物語を書くとき「大切にしているもの」はなんですか?|創作の原点を見つめ直す

2019年10月3日

あなたは自分の物語で、何を大切にしていますか?

「大切にしているもの」とは、言い換えれば表現したいもの。それが作品の作風を決め、読者に伝わる感覚を決め、最終的には書き手のアイデンティティそのものになります。

この記事は「テクニック」の話ではありません。もっと手前にある「姿勢」と「価値観」の話です。

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「大切にしていること」は作風を決める

多くの作家さんの作品を読んでいると、異世界転生ものひとつとっても作風がまるで違うことに気づきます。

それはきっと、大切にしているものがそれぞれ異なるから。

たとえば――

作り込んだ重厚な世界観を表現したい

癒やされる物語を書きたい

最高に気持ち良い展開を書きたい

この3つでは、まったく違う作品になりますよね。やりたいことが作風を決めていく。当たり前のようで、意外と自覚できていない書き手は多いものです。

大切なものと「やっていること」の不一致

ここが一番伝えたいポイントです。

作者の「大切にしていること」と、実際に「やっていること」が一致していない作品は、少しもったいない。

そんなことあるわけないと思うかもしれませんが、意外とあります。

例1: 気持ちいい展開が書きたいのに

「最高に気持ち良い展開を書きたい」という願望があるのに、「世界観が作り込まれていないと突っ込まれる」という恐れから、地の文で設定描写をひたすら書いてしまう。

結果、テンポが悪くなり、肝心の「気持ちいい展開」に辿り着く前に読者が離脱する。

例2: 重厚な世界観を描きたいのに

「作り込んだ世界観を表現したい」にもかかわらず、流行りに合わせて癒し系キャラを無理に登場させ、その振る舞いや台詞に悩んで筆が止まってしまう。

どう考えても窮屈な作品になります。

作家の方なら、思い当たるところがあるのではないでしょうか。

表現したいものとやっていることを一致させる

この「不一致」に気づいたら、修正するのは難しくありません。

自分の表現したいものばかりで構成された作品を書けばいい。

たとえば「気持ちいい展開」が書きたいなら、必要最低限の描写さえできていれば、あとは細かい設定描写はせず、次の展開へどんどん進めたほうが読者は気持ちよくなってくれます。

究極、会話劇だけでも物語は成り立ちます。無理に苦手な描写を頑張る必要はないのです(もちろん「うまくなりたい!」という向上心は常に持つべきですが)。

自分の表現したいところとは違うポイントで読者に失望され、読むのをやめられたら悲しいですよね。だからこそ、自分が何を表現したいのかをハッキリと見定めてから執筆に向かうことが大事です。

プロ作家たちが「大切にしていること」

2024-2025年のインタビューから、作家たちが語る「大切にしていること」を拾ってみます。

村田沙耶香(芥川賞作家)は、「自分の中の違和感を書く」ことを一貫して大切にしています。常識とされるものへの疑問を物語にする――それが『コンビニ人間』以降も変わらない彼女の創作の核です。

凪良ゆう(本屋大賞受賞)は、「社会の枠組みに収まらない人間関係」を描くことを使命としています。『汝、星のごとく』で描かれた愛の形は、まさにその価値観の結晶でした。

米澤穂信(直木賞作家)は、「日常の謎」を通じて人間の小さな悪意や善意を浮かび上がらせることをテーマにしてきました。

共通しているのは、自分の中にある「これが気になって仕方がない」という感覚を、物語に変換していること。大切にしているものは、テクニックでは作れない。自分の内側から湧き出るものです。

作者の願望を「読者の体験」に変換する

自分の大切なもの=表現したいものが見定められたら、次のステップがあります。

それを読者に伝える。

ただし、作家が「僕は○○を書きたいんです!」と願望をそのまま言っても、「あなたはそうなんですね」で終わってしまいます。

ポイントは、自分の願望を「読者に体験してもらいたいもの」に変換して伝えること

• 作り込んだ重厚な世界観を表現したい
作り込んだ世界観を読者に体験してもらいたい

• 癒やされる物語を書きたい
物語を読んで読者に癒やされてもらいたい

• 最高に気持ちいい展開を書きたい
全てが思い通りに進む展開で、読者に気持ちよくなってもらいたい

こう書けば、読者も「なるほど、こういう楽しみ方をすればいいのか」とわかってくれます。

あらすじ・タグ・冒頭文で「この物語はこう楽しんでほしい」というメッセージを、さりげなく忍ばせてみてください。

私の場合 ――テーマは「勇気」

最後に、私自身の話を。

代表作『境界を超えろ!』で大切にしていることを、読者の体験に変換して書いてみます。

あらすじ
人生のどん底にある自分を救ってくれた人を、自らの手で殺してしまった主人公アインが、その人が生きていたらどんなふうに生きたかを考え、世界の問題解決に向けて世界を駆け、世界中の誰からも愛されていく話。

1巻 ── 困難に立ち向かう主人公の姿を見て、勇気づけられてほしい。

2巻 ── 過去を克服した主人公が周囲の人間を変えていく様を見て、つらい時間の後にはまばゆい未来が広がっていると勇気づけられてほしい。

3巻 ── 世界の頂に登った主人公が、世界を守るために戦うのだが、子供たちを戦争に駆り出したくない思いとは裏腹に、子供が世界を救っていく。思い通りにならない世界でも自分のやれることに向かっていく主人公に勇気づけられてほしい。

テーマは勇気

自分と向き合い、本当にやりたいことを見定め、その強みを全力で活かす。それが創作の原点だと思っています。

まとめ ――自分の「大切なもの」を知ることが、最初の一歩

大切にしているもの=表現したいものが、作品の作風を決める

• 「大切なもの」と「やっていること」が一致していないと、作品がぼやける

• 自分の願望を「読者の体験」に変換して伝えれば、読者とのミスマッチが減る

• まずは自分と向き合うことが、すべての出発点

特に一作目は、最後まで書ききることが何より大事です。自分の表現したいものばかりで構成された作品なら、楽しくて筆が進み、完結させられる。

「自分が何を大切にしているか」がまだ言語化できない方は、白い部屋の思考実験で掘り下げてみてください。


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