スタニスラフスキーシステムとは?時代背景とポイント、執筆活動での活かし方

2020年9月7日

 スタニスラフスキー・システム(Stanislavski System)とは、役になりきる際に「与えられた台本を形通り行う」のではなく、「役の外見や行動を、周囲の状況や情報を踏まえて生きるように演じる」という演技方法論のことです。

 これは演劇の方法論ですが、小説にも活かすことができると思います。

 まずは時代背景、システムのポイントをご紹介して、小説に役立てるアイデアを書いていきます。

時代背景

スタニスラフスキー・システム(Stanislavski System)を提唱したのは、ロシア・ソ連の演劇人で、俳優兼演出家であったコンスタンチン・スタニスラフスキーです。ロシア・ソ連の演劇人ということから想像できる通り、もはや100年も昔の人です。

 スタニスラフスキーは、俳優は『役を生きること、すなわち演じるたびに、役の人物と同様の感情を体験することが必要』ということを提唱しました。

 実はこの考え方は今では珍しいものではありません。

 ですが昔は革新的な考え方だったようです。台本を大げさに読んだり、泣くと書いてあったら言われたとおり泣いてみせる……そういった大仰な演じ方が昔は主流でした。
※日本の歌舞伎をイメージしてください。演者が皆、歌舞伎のように演じているのが当たり前の世界で、現代の映画のように人のリアルを演じるのが大事だと訴えたわけです。革新的ですね。

スタニスラフスキー・システムのポイント

 スタニスラフスキー・システムのポイントは、実は単純です。
 それは個人じゃなくて、全体を考えましょうということ。

 え? 「役の外見や行動を、周囲の状況や情報を踏まえて生きるように演じる」ためには全体じゃなくて個人を考えるのでは? と思われるかもしれません。
 ですがここがスタニスラフスキー・システムのポイントで、個人ではなく全体を考えることによって、キャラクターが生きると考えるのですね。
※役が生きているかどうかは、周囲の状況や情報に溶け込んでいるかが第一と言い換えることもできるでしょう。

 これは役者、演出、脚本のそれぞれについていうことができます。それぞれの役割で避けるべき要素を書きます。

 小説家の人は役者=キャラクター、演出=展開・描写、脚本=シナリオ・プロットと置き換えて読んでみてください。心に刺さりますよ。

■役者(キャラクター)

・大根役者(演技が下手)
→ほかも全員大根役者ならいいですが、ひとりだけ大根役者だと浮きますね。小説でいえば、セリフが洗練されていないとでもいいましょうか。

・一貫性がない
→役の行動に一貫性がない。正確にそぐわぬ行動をする。

・過剰/過小な演技
→動機に対して過剰/過小な演技をして、動機が伝わらないこと

・場違いの態度
→その場で求められる言動ができていない。場面で言わせるべきセリフを言わない。シナリオにない問題を持ち込んでくる。

・独りよがり
→他の役との関係性を無視して感情的になったり、浮いた演技をする。役者同士がシナリオを通じて築いてきた関係性を無視している。

■演出(展開・描写)

・意味不明
→このパートで何を伝えたいのかがわからない。役者が何をすべきかを明らかにしていない。

・設定ミス
→このパートだけで達成できるはずのない目標を立ててしまう。
  筆がのらない方へ。一つの場面で感情を変化させようとしていませんか?

・分割ミス
→1つのパートに複数のテーマが混在する。なんの意味もないパートがある。

・スター主義
→特定の役者を引き立てるためにシナリオの構成を歪ませてしまう(途中で脇役キャラクターの人気が出てきたから、メインに昇格させるなど。悪いことではないと思いますが、シナリオは崩れます)

・間延び
→流れや勢いを作れず、だらだらと描写を続けてしまう。

・読み違い
→キャラクターが行動するための、動機の深堀りが書けていない。結果としてキャラクターが操り人形に見えてしまう。

■脚本(シナリオ・プロット)

・背景不足、背景過剰
→観客に、キャラクターがその世界に生きていることを理解してもらうためには、背景描写を書いて、こういう世界だと説明する必要がある。その背景説明が少ないため、観客には何が起きているかわからない。また、逆に背景情報が多すぎて、キャラクターが見えてこない。

・動機不足
→役者の一貫性を保つ、動機づくりができていない。
  【短編の書き方】エンジンとシャフトで物語のテーマを伝える

・関連不足
→シーンごとにキャラクターの感情や、シナリオの問題対応が完結していて、奥行きに欠ける。続きが気にならない。
  続きが知りたい!」と読者に言わせる11の区切り方

執筆活動に活かすスタニスラフスキー・システム

 スタニスラフスキー・システムのポイントとして、役者、演出、脚本で避けるべき事項を書きました。これは現代の演劇術としても古びていません。
 小説家の皆様も、役者=キャラクター、演出=展開・描写、脚本=シナリオ・プロットと置き換えて読んでみたら、頷くところが多かったのではないでしょうか。

 そして個人ではなく全体を考えることによって、キャラクターが生きるという意味がわかったのではないでしょうか。

 例えば主人公の活躍を描きたいのであれば、主人公の持つ能力が背景世界でどれほど優れているかを考えなければいけませんし、主人公を褒める脇役もいれば主人公の強さを引き立たせる敵もいなければいけません。

 よく、小説が上手いか下手かを論じる時に、「独りよがりの作品はダメ」と言われます。

 独りよがりの作品とは、作者にしかわからない作品。その意味はスタニスラフスキー・システムでダメとされているポイントが潰せていない作品だと思いました。

 背景不足、背景過剰、動機不足、関連不足……いわばシナリオ・プロットが崩壊している作品もダメですし。意味不明、設定ミス、分割ミス等々の展開・描写の不備もダメですし。セリフが洗練されていない、一貫性がない、過剰/過小で場違いな態度をとるといったキャラクターの不備も当然ダメだということですね。

 そう考えるとスタニスラフスキー・システムの考え方は、小説家としてもおさえておきたい考え方と感じます。何よりも個人ではなく全体を考えることによって、キャラクターが生きるのだと理解すること。これが一番重要だと感じました。書きたいことを書くためにどういった舞台が必要なのか……それを過不足なく揃える努力が必要ですね。

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ここまで読んで頂きありがとうございました。
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