『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』を解説!クリエイターは必ず読むべき!
みなさま、図工や美術の授業は好きでしたか? 実は13歳頃から一気に強化の人気が急落します。公立の高校ですと美術は選択制となり、美術、書道、音楽の3つから楽なものを選ぶ……なんて人も多くなるでしょう。私は美術を選択していましたが、音楽や書道と比べて一番少なかったです。
絵を書くとかものを作るのが好きな人ってなかなかいないのですね。
そんな中でご紹介するのが、「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考という本です。
この本のテーマはアートで、現代のビジネスリーダーにも絶賛されています。その理由は、現代の人たちが「自分だけのものの見方・考え方を失っている」からです。
私たちは高評価のお店で美味しい料理を味わった気分になったり、ネットニュースやSNSの投稿で世界を知った気になったり、LINEで人と会話した気になったり、仕事や日常で何かを選択・決断した気分になっています。人の意見に左右され、周囲の人が正しいとする答えに向かって進む現代人は「自分だけのものの見方・考え方を失っている」とこの本は書きます。
アート的なものの考え方(アート思考)を学ぶことで、自分だけのものの見方・考え方を取り戻そうというのがこの本の趣旨になります。
アート思考とはなにか
ではそのそもアート思考とは何でしょうか。
アート思考とは「アーティストが作品を生み出す過程における考え方、思考プロセスです。 アーティストの自己や価値観の表現を基にした考え方で、自分起点、自分軸の考えかたを重視しています」。
アート思考のポイントは3つあります。
1.「自分だけのものの見方」で世界を見つめる
自分の仕事や人生を思い浮かべたときに、どうしたいのかを見つめること
2.「自分なりの答え」を生み出す
自分はこう思う、どう働きたい、自分にとって何が人生のミッションであるかを考えること
3.「新たな問い」を生み出す
仕事とは何なのか、アートとは何なのか、人生とは何なのかを常に自問自答する力のこと
上記の3点を通じて「自分の頭で考える。自分の意見を言えるようになる。何か芸術作品を見て自分はこうしたい、こう思う、つまり自分のことを伝えられるようになる」のがアート思考のゴールです。私たちは普段、自分自身のことを10%しか理解できていません。社会人であれば就職活動のときに自己PRを書こうとして、悩んだ経験がありますよね。私たちは自分が何を好きなのか、何を嫌いなのか、何が得意なのか、何が苦手なのか、それすら分からずに普段生きています。
アート思考を高めることで「自分のことを伝えられるようになる」と素敵ですね。
アート思考の構造
アート思考は植物のような構造をしています。「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考という本の中では、アート思考の構造を3つに分けて説明しています。
1つ目は表現の花……アートの作品に当たる部分です。成果物とも言いかえることができます。私たち小説を書く人間にとっては、できあがった小説が表現の花ですね。
2つ目は興味のタネ……興味や好奇心、疑問からなるアート活動の根源となる部分です。例えば私が『境界を超えろ!』を書いたときは「誰もに愛される理想のリーダーってどんな人だろう?」という興味や好奇心、疑問が作品制作の原動力となりました。
3つ目は探求の根……アート作品が生み出されるまでの長い探求の過程のことです。興味のタネがあっても、そこから作品を作り上げるまでには長い時間がかかります。プロットを書いて、キャラクターを作って、第一稿を書いて、気に入らないからリライトして、こんな主人公じゃ愛されないと悩んで様々な本からアイデアを得て、最終稿に盛り込んでいく。そんな探求の根を広げると、一つの作品にとてつもなく長い時間がかかります。
これらの花・タネ・根によって構成されるアート思考において大事なのは、目に見える表現の花ではなく、地表に顔を出さない大部分の探求の根です。目標に向かっている時間をアート思考は大事にします。何を探求しているのか、何に興味があるのかを大事にするということです。
アート思考が重要視されている理由は数学との違いに例えることができます。
数学では、明確な唯一の答えが存在します。私たちの学校生活は正解を見つける能力を高めるためにありました。国語や英語でさえも採点するために唯一の答えが用意されます。義務教育や大学受験は答えを見つける能力の高い人が評価されます。
しかし人生に答えはあるでしょうか。今や正解の道はどこにもありません。一流企業に就職し、30歳までに結婚して、35年ローンで家を買って、子供を2人育てて60歳で引退し、年金だけで生活するというレールはなくなりつつあります。
アートというのは雲を扱うようなものです。常に形を変え一定の姿で留まらない、自分なりの答えを作る能力を育むことです。数学のように1つの答えを出すことが目的ではありません。自分なりの答えを作る能力は、私たちクリエイターにとっても必要な能力ですよね。
素晴らしい作品とはなにか
次に、素晴らしい作品とは何かを考えていきます。
私たちが絵を見たり、本を読んだりしたときに、この作品は素晴らしい!と思うのはどんなときですか? 自分なりの答えを持つことが大事だとすると……まず作品をよく見ることが大事です。アートの世界では作品を見て、感じたことをアウトプットすること(アウトプット鑑賞)が大事です。アウトプットは整った文章でなくても構いません。自分の興味をもった点や不満に感じた点を書きましょう。それらの点と点がつながると、自分が本当にやりたいことは何なのかが見えてきます。
素晴らしい作品の例をあげます。アンリ・マティスという19世紀〜20世紀にかけて活躍した画家が「アートにしかできないことは何か?」を考え、彼なりの答えを出しました。アンリ・マティスの答えにアート界に激震が走ります。その答えとは「描きたいものを自分が好きなように描く」ということでした。
え、なんでそんなことで?と思いましたか?
