《小説感想》キミの忘れかたを教えて 夢がつまった田舎
あらすじ
俺は死にゆく身、なのにキミは何度もそれを許さない――青春感動巨編、開幕
「残された余命は半年――、俺はこのまま死ぬつもりだった」
大学を中退してニートとなり、生きる価値がないと感じていた松本修は、昔からの悪友・トミさんの誘いで母校の中学校を訪れる。
そこには芸能人となってしまった因縁の幼馴染み・桐山鞘音がいて……。この出会いが再び修の運命を突き動かす。
『天才ゆえの孤独を抱えたヒロイン、凡才ゆえに苦悩する主人公。二人のすれ違いと、遠回りな青春に引き込まれました』
『逃げて逃げて、逃げ続けたクズに残った一つの約束。胸が熱くなりました』 発売前から感動の声多数。
掴めなかったチャンス、一度何かを諦めてしまった人に贈る、大人の青春物語。
物語の面白さ(印象に残った変化)
・松本修
いつ死んでもいいと考える、20歳の大学中退、うだつのあがらないニート。
この物語は、修が鞘音との約束を果たしたい一心で、生きたいと思うようになるまでの物語でした。目が死んでいる、心が死んでいるのは、天才の側で応援するといったのに途中で逃げた……過去に約束を破ったという罪悪感から。そこから逃れられたのは、鞘音がずっと待っていてくれたからでもあります。
・桐山鞘音
修の幼馴染で天才シンガー。彼女が一声かければ半日で6000人が田舎まで集まってくる、カリスマアーティスト。修のことをゴミクズと罵倒するが、最後にはタイトルにもあるとおりのセリフで、修を救ってくれる。孤高の天才なのだけど、支えとなる柱がないキャラクター。支えがないから周囲に強くあたって、自分を隠しているように思えた。祭りでのライブ以降は、寄り掛かれる人を見つけて、本来の可愛らしさが存分に表れていました。
設定の面白さ(印象に残った設定)
・トミさんが修と鞘音をしつこくサポートしてくれるのですが、田舎特有の人の良さと、自分の恋を成就させてくれた修と鞘音に恩返しをするという純粋な想いで動いていたんだなーとわかり、納得。
押し付けがましい優しさの描き方って、母子の無償の愛しかないかなあと思っていたけれど、田舎の気風や、自分の愛を応援してくれた恩返しっていうのは納得できる設定でした。
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東京が舞台で、トミさんが単なる元同級生といった設定だと成り立たない気がします。
・やはり音楽が出てくる作品は、オリジナル曲のタイトルがどう物語に絡んでくるかがポイントですね。be with you、……いつでも好きな人の側にいられれば幸せで、その人と一緒にいれば何でもできるって、鞘音の願いなんですよね。
・20歳のわりに、体力がとってもない修。これは舞台装置だと感じました。おそらくですが、30代中盤から後半の人が故郷に帰って、昔の恋心を叶えられたら……という大人の願望をベースにした作品なのかなと感じます。
例えば病気持ちの私は、20代のころ無尽蔵の元気がありましたが、30歳をすぎるとガタと体力が落ちて、昔みたいに動けないなと思うようになりました。故郷に久々に帰るとみんなが優しくて、いつまででもここに居たいと思う気持ちも共感しました。
ですので30代中盤になって読むと、より面白いと感じる作品だと思います。
展開の面白さ(印象に残った展開)
・一番ワクワクする展開を起承転結の「承」、物語の中盤にもってくるシナリオが面白かった。そのためか起承のテンポがものすごく良く、飽きない。一方で、起承転結の転結は幼馴染同士の恋心をじっくりと描き、修の心を穏やかに着地させる。
・恋愛感情は全編を通して一方通行なのですが、最初は修(諦め)鞘音(執着)で始まり、途中のライブを皮切りに、修(執着)鞘音(諦め)に変わって、恋愛の矢印が変わるんですね。
この展開はよかった。
主人公である修は、最初(受け身だった頃)はトミさん主導で、祭りに巻き込まれて無理やり動かされていたのが、途中からは修自信の執着で動くようになり、行動力ある男らしい男に切り替わっていきます。
もう遅いかもしれないけれど……っていう先の見えない展開だからこそ面白いのですよね。向き合うはずのない矢印が、最後に向き合うから面白いのですよね。
・二人の願いが叶うかも……ってところで病気によって分断されるのも、お約束ですが納得感があります。矢印が向き合ったら終わりなので、その障害をいくつも用意しておく必要があるのですね。この作品の場合は、才能の差、病気、罪悪感といったところでしょうか。
言葉選びの面白さ(印象に残った言葉)
・音楽の描写が心地よかったです。歌詞も曲名も明示しないのに、どんな曲をカバーしたのかが頭に浮かんできました。描写ってこういうものですね。
読後の感覚
天気の子を思い出しました。才能(使命)をもって生まれてきた女の子と、その女の子に好かれる男の子の話。才能も使命も捨てて、愛をとればいいんだ!という損得と論理とそろばんを無視した展開は、いまの物語に求められているのでしょうね。
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あらすじの最後でご紹介したキャッチフレーズ『掴めなかったチャンス、一度何かを諦めてしまった人に贈る、大人の青春物語。』は本当ですね。思い当たる方、素敵な作品なのでぜひ読んでみてください。
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