坂の上の雲(司馬遼太郎)は、目が醒める名著
こんにちは。
杞優橙佳です。
坂の上の雲を読破しました。(楽しかったけど、長かった)
まだ余韻に浸かっているところではありますが、エントリーを書いてみたいと思います。
この本を読むきっかけは、私の主治医からのオススメでした。
竜馬がゆくがとてもおもしろかったので、司馬遼太郎作品ということで読んでみたいという思いもありました。
全8巻、長い旅でした。読んだあとに振り返ってみれば、日露戦争時の日本の人々のほとばしるパトスを感じることができて、心の中に登場人物が息づいた気がします。このエントリーでは下記の5つの要素をもとに、坂の上の雲という作品を振り返ってみたいです。
・国で名をあげたいという若者たちの一途さと強さ
・腐敗した専制政治の中で自己保身に走るロシアの弱さと、国を憂う愛国心をもった日本の強さ
・実力主義によって構築された海軍の優秀さと、派閥主義によって構築された陸軍の無能さ
・太平洋戦争時の神州不滅の精神に対する、日露戦争時の現実主義
・戦後神格化された乃木希典がいかに無能な指揮官だったか
こういったことを語っていきます。
坂の上の雲とは
秋山好古、秋山真之、正岡子規の3名にはじまり、日露戦争の一部始終を描く大傑作です。
秋山好古は陸軍に入り、日本でこれまで源義経と織田信長しか使いこなせなかった騎兵隊の構築をまかされ、世界最強と呼ばれたロシアのコサック騎兵を打ち破るまでに成長させます。秋山真之は海軍で天才的な頭脳を発揮し、日本海海戦の参謀として東郷平八郎とともにロシアのバルチック艦隊と戦いました。正岡子規は当時廃れていた俳句や短歌を再発見して世に広め、俳句界の発展に大きく貢献しました。
彼らの動機はまさに
・国で名をあげたいという若者たちの一途さと強さ
でした。
明治維新を経て、まだ国ができあがっていない時代――試験によって優秀でさえあれば身分は関係なく洋食が与えられ、自分の力で国家をつくっていけた時代に、彼らは自分の名前をたてるために、それぞれの場所で知恵を絞りました。
ストーリーとしても「小を為して大を成す」美しさがあった。
戦わなければロシアに滅ぼされるという国家的緊張感の中で、英国の支援を受けながら国家存続のための戦争に向かっていく。旅順で陸軍海軍ともに痛めつけられたあと、兵員の補充も効かない極限状態の中、奉天決戦で敵将の采配に救われて勝利を得て、それでも講和がならないという絶望感の中で、「本日天気晴朗なれども波高し」という完璧な電報と、奇跡としか言いようのない完璧な勝利。
戦果の原因は
・腐敗した専制政治の中で自己保身に走るロシアの弱さと、国を憂う愛国心をもった日本の強さ
・実力主義によって構築された海軍の優秀さと、派閥主義によって構築された陸軍の無能さ
にあったと感じるけれども、陸軍にも児玉源太郎という優秀な大将の課題解決能力によって成果がなされており、運だけではありませんでした。
全体として日露戦争時の日本人がいかに現実主義だったかを描いた作品に感じました。情報を正確に把握し、課題をたて、その課題をどう解決するかに知恵を絞るという、まさに太平洋戦争時に失われた精神がありありと描かれていました。
この作品の面白いところは、作者の心がところどころににじみ出ていることです。徹底した太平洋戦争批判が行われ、
・太平洋戦争時の神州不滅の精神に対する、日露戦争時の現実主義
を尊重しています。
象徴的だったのは、旅順で勝利をあげ奉天決戦でも最も危険な場所で戦い続けた乃木希典に対する描写です。
乃木希典は見た目と振る舞いの洗練された武人でした。玉木文之進(吉田松陰を育てた師)の弟子でもあったようです。高い教養と知識、振る舞いによって日露戦争後、乃木希典の人気は不動のものとなったようです。
ですが司馬遼太郎の描く乃木希典は、形だけで中身のない、数万人の若者を無策に殺した無能でした。
つまり
・戦後神格化された乃木希典がいかに無能な指揮官だったか
を徹底的に書いていました。
人は見た目が9割という本が2005年頃にありました(もうあれから15年!)が、そういう印象を乃木希典にも感じていたのでしょう。実際に優秀だったのは児玉源太郎であり、乃木希典はおまけのような存在でした。その乃木希典が持ち上げられ、無能がトップに立つ世の中ができてしまった結果が、太平洋戦争という最悪に帰結したのだと司馬遼太郎は伝えたいのでしょう。
ですが日露戦争という徹底的な現実主義によって得られた完璧すぎる勝利が、日本国民に日本は神に守られた国だという錯覚を覚えさせ、神州不滅という精神に向かっていってしまう部分は、恐ろしくもありました。
翻っていまの日本
私がこの本を読んで思ったのは、かつてジャパン・アズ・ナンバーワンと呼ばれた常識が通用しなくなった今こそ、徹底的な現実主義をもたなければならないということです。
日露戦争が終わったのが1905年、太平洋戦争が始まったのが1941年。この36年の間に日本人は自分たちが優秀だと勘違いし、現実離れした妄想の中で他国に向かっていき、滅びました。
人は見た目が9割という本が世に出たのが2005年(これをターニングポイントにしているのは、能力よりも見た目を重視する時代の訪れを象徴するからです)。このままでは、あと36年のうちにまた太平洋戦争が起こるかもしれません。(コロナウイルス発生に対しての東京五輪予定通り開催など、現実離れした妄想の中で滅びに向かっている兆候がありませんか?)
歴史に学び、神州不滅の精神の復活だけはどうにか阻止しないといけません。コロナショックによって売り手市場も終わりそうですので、いよいよ能力が重視される時代になってくるのではないでしょうか。それによって日本は救われるかもしれません。あとあと見た時、コロナウイルスが日本にとっての神風だったと思えるよう、この機会を活かしていきたいですね。
最後になりますが、坂の上の雲をオススメしてくださった主治医に感謝を述べつつ、この本が好きな医師の腕前は信用できると改めて感じた次第です。
「目が醒める」作品です。
ぜひ皆さんも一度読んでみてくださいね。
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