帝国、皇国、王国、公国の違いは? 物語に登場する国の種類を解説します!
ヨーロッパには「帝国」「皇国」「王国」「公国」といった「政治体制」があります。
中世ヨーロッパを舞台に物語を書くならばこれらの「政治体制」について知っておきたいですね。本エントリーでは各「政治体制」の説明と、各国の君主(治めている人物)についてご紹介します。
「帝国」とは
皇帝が支配・統治・君臨する国家のこと。通常は単一の王国より広大な範囲の地域や人々の集合体を指す。
・君主:皇帝(英語で「エンペラー(emperor)」)、皇后(英語で「エンプレス(empress)」)
・退位後:太上皇帝 (中国語で至上の皇帝を指す)
エンペラーの語源はローマ帝国のインペリウム(=命令権の及ぶ領域)。インペリウムを託された者・軍司令官がインペラトルと呼ばれ、そこからエンペラーに変わっていきました。
皇帝の語源は、古代中国の神話伝説時代の8人の帝王「三皇五帝」。皇の神のような権力や帝への崇拝から中国の統治者は「天皇」「天帝」と呼ばれてきましたが、秦の始皇帝が「皇」と「帝」を組み合わせてはじめて「皇帝」を名乗りました。
また、「皇帝」のことを「諸王の王(英語でキング・オブ・キングス)」というケースもあります。
・物語の中の帝国
「帝国」の語は、帝国主義や植民地主義、グローバリゼーションなどの概念とも関連付けられ、力による圧倒的な支配を想起させる言葉となっています。
そのため物語の中の帝国も下記のいずれかとして描かれることが多く、「独裁者」が君臨するイメージとなります。
- 力による直接的な征服や統治による、単一領域の帝国
- 力による非直接的な征服や統治による、強制力のある単一の覇権(他国の主権を侵害・支配する)帝国
「皇国」とは
天皇が支配・統治・君臨する国家のこと。
・君主:天皇(英語で「エンペラー(Emperor)」または「テンノウ(Tenno)」)、皇后(英語で「エンプレス(Empress)」)
・退位後:上皇(英語で「エンペラーエメリタス(Emperor Emeritus)」)、上皇后(英語で「エンプレスエメリタ(Empress Emerita)」)
・跡継ぎ:皇太子(英語で「クラウンプリンセス(Crown prince)」)
皇帝と天皇は共にエンペラーですので、帝国と皇国は同じ意味です。帝国のセクションでも触れましたが、天皇の語源は古代中国の神話伝説時代の8人の帝王「三皇五帝」です。三皇は神、五帝は聖人としての性格を持ち、この概念が日本に取りいれられ、神にも等しい君主を「天皇」と名付けたと考えられます。
・物語の中の皇国
帝国と皇国の違いは、君主の成り立ちです。つまり「皇帝」が一代にして成る「帝国」と、神話から脈絡と続く「天皇」が国を治める「皇国」です。
「皇国」は神話から続いているというバックボーンがあることで、「帝国」よりも国家存続の根拠が強く感じます。それもあってか「皇国」は長い平和を享受し、物語の中でその平和が脅かされるイメージです。
「王国」とは
国王が支配・統治・君臨する国家のこと。長く続く王族が治める国、または帝国の皇帝から認められた諸侯王の治める国を指す。
・君主:国王(英語で「キング(King)」)、諸侯王(英語で「ロード(Lords)」:皇帝によって王に命ぜられたもの)、女王(英語で「クイーン(Queen)」)
・退位後:退位する国王はごく少数だが、退位後は貴族の名称で呼ばれます(エドワード8世は「ウィンザー公」となりました)
・跡継ぎ:王子(英語で「プリンス(Prince)」)、王女(英語で「プリンセス(Princess)」)
・物語の中の王国
帝国に支配される立ち位置で描かれることもあれば、帝国の支配に最後まで抵抗する立ち位置で描かれることもあります。幅広いシナリオで活躍できる政治体制でしょう。
なお、インターネット上の記事で、君主の序列として皇帝>国王>大公爵>公爵>首相という序列が書かれているものがありますが、皇帝>国王は必ずしも正しくありません。ただし帝国における「皇帝>諸侯王」の序列は正しいです。
