ヒット作の法則: 「追憶」をうまく活用する追憶スタイルがウケる

現代の物語は、「追憶」をうまく活用した作品がヒットしています。「追憶」とは過去のことを思い出してしのぶ(過去や遠くの人・所を恋い慕う)ことです。

例えば、葬送のフリーレンが魅力的なのは、この追憶をうまく活用しているからですよね。

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「葬送のフリーレン」は「追憶スタイル」の最高傑作

物語の舞台は、千年以上生きるエルフの魔法使いフリーレンが勇者ヒンメルたちと共に魔王を打ち倒し、世界に平和をもたらした「その後」の世界を描く。魔王を倒してから50年、勇者ヒンメルは亡くなり、フリーレンはなぜもっと人間を知らなかったのかと後悔する。フリーレンはひょんなきっかけで弟子となったフェルンとともに、かつて旅した魔王城への道を再び歩き出す。

はるか昔より、ロードス島戦記やドラゴンクエスト、ファイナルファンタジーなどのオリジナル作品に対して、勇者の旅アフターを描く同人誌は多数存在していました。しかし、それをオリジナルでやることは難しかったし、ヒットしませんでした。葬送のフリーレンが上手だったのは、人間ではなく長寿のエルフを主人公にしたことです。二代目、三代目の人間の勇者が旅をしても、そこには「追憶」はありません。エルフが自分の記憶から過去や遠くの人・所を恋い慕うことで、「葬送のフリーレン」の魅力はできているのですね。

 

いま「追憶」がウケるわけ

「葬送のフリーレン」自体、素晴らしい作品ですが、淡々と進むこの物語がなぜウケたのでしょうか。

私の会社でも「葬送のフリーレン」の何が面白いのか?が話題にあがったことがあるのですが、淡々と進むところがいい、作画がいい、なんか良いなど、言葉にできていない人も多かったです。

私はそのときコメントしませんでしたが、ようは、漫画や小説の消費者が高年齢化していく現在において、年長者は「あの頃はよかったね!や、あれを知らないの?を物語の中で追体験できること」、若者は「最強の年長者が見守る中で、新世代が仕事を任せられて成長していくこと」に、魅力を感じているのではないでしょうか。

そういう意味だと、同じ追憶系でも「異世界おじさん」は前者の年長者の支持を得ていたが、後者の若者の支持は少なかった。

おっさんが異世界に転生して活躍したり、おっさんが追放/引退してスローライフを楽しんだりするストーリーも、本質的には前者の年長者にしかアピールできなかった。

それを改善して、年長者も若者も等しく楽しめるようにしたのが「葬送のフリーレン」なわけです。

 

「追憶」スタイルが実現できた理由

「葬送のフリーレン」が追憶スタイルを実現できた理由はいくつかあります。

ひとつは「魔王を倒す勇者パーティの物語」のテンプレートが、読者のほぼ100%に浸透しており、細かく描写をしなくても、こういう旅があったんだろうと読者に共通認識されていることです。

例えばドラゴンクエスト1が発売された1986年にこの物語を書いても、勇者ヒンメルたちはどうやって魔王を倒したの?が引っかかって、読者はスムーズにこの漫画を読み進められないでしょう。2020年代を生きる私たちがフリーレンを容易に受け入れられるのは、この35年以上のサブカルチャーの歴史の賜物です。読者に、書かれていない過去を追憶させるためには共通認識が必要なんです。(物語の中でこういうことがあってーと、書くのは難しいんですよね。短くしようと説明的になれば興醒めしますし、長く叙情すると本題に入るまでに時間がかかり過ぎます。フリーレンの過去編の長さはちょうどよかった)

 

ふたつめに、年長者の落ち着いた仕草や、育てる行為を物語に含めることができるのは、編集部と漫画家のチームプレイの賜物でしょう。

個人プレーが主のWeb小説だと、どうしても子供っぽい描写が増えるし、一人称の小説で主人公が別のキャラを育てる描写が難しいため、出てきにくい傾向の作品です。冨樫先生のような天才の個の力が重視された時代から、複数世代のチームプレイでものを作り出していくコミュニケーションの時代になってきたからこそ、生まれた作品だと感じます。

※下記エントリーにて、単なる天才の個の力では、勝てない時代になったことを書いています。

 

「追憶」の手法は他にもある

ここまで「魔王を倒す勇者パーティの物語」をうまく活用し、「追憶」を作り出したフリーレンの話をしてきました。

しかし、現代日本においては、もうひとつ圧倒的な共通認識がされている「追憶」のネタがあります。それは学校生活です。今後はどんどん私立やインターナショナルスクールなど多様性が進んでいくでしょうが、教育基本法が変わらない限り、義務教育の期間は変わらないため、小学校、中学校、高校という基本的なテンプレートは変わらないでしょう。

「追憶スタイル」を作りだす最強の方法は、学校生活を思い出す物語を書くことです。

最後に、映画「ラストレター」から学校生活のキラキラが全て含まれた追憶の言葉を書いて、このエントリーを締めくくります。

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卒業生代表のことば / 遠野未咲( 映画 「ラストレター」監督・岩井俊二 より抜粋 )

卒業生代表のことば

本日私達は、卒業の日を迎えました。高校時代は、私達にとっておそらく生涯忘れがたいかけがえのない思い出になることでしょう。

将来の夢は、目標はと問われたら、私自身まだ何もわかりません。でもそれでも良いと思います。私達の未来には無限の可能性があり、数え切れないほどの人生の選択肢があると思います。ここにいる卒業生一人ひとりが、いままでもそしてこれからも他の誰とも違う人生を歩むのです。

夢を叶える人もいるでしょう。叶えきれない人もいるでしょう。辛いことがあった時、生きているのが苦しくなった時、きっと私達は幾度もこの場所を思い出すのでしょう。

自分の夢や可能性がまだ無限に思えたこの場所を、お互いが等しく尊く輝いていたこの場所を。

卒業生代表 遠野未咲

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ラストレターは追憶の物語としてよく出来ているので、こちらもご覧になってみてください。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
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