挫折と失敗の違い〜好感度を高める挫折の書き方〜

2021年7月11日

 物語の冒頭、プロローグとも呼ばれる部分は、小説の最重要ポイントです。

 そして良い小説は、プロローグで最初の挫折を書いています(異世界転生ものであれば、現実世界ではパッとしないオタクで友達も恋人もいないとか。追放ものであれば、所属している勇者パーティーを理不尽に追い出されるとかですね)。

 このエントリーでは、冒頭のエピソードで好感度を高める挫折の書き方について見ていきます。

 

挫折と失敗の違い

 「挫折と失敗は、どう違うのでしょう?」

 こう尋ねられて、うまく答えられるでしょうか。この違いがわからないまま小説を書いていくと、キャラクターの好感度を上手に上げることができません。
 それでは挫折と失敗の違いを見ていきます。意味を辞書で引いてみると下記のように出てきます。

  • 失敗:《名・ス自》方法がまずかったり情勢が悪かったりで、目的が達せられないこと。
  • 挫折:《名・ス自》目的をもって続けてきた仕事などが中途でだめになること。くじけ折れること。

 これを読む限りだと同じように見えます。ポイントは、挫折にくじけ折れるという意味が含まれていることです。挫折は、ただ計画の失敗の事実を表現するだけでなく、失敗したことで受ける心理的なダメージも表していると言えます。ここに挫折と失敗の違いがあります。

 イッセー尾形の演出家として知られた故森田雄三氏は、
「挫折」とは、「自分の思い込み」が「現実(外部)の評価」に敗れること。
 だと定義しました。私もこの言葉に共感します。

 失敗は成功のもとと言いますが、失敗自体は実は悪いことではありません。
 例えば、どうせ受賞できないと思いながら出した小説の公募で、受賞できなかったとします。「失敗」ではありますが、「挫折」というほどではありません。それは、事前に想定していたからです。

 ところが、一次選考は突破するに違いないと考えていたのに、一次選考も突破できなかったとなると違います。「自分は、一次選考に突破する」と思い込んでいたのが、「現実の評価に敗れた」。
 自分の実力を見誤ったのか、公募先の求める小説が書けていなかったのか、小説家になるという目標そのものが間違っていたのか、根本的な疑問が涌いてきます。これが、「挫折」です。

 失敗した後に「目標」や「やり方」に関する疑問がわかなければ、挫折ではありません。

 例えば、小説家になろうでランキング上位を目指したが、上位に入れなかったとします。その後、今までのやり方で更に書く量を増やしたのであれば、単なる「失敗」です。
 もし、書くのをやめたり(目標の変更)、コーチや練習法を変えた(やり方の変更)ならば、それこそが「挫折」です。

 

冒頭のエピソードで書くべき挫折

 それでは、冒頭のエピソードで書くべき挫折について書いていきます。
 「挫折と失敗の違い」で書いたとおり、挫折と失敗は違います。キャラクターの行動が単なる失敗にならないことが重要です。

 単なる失敗にしないためには「現実(外部)の評価」に敗れるというエピソードが必要です。追放系の主人公は、勇者パーティの評価に敗れてパーティを追い出されるわけですから、正しく挫折しています。

 そして別の目標を目指したり(勇者パーティを追い出されてスローライフを目指したり)、チームメンバーを変えたり、能力を別の使い方をしたりすることで成功していきます。

 こう考えると、追放系の物語は、好感度を高める挫折の書き方になっていますね。

 

挫折に含める6点のポイント

 冒頭のエピソードで書くべき挫折には、下記の6点を含めましょう。これを冒頭のエピソードに含めることで、読者の好感度を上昇させることができます。

① 主人公は、失敗する前、どう考えていたか。
② 主人公は失敗をどう知らされたか。
③ 主人公は失敗をどう理解したか。
④ 主人公はその時、どんな気待ちだったか。
⑤ 主人公は「挫折」後、どんな行動をしたか。
⑥ その行動の結果、成功する。

 また、私は読者の好感度をあげるポイントとして、「⑤ 主人公は「挫折」後、どんな行動をしたか」が重要だと考えています。それはキャラクターを、どういったモチベーションで行動させるかです。

 

