《映画感想》すずめの戸締まり | あのとき「行ってきます」で止まったままの時間に、「ただいま、いま幸せです」と返事する映画

 すずめの戸締まりを見てきました。「君の名は。」から続く新海誠監督の厄災三部作の最終編にふさわしい作品でした。東日本大震災から10年半が経ち、あの出来事と紳士に向き合い、鎮魂の意味を込めて作られた作品だと感じました。

 私自身は2011年3月11日大阪にいまして、震度3程度の揺れを感じたに過ぎません。ですので本当の意味の当事者ではないのですが、すずめの戸締まりを見て、あのときテレビの中で見た津波の映像の背景に、いくつもの「行ってきます」があったのだと思うと、涙が溢れてきました。

 エンターテイメントとしても、オープニング戦、中ボス戦、ラスボス戦と3つの大きなアクションシーンがあり、飽きずに楽しめました。

 キャラクターとしては、主人公の岩戸鈴芽は活発なポニーテールの女の子で、死に対する覚悟も決まった度胸のあるキャラクターで大好きです。男性キャラクターとしても宿命を背負い儚げながら筋肉質でおかしみもある宗像草太、ちゃらんぽらんに見えて超友人思いの芹澤智也という2人のキャラクターはとても魅力的でした。

 テーマとしては、「2011年3月のあのときに傷ついたすべての方々に、あなた達の未来はちゃんと幸せだ」と伝えること・「あのときに亡くなったすべての方々に、あなた達が愛した人たちは、あなた達が残した人たちは、あなた達を失ったことに傷つきながらもちゃんと幸せになれるから安心して」と伝えることだったと感じます。

 前者は岩戸鈴芽というキャラクターを用いて、最後のシーンで直接的に伝えられました。私は映画をみながら、家の裏でマンボウが死んでるPのクワガタにチョップしたらタイムスリップしたを思い出していました。

 しかし監督が伝えたかったのは、どちらかというと後者だと感じました。この映画は鎮魂映画であり、2011年3月に亡くなられたすべての方々に捧げられた作品なのかなと。「君の名は。」や「天気の子」で多用した、作中でRADWIMPSの曲を流す演出も今作はありませんでした。音楽で興奮・熱狂させることも当然できるが、それをしなかった。興奮・熱狂するのではなく、あの出来事と真面目に真剣に向き合ってほしいとの狙いで作られた映画なのではないでしょうか。

 特典の新海誠本でも、今回のキャストの何人かは震災の記憶がほぼない世代で、観客の中でも1/3から半分くらいはこの映画を見ても震災を連想しない人がいるんじゃないかと書かれていました。だからこそ今のタイミングでこの映画を作らなければいけないと。これはどういう意味かというと、「あのときに亡くなったすべての方々に、私たちはいま幸せです」と実感をもって言える人たちがいなくなったら、鎮魂映画の意味がなくなるからでしょう。

(たぶん、ダイジンとサダイジンもあの震災の犠牲者のメタファーなんじゃないかな。映画館ではじめて見たとき、物語はハッピーエンドに終わっているものの、そのハッピーエンドの裏側には要石になったダイジンがいるのがどうにも納得できなかった。鈴芽と草太の幸せのためにダイジンを結局犠牲にするのか?と。ですがダイジンとサダイジンは、「あのときに亡くなったすべての方々」のメタファーであり、ダイジンとサダイジンがいまも要石となって世界を守ってくれているおかげで、現代を生きる私たちは幸せに生きられるというエンドを描いたのだと思います)

 まとめると、3.11の被災者の方々の想いを新海誠監督が束ねて、あのとき「行ってきます」で止まったままの時間に、「ただいま、いま幸せです」と返事することがこの映画の意味だったのでしょう。
 いまこのタイミングで、私たちが未来に進むために必要な儀式的映画だったと感じます。

 

 ただ最後に、身も蓋もない話をしてしまいますと、実は私自身は前作の「天気の子」のほうが好きです。笑

 「すずめの戸締まり」は素晴らしい作品ですが、自分に向けられた作品ではないと感じたからです。(本作は過去を悼む映画であり、自分に向けられていないなどと批判するのがおこがましい……私はそれを知りつつもエンターテイメントに対しては自分へのメッセージを求めてしまう人間です)対して「天気の子」はこの狂った世界でだって僕らは大丈夫だと、いまを生きている人たちを勇気づける映画でした。「すずめの戸締まり」が合わなかった人は「天気の子」も見てほしいですね。

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