実は14世紀以降のアート界は「写真のように描く写実画が主流」でした。カメラもない時代ですから、お見合い用の写真も絵で描いていた時代です。お金を出してくれる人の言う通り、写真のように絵を描くのが画家の主流な仕事でした。
そんな時代にアンリ・マティスは「素晴らしい仕事とは、誰かに言われたことをやるのではなく、好きなように働くことだ」と言いました。これは彼自身が「誰かに言われた仕事をやっていくことに不満があり、本当にやりたいことは何なのかを本音でアウトプットした結果」でしょう。個性的で、これまでの常識を覆す発想です。
「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考では、この個性的・常識を覆す的な発想が大事だと書いています。
成果物をつくるまでの発想=プロセスが異なれば結果も異なるはずです。結果として成果物がほかと代わり映えしなかったとしても、そこに至る道が違っていれば何かにじみ出るものがあるはず。つまり素晴らしい作品とは、個性的でこれまでの常識を覆すプロセスによって成された仕事のことです。
例えばキャラクターの名前をネットで募集してみる……という発想を考えてみましょう。その結果、主人公の名前が山田太郎になったなら、作家は主人公の名前が「山田太郎」であることに何かしら理由をつけたくなるでしょう。主人公はスパイで仮の名前を名乗っているとか、舞台となる世界では男は全員山田太郎と名乗るとか。つまりキャラクターの名前をネットで募集してみるという新しいプロセスにより、作者の新たな発想の扉が開かれ、物語に反映されていくわけです。結果として世間一般の異世界系作品になったとしても、プロセスが違えば素晴らしい仕事です。このようなプロセスの素晴らしさを讃えていくのがアート思考の考え方です。
視点を変える、リアルとはなにか
最後にリアルとはなにかを考えていきます。パブロ・ピカソは史上最も多作なアーティストとしてギネスにも載っています。ピカソの描いた「アヴィニョンの娘たち」は、ピカソがこれまでとは違うリアルさを追求した作品です。この作品が発表されたとき、美術界の人たちは酷い絵と批判しました。
なぜなら多くの人はリアルな絵と言ったとき、遠近法で書かれた絵を思い浮かべるからです。「遠近法こそがリアルな絵を描くための唯一無二の方法だ」と人々は信じきっていたわけです。
遠近法最大の特徴は、描く人の視点が1箇所に固定されているということです。しかしピカソはその常識を疑い、「様々な視点から認識したものを1つの画面に再構成する」という彼なりの考え方を見つけ出します。
例えば小説においても、人称は大事ですよね。主人公の目線から物語を語る一人称、神の視点から物語を語る三人称などがありますが、第3の案として「三人称単元視点」があります。「三人称単元視点」であれば、神の視点でありながらキャラクターの背後にカメラを設置したように描写することができます(詳しくは下記のエントリーをご参照ください)。
『一人称小説』が難しいのはなぜ?いいとこどりの「対処法」も紹介
このように人称一つとっても、複数のやり方があります。キャラクターの作り方やプロットの作り方にも様々な方法があります。それらを学び、まだ誰も発明していない新しい手法を生み出せたなら、それだけであなたの作品は素晴らしい作品になります。成果物という表現の花だけにこだわるのではなく、プロセス=探求の根にも着目してみてください。
(キャラクターの作り方やプロットの作り方は、このホームページでも紹介していますからぜひ読んでみてください)
まとめ
アート思考のポイントは3つありました。
1.「自分だけのものの見方」で世界を見つめる
2.「自分なりの答え」を生み出す
3.「新たな問い」を生み出す
アートの成果物が生み出されるまでには、長い探求期間が存在します。そのプロセスこそが大事です。素晴らしい作品とは、個性的でこれまでの常識を覆すプロセスによって成された仕事のことです。そして自分の個性をつくるためには、アウトプット鑑賞が一つのきっかけになります。美術品を見るときだけでなく、アニメや小説、漫画を見るときにも自分が何を感じたのか、どうしたいのかを書き出してみましょう。それらの点と点がつながることで、素晴らしい作品が生まれるはずです。
「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考は、「こんな授業が受けたかった! 」と700人超の中高生たちを熱狂させ、大人たちもいま最優先で受けたい「美術」の授業をベースにしています。論理もデータもあてにならない時代、20世紀アートを代表する6作品で「アーティストのように考える方法」がわかります。この記事で取り上げたアンリ・マティスやパブロ・ピカソの作品についても、より詳しい見方が書いてあります。あなたの視点を広げてくれる本ですので、ぜひ読んでみてください。
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