《映画感想》響-HIBIKI- 面白さ解説
出版不況の文学界に突如現れた天才少女、『響』。15歳の彼女の小説は、圧倒的かつ絶対的な才能を感じさせるもので、文学の世界に革命を起こす力を持っていた。文芸誌「木蓮」編集者の花井ふみとの出会いを経て、響は一躍世の脚光を浴びることとなる。しかし、響は、普通じゃない。彼女は自分の信じる生き方を絶対曲げない。世間の常識に囚われ、建前をかざして生きる人々の誤魔化しを許すことができない。響がとる行動は、過去の栄光にすがる有名作家、スクープの欲だけで動く記者、生きることに挫折した売れない小説家など、様々な人に計り知れない影響を与え、彼らの価値観をも変え始める。一方、響の執筆した処女作は、日本を代表する文学賞、直木賞・芥川賞のダブルノミネートという歴史的快挙にまで発展していく。(C)2018映画「響 -HIBIKI-」製作委員会 (C)柳本光晴/小学館
http://www.hibiki-the-movie.jp/
欅坂46に遅ればせながらハマっております。
そこで欅坂の絶対的エース、平手友梨奈が主演しているということで、映画『響』を見ました。文学少女を題材とした作品というのも、興味があったので。
こちら、天才の正直さと、それをとりまく社会の変化を描いた作品でした。
言葉を大事にしている子
天才・響は言葉を大事にすることして書かれていました。
殺すと言われたら、殺されないように指を折ることをためらわない子です。
喧嘩の落とし前をつけろといわれたら、学校の屋上から身を投げることもためらいません。自分の言葉に対する責任感が半端ないのです。結果、屋上から落ちてもケロリとしています。誰かを恨むことがないのは……天才の特徴かもしれません。人生に起きたあらゆることが、自分の決断だから、誰にも責任転嫁をしないのです。
誰もが適当にやり過ごしている日常会話まで、彼女は本気で読み解いて向き合っています。この言葉に対する素直さは、終始変わりませんでした。
これは何の物語か?
物語とは、何かが変化する話です。
だとすると、この映画は何の物語だったのでしょうか。
響という天才の中身は、物語を通して変わっていません。物語と呼べるのは、彼女の才能が次第に認められて、社会のなかで彼女の立ち位置が変化していくという部分でしょう。
そして、彼女の周辺の会社や人々、これらが変化していくという部分でしょう。
会社の成長物語
編集者の花井ふみは、響の応援者であり、響の立ち位置がどう変わっているのかを説明する案内人として配置されていました。
花井ふみは、応募要項が守れていない(電子データのみ受付の新人賞に紙で応募してきた)から廃棄といわれた響の作品を拾い上げて、響の作品を最初に認めてくれた人。住所も本名も知らない響のために徹夜で原稿を電子データ化してくれて、響が奇天烈な行動をした際も守ってくれた人です。
けれども彼女は響に寄り添うことは実のところしていなくて、新人賞に残るなんて凄い、芥川賞・直木賞のダブル受賞なんて凄いと響を褒め、最後は100万部の印税は1億4000万円よと声を輝かせます。
ですがそれらの言葉は響には何も響いていません。響は一貫して「賞なんて関係ない」人ですし、、最後の1億円の使いみちを聞いたら、花井ふみは失神するのではないでしょうか。彼女はあくまでも響を理解する人ではなく、社会の立ち位置の変化を指し示す人でした。
天才を前にして変わらざるを得なかった凡人
響が社会で立場を変化させたことにより、気持ちを変化させたキャラクターもいます。文芸部の先輩で部長の祖父江リカですね。
祖父江リカは、有名小説家である父を持つ、文芸部の部長です。おそらく小説家の娘だというプライドがあるのでしょう。文芸部の本棚を面白いものと、つまらないものに分けて本を並べ、響からケチを付けられると本気で抵抗します。
(後半で、この本棚をわけるというアイデア自体が父親の発想だとわかります。彼女は一貫して天才に憧れる凡人でした)
彼女は当初、響に対して当初売れ行きでマウントをとろうとしていたように思います。それは有名小説家である父親、祖父江秋人の名字をつかって、デビュー作を世に発表したことからもわかります。しかし、響の小説が小説家界隈で話題になる一方、リカの小説は新人賞にも芥川賞・直木賞にも、かすりやしません。
