「本格ファンタジー論争」本格ファンタジーとは何か?
「本格ファンタジーとは何か?」は小説クラスタで定期的に話題になる話題です。
本記事は2023年4月に発生した本格ファンタジー論争を振り返ります。本格ファンタジーについて、本質的な議論が行われた論争だと感じましたので、ぜひ読んでみてください。
発端は以下の記事でした。
私は本来のファンタジーを希望する~本格ファンタジーとは何か~
長文ですが、本格ファンタジーとは何かについて、1万文字をかけて書かれています。
長いので以下に要点をまとめます。
本格ファンタジーとは何か?
本格ファンタジーとは、『大きな物語』『壮大な物語』を支える『重厚な世界観』である。
要約するとこの一文です。
上記記事の作者は「昨今オープンワールドのゲームの人気が高くなっているが、これら作品群の人気の土台はよくできた世界設定および世界観」だと書いています。
そしてよくできた世界を舞台として多くの魅力的なキャラクターを動かす物語や、物語の土壌となる世界観が育っていないと書いています。世界観ファーストと言って良いでしょう。
そのうえで、巨大な美しい幻想世界を出すなら、それに見合った巨大な問いと解を示す必要があるとも書いています。世界観ファーストであり、その世界観の魅力を余すことなく伝えるために『大きな物語』『壮大な物語』があるという物語セカンドの考え方です。
『大きな物語』『壮大な物語』とは何か?
大きな物語(Grand narratives)とは、近代社会がそれ特有の世界観と人間観によって社会・文化的コンテキストを維持・正当化するための物語を指します。
本格ファンタジーを語る上でポイントとなる『大きな物語』について書きます。大きな物語とは、ポストモダン論を学ぶ上で最も重要な考えの一つです。
つまるところ、大きな物語はその前提として「近代社会はある種の理念を達成することを目標に支えられてきた」という考えがあります。例えば以下のようなものです。
- 科学による社会の進歩
- 資本主義
- 民主主義
- 労働の解放
- 教育による平等
- 民族独立
しかし冷戦が終わり、民主主義と資本主義が世界を席巻する中で2000年代に入り、上記「大きな物語」は意味を失い始めました。大きな物語ではなく小さな物語(個人の物語)が重要視されるようになったからです。
大きな物語の消失とその後については「ゼロ年代の想像力(宇野常寛)」がわかりやすくまとまっているので、是非この本をご覧ください。
本格ファンタジーの話に戻りますが、本格ファンタジーが世界観ファースト物語セカンドで、『大きな物語』『壮大な物語』を必要とするということでした。
しかし、すでに「大きな物語」は解体されていて、人々に望まれなくなっています。現代においては世界が主軸になるストーリーよりも、主人公個々人の「小さな物語」が愛されています。
そのため、冒頭で紹介されている本格ファンタジーの定義における「大きな物語」の復刻は難しいかもしれません。
ただ、ここで1つ嬉しいお知らせがあります。主人公個々人の「小さな物語」を描いた作品でも、歴史の切り取り方を変えることで「スケールの大きな物語」になります。『壮大な物語』は現代でも通用する可能性があります。
小説のスケールアップを実現する、物語の3つの切り取り方を以下のエントリーでも紹介しています。
現代にふさわしい『壮大な物語』を書くことで、本格ファンタジーの復権も狙えるかもしれませんね。そしてそれは、なろう発のファンタジー作品で叶えられているようにも感じます。
『重厚な世界観』を取り違えている可能性
もう1点、本格ファンタジーを語る上でポイントとなるのが『重厚な世界観』です。
本格ファンタジーを語るうえで、『重厚な世界観』は欠かせない……この点について私も同意します。「指輪物語」のように練り上げられた世界観を想像しますから。
しかし、『重厚な世界観』を取り違えないよう注意が必要です。
まず、「読みにくい文章=格式高い=本格ファンタジー」ではありません。
難しい感じを使わなくても『重厚な世界観』は表現できます。格式高い(と思い込んでいる)文章を目指して漢字を増やすと、ただ読みにくいだけです。「漢字を使う=情報量を短い文章の中に含められる=それによりスカスカの文より格式高くなる」という意見は同意するのですが、漢字を使い倒して文章を圧縮しても、せいぜい全5巻の物語を4巻にできるくらいでしょう。それであれば5巻書いてほしい。
そして、「タイトルと名前が短くて漢字が多い」から本格ファンタジーではありません。『じょっぱれアオモリ』のエピソードが面白くてためになるのでシェアします。
「この作品を『このすば』みたいにしたい」
と担当さんから言われました。
『じょっぱれアオモリ』を全くコメディ成分のない硬派な骨太ハイファンタジー作品だと思っていた私は
「比較対象『このすば』ですか!?」
って思わず訊きました。
最後に、「3人称の物語だから本格ファンタジー」ではありません。確かに世界観や、複数の組織にわたる壮大な物語を描くためには3人称が有効ですが、無職転生や、本好きの下剋上のような一人称視点の作品でも『重厚な世界観』は染み出すものです。
本格ファンタジーとは感情移入するものではなく、3人称で俯瞰して読むものだ!という意見の方は、公募に応募するほうがいいかもしれません。なろう系ではどうしても一人称の小説が強いためです。
「本格ファンタジー」の教科書
本格ファンタジーが世界観ファーストだとすると、『物語を作る人のための世界観設定ノート』は非常に役立つ教科書です。この本を一冊完璧に埋めれば『重厚な世界観』が完成しますので、列記とした「本格ファンタジー」になります。
ハイファンタジーとローファンタジーの違いも書いてありますので、本格ファンタジーを書きたい!方は是非読んでみてください。
本格ファンタジーを議論するなら必修の小説
本格ファンタジーについては定期的にネットで話題になります。
しかし本格ファンタジーを議論するのであれば必修と言える小説があります。ライトノベル黎明期にファンタジー小説の雛形を作り出した作品群です。
『大きな物語』『壮大な物語』を支える『重厚な世界観』を本格ファンタジーと呼ぶならば、上記の作品群は間違いなく本格ファンタジーでしょう。ライトノベル黎明期の作品を学ぶことで、次の新しいアイデアにつながることもあります。ぜひ未読のものがあれば読んでみてくださいね。
そして、もうひとつ。今回書いた本格ファンタジーの定義によれば、実は本格ファンタジーだった私の作品もよかったら読んでみてください。笑
主人公アイン・スタンスラインが世界に時流を作り出す『大きな物語』と、それが終わった後の混沌と、混沌が晴れるまでを、3人の主人公リレーで書いた『壮大な物語』です。設定資料集に世界観の設定も書いています。
以下の画像クリックから作品ページに飛べます!よろしくお願いいたします。
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