《小説感想》青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない 2014年当時の『空気』が閉じ込められている

あらすじ

――ねえ、キスしよっか。そう言って僕をからかってきた彼女は、しばらくして僕の前から消えてしまった。 図書館にバニーガールは棲息していない。その常識を覆し、梓川咲太は野生のバニーガールに出会った。しかも彼女はただのバニーではない。咲太の高校の上級生にして、活動休止中の人気タレント桜島麻衣先輩だったのだ。数日前から彼女の姿が“周囲の人間に見えない”という事象が起こり、図書館でその検証をしていたという。咲太は麻衣に協力する名目で彼女とお近づきになるが――? 海と空に囲まれた町で、僕と彼女の恋にまつわる物語が始まる。

  

物語の面白さ(印象に残った変化)

 思春期症候群という原因不明の……自然災害のような力によって、世界から存在を消されてしまう桜島麻衣。その自然災害のような力へ抗おうとした梓川咲太の物語、が本書です。

 私はこの作品は、2011.3.11を経験した日本人だからこそ、書けるものだと感じました。
 ※2006年以降流行った、ひぐらしのなく頃にの影響もあるかもしれません。思春期症候群は雛見沢症候群と似た、狂気に思えるので。

  

設定の面白さ(印象に残った設定)

 目に見えないけれど、確かに世界を支配する『空気』。これが『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』の発売された2014年4月当時、有りました。それをライトノベルの設定として残していただけたのがまず、とても面白い。

 ですが『空気』が人を見えなくする……なんて、あの当時を生きた人間でなければわからないような気もします。それだけ『空気』が強かった。それはKYが流行語にノミネートされた2007年ぐらいから、それこそ2014年ぐらいまでの間だったかと思います。

KY語(ケーワイご)またはKY式日本語は、日本語の文章を略して各単語の先頭のローマ字・数字を組み合わせた略語群。 その代表的存在であるKY(場の空気が読めない・読めてない)は、2007年(平成19年)ユーキャンの新語・流行語大賞にエントリーされるなど、大いなる注目を浴びた。

 ですが日本人の共通意識になってしまっていたがゆえに、わりと空気が支配するのは当たり前だよね?という書き方で。私はわかりましたが、後の人が読むと、少々分かりづらい(なぜそんなに空気が強いのかを理解できない)と感じました。2020年のいま、そう思うので、2014年当時の日本がどれほど異常だったか、という話ですね。

 

展開の面白さ(印象に残った展開)

 気の強い桜島麻衣が、次第に見えなくなっていく世界に不安を覚え……咲太へすがっていく姿には胸を締め付けられました。

 これは設定のところへ入れるべきかもしれませんが、理論づけにシュレディンガーの猫をつかったのは上手だと感じました。単なる超常現象ではなく、理由があるのだよと書くことで、自分たちの身の回りにも起こるかも……と感じ、読者は物語へ没入できます。

 逆に言うと、論理的・科学的な説明の隙をつける発想が、いいアイデアといえます。その点シュレディンガーの猫が思春期症候群を引き起こしているというのは、いいアイデアだと感じました。

 アイデアが出てこない問題を解決する2つの方法

  

言葉選びの面白さ(印象に残った言葉)

 悪い意味で印象に残ったのは、不機嫌な女子に対して「生理?」と言ってしまう梓川咲太の言動です。

 2011年当時なら、自然と受け入れられたのかな? 2020年のいまは正直、読むのがキツかったです。私だったら絶対こいつとは一緒に行動しないし、積極的に見下して無視しただろうなと思わされて……。大好きな桜島麻衣へかける言葉もだいたい性的なイジり(胸とかよる男の部屋にあがるのはーとか)で、確かに2014年当時は私もそんなシモネタばっかり話していたなと感じつつ、2020年の今では好きになれない主人公でした。

 ですが最後まで読んでよかった。校庭で大声で告白するシーンは、痺れましたね。

読後の感覚

 半沢直樹第1シリーズを見たあとのような感覚でした。倍返しをされつつ、「次につなげる」終わり方。思えばあの当時は24(トゥエンティーフォー)シリーズを筆頭に、次へつなげる終わり方が多かった印象です。この本もそうでした。

 しかし何より印象に残ったのは、わずか5年しか経っていないのに、『空気』を古い設定のように思ってしまったことです。

 これは私が『空気』から完全に独立した存在になったからでしょうかね? まだ世の中にはあの当時くらい『空気』に苦しめられている人はいるのだろうか。少なくとも先輩から空気読め!と叱られて、飲み会でも空気を読もうとして疲弊するような……風潮は薄れているような気がしますが、どうなのでしょう。
※この作品がいまだにこのライトノベルがすごい!に残っているってことは、『空気』がまだあると思っている人がいるってこと……かな。

  

 総じて面白い作品でしたが、設定の根本に流行を取り込むと、こういったところで損をするのかもと感じました。もしかしたら小説家になろうで流行を追っている作品にも同じことがいえる気がしていて、気をつけたいところです。

 なにせ途中で読むのをやめなくてよかった!面白い作品でした!