。涼宮ハルヒの憂鬱のキョンを思い出しました(古い?)。あの作品では基本キョンの視点で話が進むので、ハルヒが何を考えているかは言葉でしかわかりません。
ですがこれって一人称の制約でもあり、強みでもあると思うんですよね(もちろん三人称でも誰が何を考えているかは意図的に隠すことができます。ただ他のキャラクターの心理を描きたい場合には三人称がいいのでしょう)。
僕は先日、面白さの要素のひとつとして、読者の予想を外すことを挙げました。
主人公以外の登場人物の気持ちがわからないっていうのは、読者の予想を外すのに非常に有効なんですよね。
しかも一人称で語ることで読者が感情移入できると、読者の予想を主人公の予想と一致させやすい。
つまり面白さをつくりだすために一人称視点が非常に有効だということです。うん、これを使いこなせないのはもったいないですね。
弱点があるとすれば、主人公以外のキャラクターを無口に設定するのが難しいということですかね。何考えているかわからないキャラクターとして設定するなら有りですが、普通に無口で受動的なキャラクターは書くのが難しくなるでしょう。
一人称視点で物語を書く以上、他のキャラクターが多弁になるのは仕方ない話だと思います(涼宮ハルヒの憂鬱の長門でもしゃべるときはしゃべりますよね)。
でも無口なキャラクターがベラベラ話す時に思うべきは、予想していた心理状態と違った!という面白さであり、このキャラクターが多弁になるのはおかしい!キャラ崩壊!という批判は的はずれなんです。
作者はそのへんの細かい批判は気にせず、自由に書けばいいと思います。
2.語り手が知り得る情報、あるいは知っている情報しか書けない
異世界転生された主人公が、この世界には魔王がいて、それを倒すのが目的だなと考えるのはおかしいってことですね。
とはいえ主人公が小説家になろうで異世界転生系の小説を読み漁っていたという設定にしてしまえば、この世界には魔王とかいるんですよねーと予想させることはできます。
例えば異世界転生系の主人公が、これはこういう世界だ!って思い込むという書き方に徹すれば、まるっきり前例のない新しい世界を描かなければ、ある程度表現的な無茶も聞くんじゃないかな(ゲーマーな主人公なら、まるでスライムみたいだ。まるでギガンテスみたいだ。そういう喩えもありってことです)。
そして、主人公にはそう思い込ませておいて、読者も主人公と同じ考えに至るよう持っていって、実は違ってました!というのが一番面白いパターン。これって異世界転生の殆どのケースで使われているんじゃないかな。
結局これも一人称の弱点でもあり強みだとも思いました。
3.安易に視点切り替えができない
この制約は個人的には割ときついです。一人称で敵側の内紛とかどう書けばいいのかわからん。主人公が敵側に捕まって、やり取りする中で敵側の事情も知っていくって感じですかね。なんだか無責任艦長タイラーで似たような展開を見たような気がします。
とはいえ敵がたったひとりで主人公軍団と戦うというのは、弱い者いじめみたいで主人公側に正義が無くなりそうです。敵側の幹部キャラクターとの戦いの中で、幹部を多弁にさせて、敵の内情を明かしていく、といった小技で深みを出していくしか無いですかね。
この弱点をうまく補う小説が名作になるのだと思います。
4.地の文を、語り手である登場人物と同じレベルの文章にしなければならない
例えば主人公が女子高生なら女子高生らしい話し方をしなくちゃいけないということですね。ンゴンゴとかマンジとか使いこなさなきゃ。
ですが逆に言えば、キャラクターの知識レベルや心理状態を作者のレベルに近づければ、割と自然な感じで地の文を書いていくことができます。主人公が読書家でー、みたいな設定はこのためかも。
ただ、多くの人に共感してもらおうと思えば、大多数の人が感情移入しやすいキャラクターにしなければならないのも事実。この点、浮世離れしている人には厳しいところもあります。
まあその場合はいわゆるテンプレキャラにしてしまって、記号的な思考をさせるとわかりやすくなるかもです。ケルト・シェイネンみたいなキャラクターは一人称には圧倒的不向きだということですね笑
このキャラクターは批判しかしない、陰険なレビュアーみたいな感じです。
5.ものごとを客観的ではなく、語り手である登場人物の主観でとらえなければならない
これは作者が一人称小説を書く上で注意しておかなければいけない点ですね。
例えば主人公が母親を殺される展開があったとしましょう。
一般的には辛いと思うでしょうし、復讐したいと思うでしょう。
ですがもし主人公が母親にひどい暴力を受けており、もう母を母として感じられなくなっているような場合を考えるとどうでしょう。主人公は何も思わないかもしれませんよね。
作者が物語を書く上で注意しておくべきなのは、世間一般の常識(作者自身も無意識にこうだと考えてしまう心理)と、主人公の心の動きを分けて考えることです。
どうしても常識で考えたらこうだろう?と思って物語を展開させてしまいがちなところもありますが、一度立ち止まって、このキャラクターだったらどう考えるんだっけ?と考えてみると独自の展開が生まれたりすると思います(それが受け入れられるかはわかりませんけどね)。
このあたりは、作者が世間の常識をどれだけ把握しているかが試される部分で、小説を書くのに人生経験は不可欠か?みたいな議論が起こる背景でもあると思います。
山月記の詩人となる望みに敗れて虎になってしまった男・李徴では、世間の人ならこう感じるという客観性(一般的な主観)が失われてしまいますからね。
6.情景描写や戦闘描写が書きにくい
これも一人称視点の弱点です。
ただ、逆を返せば、つたない情景描写や戦闘描写でも成り立つとポジティブに捉えることもできます。
小説家になろうで一人称視点が流行っているのも、このハードルの低さが影響している気がします。
多少拙くても、主人公の見えている世界はこうだと言ってしまえばいいですし、それを咎められる必要もありません。そういう裾野の広さからたまに怪物が出てきたらいいじゃないかという考え方ですよね、小説家になろうみたいな小説プラットフォームは。
個人的にはこの考え方、大好きです。
つたない情景描写や戦闘描写でもとにかく表現してみる、これを当たり前のことにした小説家になろうは偉大だと思います。
まとめ
一人称視点の制約、6点について簡単な説明と見解を書きました。基本的に一人称視点の制約はポジティブに捉えられるものが多い気がしました。
1.他の登場人物の心情、心理描写を書けない
2.語り手が知り得る情報、あるいは知っている情報しか書けない
3.安易に視点切り替えができない
4.地の文を、語り手である登場人物と同じレベルの文章にしなければならない
5.ものごとを客観的ではなく、語り手である登場人物の主観でとらえなければならない
6.情景描写や戦闘描写が書きにくい
ですので皆さんもどんどん一人称で物語を書きましょう。多少つたなくても、とにかく表現してみることが大事だと思います。
一人称を意識して書いてみた杞優橙佳の作品はこちら
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