「公国」とは
貴族が支配・統治・君臨する国家のこと。
・君主:大公・大公爵(英語でグランドデューク)、公爵(英語でデューク、プリンス)、侯爵・辺境伯(英語でマーキス)
※貴族制度(貴族の爵位)については下記のエントリーも参考。
・跡継ぎ:王子(英語で「プリンス(Prince)」)、王女(英語で「プリンセス(Princess)」)
※王女のことは公女と呼ばれることもあります。
・物語の中の公国
王国よりさらに自由度の高い政治体制となります。というのも公国においては、複数の貴族の家系が代わる代わる国を治めることも可能だからです。血の繋がりを重要視する「皇国」や「公国」と比べると、どの貴族にも国を治めるチャンスがあるという意味で「自由」ですね。さらにいえば公国の支配権をかけての「謀略」が描きやすいでしょう。
「共和国」とは
君主を持たない政体、君主制ではない政治体制。
・国家の所有や統治上の最高決定権を、君主ではなく人民がもつ。最高決定者は最高議長、大統領、首相など。
・物語の中の共和国
現実世界においては民主主義を体現する位置づけで描かれることが多い共和国。スター・ウォーズの銀河共和国は民主主義であるがゆえに、パルパティーン最高議長を代表に選んでしまい、銀河帝国の誕生を許してしまいました。
帝国、皇国、王国、公国の序列
インターネット上の記載で、国の序列が「帝国≒皇国>王国>公国」と書かれるケースがあります。ですが、帝国、皇国、王国、公国はそれぞれ独立した政治体制ですので、序列は基本的にありません。
ただし、帝国の支配下にある王国については、帝国>王国という序列になるケースがあります。
帝国と皇国の違い
帝国≒皇国と表現されることのある帝国と皇国ですが、ここまで紹介してきた通り、統治者が違います。
帝国は皇帝が国を治め、皇国は天皇が国を治めます。
しかしながら物語の中の帝国と皇国のイメージは正反対で、帝国=悪、皇国=善と、描かれることが多いです。
個人的な推測ですが、その理由は、「皇国」は神話から続いているというバックボーンがあるという点にポイントがあると感じます。
日本人自身が「天皇とは神様から連なる自然発生したものであり、神から土地を預けられた統治者」と考えており、「皇帝=個人が支配欲にしたがって広大な土地を得た統治者」と考えている。そのため預けられた土地を守る皇国は善であり、土地を奪う帝国は悪と感じるのではないでしょうか。
公国と共和国の違い
君主として皇帝や天皇、国王を持たない、公国と共和国の違いについても解説します。例えば機動戦士ガンダムにおいて、ジオン共和国はジオン・ズム・ダイクンが死亡し、ザビ家が実権を握ってからジオン公国としました。
この「共和国」と「公国」は、統治者が違います。「共和国」は君主を持たない、国民の代表が政治を決めていく政治体制です。一方で「公国」は貴族が支配・統治・君臨する政治体制です。
つまりジオンは国民の代表が政治を行う民主主義から、一部の特権階級が政治を行う体制に変貌したのです。こう書くとザビ家が独裁体制を作ったように見えますが、ジオン・ズム・ダイクンというカリスマを失った国家の混乱を防ぐため、指揮系統を統一したとも考えられます。
つまり「共和国」は多くの人々の意見を取り入れるためスピード感がなく、有事の際に決断が遅れるという弱点があります。私たちは「民主主義」こそ何よりも尊いと考えがちですが、中世ヨーロッパを舞台に戦争を書く際には、主人公の所属する国の政治体制を何にするか。もう一度考えてみてはいかがでしょうか。
まとめ
本エントリーでは国の種類について紹介しました!物語を書く上で、政治体制を帝国、皇国、王国、公国、共和国のどれにするか迷ったときにぜひ活用してみてください。
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