「マイナスのモチベーション」と「プラスのモチベーション」

 挫折した主人公のモチベーションとして2つのモチベーションが考えられます。「マイナスのモチベーション」と「プラスのモチベーション」です。 

 「マイナスのモチベーション」は、自分のことを否定し、悲観的に自分の現状を見る、いわゆるネガティブシンキングをベースにしたモチベーションのことです。「冒険者での挫折をきっかけに商売で大富豪を目指す主人公」というのは、劣等感や敗北感などをしっかり受け止め、自分は何ができないのか、何をしたらよいのかを考えて、ハングリー精神を持って努力する原動力となります。

 「プラスのモチベーション」は自分のことを肯定し、楽観的に自分の現状を見るポジティブシンキングをベースにしたモチベーションのことです。「冒険者として挫折したけど、スローライフでゆるーく生活できるかもしれない」と考えて、それに向けて頑張る主人公はプラスのモチベーションの持ち主ですね。

 もちろんそれぞれ欠点もあります。

 「マイナス」だけの場合、結果が出ないときに「自分はダメな人間だ、もう努力したって意味がない」と努力を継続できなくなります。「こうなりたくない」というNot Beで進んでいるから、悲観的になりすぎるのですね。
 逆に「プラス」だけだと、どこかのタイミングで「俺もう十分頑張ったからもういいでしょ」と簡単に満足してしまい、中途半端な結果で終わる可能性があります。

 ですので、基本路線は2つのモチベーションを使い分けることが肝心です。

 例えば「極点の炎魔術師〜ファイヤボールしか使えないけど、モテたい一心で最強になりました~」の主人公イグニは、『”最強”を目指す貴族の一族に生まれたにもかかわらず、12歳の誕生日に行われた適正の儀で、ファイヤボールしか使えないことが明らかになった』という挫折を経験します。
※適性の儀がまさしく「現実(外部)の評価」になります。

 イグニは「マイナス」のモチベーションに囚われ、自分は駄目な魔術師だと思い込みます。ですが祖父ルクスから「単一の魔術しか使えないがゆえに、理論上は最強の魔術師。それが、お前じゃ」と言われて考え方を変えます。単一の魔法しか使えない「術式極化型(スペル・ワン)の俺」ってカッケー!というプラスのモチベーションも多分にありました。

 そういう意味では挫折から成功にかけてのモチベーションは、
外部評価による挫折
・「マイナスのモチベーション」で自分を責める
・「プラスのモチベーション」で成功に突き進む

 という流れがベストかも知れませんね。

 

好感度を上げる挫折の例

 挫折のために『「現実(外部)の評価」に敗れる』エピソードが必要だと書きました。それではどういったエピソードが、「現実(外部)の評価」に敗れることになるでしょうか。

 例えば下記のようなエピソードが考えられます。

  • 組織の決めた能力ランクが低い
  • 神様から良い能力がもらえなかった
  • パーティの仲間からの評価が低い
  • 転生先で周囲からの評判が悪い(転生先が悪役令嬢、転生先が魔王など)

 これらのエピソードは、キャラクター自身の人間性には、非がありません。だから好感度を下げずに、挫折を描くことができます。例えばキャラクターが無実の人を殺してしまった結果、追放されたとしたら……それはキャラクターにも非があることになり、読者の好感度は下がってしまうでしょう。

 キャラクター自身に罪(原罪)を背負わせ、その罪を贖うために努力し続ける……というのは、いまの時代にあわないのかもしれません。
※原罪(アダムとイヴが禁断の木の実を口にして神の命令に背いた罪)を贖罪と信仰で解放するという考え方のキリスト教が、世界人口の33%に支持されていることから、罪を贖うために頑張るというのは普遍的な考え方でしょうけれど。キリスト教徒のほとんどいない日本では支持されないのでしょう。

 

 もし、罪と贖罪こそが挫折だと思いこんでいた場合は、ぜひ先程あげた『「現実(外部)の評価」に敗れるエピソード』を活用してみてください。キャラクター自身の人間性に非がない物語は、読む上でストレスが少なく、好感度を上げながら多くの読者を獲得できますよ。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
このホームページは創作者支援サイトです。
創作者の方向けの記事を発信しています。