プライドから響と仲良くできない彼女は、花井ふみが直すから自分の作品がわからなくなっちゃったと言い訳しますが……それも響に「ダメ出しを受け入れて書いた結果つまらなくなったなら、リカの責任」と切り捨てられます。最後は、グジグジ悩まず書きたいことを書く……ことを宣言し、響と仲直りしました。
※最後、リカが唯一マウントをとれていた売れ行きでも、響が圧倒的に上回ります。そこまで執拗に凡人をいじめなくてもいいじゃないかと思うのですが……スタッフは徹底していました。
表現の面白さ
物語の開幕、「初版600部ですか」という一言だけで、出版社のピンチを示す手法が使われていました。特に出版業界が不況だとか、会社が傾きかけていると明言しなくても、初版600部で十分衰退が表せます。
このスタートにより、追い詰められていた出版社が一人の天才によってどうやって変わっていくのかを描くのかな?と頭の中で道筋がたてられました。
初版600部から、リカの処女作20万部、そして響の処女作100万部まで。数字はぐんぐんとあがって、出版社の成功物語として読み解くこともできました(その裏で、天才は成功と程遠い状態で終わるのが対比されていて面白いです)。
設定の面白さ
「権威ある賞」は、物語上の目標にもってこいですね。
新人賞の最終選考→新人賞受賞→芥川賞・直木賞といったステップアップがわかりやすく、視聴者に響きの凄さを印象づけてくれました。響自身が能動的に望んでいなくても、社会が彼女を認めていくことをわかりやすく示していました。
※現代ドラマで描くなら、フォロワー数とか、Youtubeの視聴者数なんかも、主人公の知らないところで話題になってる感を出せるアイテムですね。影響力を描くための方法論として、メモしておきたい展開です。
展開の面白さ
新人賞の最終選考→新人賞受賞→芥川賞・直木賞とステップアップしていく度に、社会の嘘にさらされて響がつぶされそうになるのも、展開として非常に面白かったです。響の友だちである祖父江リカに、頭悪そうだね、援交してるのというキジマ先生。響の暴行を引き出そうとして、本当にあなたの作品なの?と煽る記者。
※社会でのし上がっていくと、嘘まみれの世界に晒される……そうしないと足をすくわれて潰されるという示唆でしょう。だから正直者の天才はのし上がれないという。これは社会ドラマを書く上では外せないポイントですね。偉い人を書くなら、嘘を書かないと本物にならない。
キジマ先生についてもう一つ。つまらないと言われて、よくわかってるじゃないかというキジマ先生も好きです。響と天才同士わかりあっている雰囲気が特に。「芥川賞をとってから、世の中に言いたいことなど特に無い」なぜ書き続けてるの?と聞かれて、「惰性だよ」「自分の世界と現実に折り合いがついちまった感覚」と正直に告白できるのは、キジマ先生も天才だからでしょう。
※無礼講で天才同士がわかりあっていくなか、その横で花井ふみが頭を下げていたのが印象的。本質を理解できない凡人は、無礼をわびることしかできない……これもありがちな展開ですが、メモしておきたいですね。
まとめ
欅坂46の平手友梨奈が主演しているということで、観てみた作品でした。天才はマイペースで生きているだけなのに、凡人は天才のまわりで一喜一憂してしまうという、現実をつきつけるような作品でした。
そしてこの映画には、天才が報われないという裏テーマがあるように思います。響は社会で認められていきますが、彼女の生活は何も変わらないし、得たお金も失っていきます。これは欅坂46を脱退せざるをえなくなった平手友梨奈の人生を、重ね合わせているのかもしれません。
映画のキャラクターになりきるのではなく、女優自身を映画に投影していくような。そういう意味では、この映画は平手友梨奈の二次創作に近いのかもしれません。
(もちろん響に原作があるのは知っています)
ここで思い出したいのは、キジマ先生の「自分の世界と現実に折り合いがついちまった感覚」という言葉です。これは将来響も変わっていくことを示唆している気がします。現実と折り合いがつくまで響は、きっと報われない日々を過ごすのでしょう。
変わらない天才はいずれ変われるのか。いずれ変われることが救いになるのかもしれない……そう感じました。
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