「どんなに良い人間でも、きちんとがんばっていれば、だれかの物語では悪役になる」は英雄の真理

 Twitterである画像が「真理」として話題になっていました。その画像は「どんなに良い人間でも、きちんとがんばっていれば、だれかの物語では悪役になる」と語るおばあさんを描いたこの漫画です。

『猫のお寺の知恩さん』7巻より
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 私はこの画像をみて、ひと昔に大ヒットした「嫌われる勇気」という本を思い出しました。今回のエントリーでは、「どんなに良い人間でも、きちんとがんばっていれば、だれかの物語では悪役になる」と「嫌われる勇気」からの学びを踏まえて、英雄の描き方について書いていきます。

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「嫌われる勇気」の書く自由

 「嫌われる勇気」の中には、以下のような文章があります。この言葉は誤解されやすく、浅い理解しかできない/都合の良い言葉を好む人々を中心に「私のしたいようにする」「好き勝手に生きる」という自己中を大量に生み出したりしました。しかし「嫌われる勇気」が本当に伝えたかったのは、冒頭のおばあちゃんの言葉だったのだと感じます。

「自由とは、他者から嫌われることである」(中略)
あなたが誰かに嫌われているということ。それはあなたが自由を行使し、自由に生きている証であり、自らの方針に従って生きていることのしるしなのです。

『嫌われる勇気』岸見 一郎/古賀 史健 著 p162

 つまり、自由とは自己中に生きていいという話ではなく。信念をしっかりもち、理不尽な社会のルールや見て見ぬ振りされている悪行、常識、政治に勇気をもってNOを突きつけることです。なぜそう言い切れるかというと、英語圏で自由を指す2つの単語が、それぞれ以下だからです。

  • liberty

 →「奴隷でないこと」かつてあった奴隷制からの開放を指します。生きていくために、働いたり、財産を所有したり、市場でモノを売り買いしたり、契約を結んだりすること。

  • freedom

→「自分たちで政治をする自由」kingdom(王国)からKingを取りはらい、憲法を制定し、憲法に沿って自分たちで政治を行うこと。

 

 これらの言葉は同じ境遇の人間が、みんなより良くなることを願って作られました。海外で生まれたもので、あとから日本に輸入された概念です。もともとlibertyは奴隷全員の自由を、freedomは国民全員の自由を願って作られました。どちらも公共のためにある言葉です。そして「嫌われる勇気」の元ネタであるアドラー心理学の創始者、アドラーは「人と人は共に生きていくのだから協力・貢献していこう」と語っています。

 つまり「自由」を行使することで、=“私利私欲”のためでなく、他者のため、大きな正義のために信念をもって行動することです。だから「どんなに良い人間でも、きちんとがんばっていれば、だれかの物語では悪役になる」になるんです。悪を打ち倒すのですから。

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英雄の価値

 私が英雄を描くときに、これができたら最高だ!と感じるポイントが1つあります。それは英雄的行動の結果として、誰かが不幸になることです。

 それこそ「きちんとがんばっていれば、だれかの物語では悪役になる」ですね。どんなに「世界中の人間から愛される英雄」でも、それは正義の一面でしかなく、必ず英雄の行動のために不幸になった人がいるはずなのです。

 そして、その表現方法にもこだわりがあります。

 英雄譚の中では、英雄の行動はただひたすらに称賛されてほしい(それこそワンピースのルフィのように)。読者も、英雄の行動は正しかった!と共感できてほしい。

 その上で、別の物語の中で、実は英雄の行動によって不幸になった人がいて、その人達は英雄を恨んでいると示す。この不幸な人々は、英雄と和解するわけではなく、英雄の作り出した世界を破壊するために、つまり自分たちの自由のために行動する。

 こんな物語が書けたら最高じゃないかと感じます。

 それが書けたのが、境界を超えろ!シリーズです。境界を超えろ!2巻で、主人公のアイン・スタンスラインは、公害問題で不幸になった人々や、今後起こりうる国家間のいざこざから人々を救うため、レオパルド・コーポレーションというを発生させている会社をぶっ潰します。

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 そして続編かつ外伝である、「リーダーシップと紙とペン プロジェクト・レボリューション」の中で、アインのぶっ潰したレオパルド・コーポレーションの人々が登場し、主人公カリアスとともにアインの作り出した世界をぶっ潰そうと行動する様を描いています。

 絶対的な正義だった英雄アインの行動の結果、アインをぶっ潰す勢力が生まれる……。これこそ英雄譚であり、英雄の価値であり、ひとつの時代を描くことだなと感じています。

 作中で主人公の行動が、不幸な人も作り出していると示唆するような話は数多くあるでしょう。しかし1つの物語では主人公を完全に善として描き、別の物語で主人公の行動が別の善を作り出していた(しかも前主人公のつくった世界を否定し尽くした)小説は、日本でもほとんど無いはずです(ゲームならあるはず)。

 境界を超えろ!シリーズは、1~4巻を読んだあとに、リーダーシップと神とペンシリーズを読むと、様々な視点で正義が描かれているので、「どんなに良い人間でも、きちんとがんばっていれば、だれかの物語では悪役になる」の例を学ぶのにオススメです。

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P.S 「どんなに良い人間でも、きちんとがんばっていれば、だれかの物語では悪役になる」のが英雄の価値であるならば、誰もが英雄になりうる……私はそう感じます。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
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