小説の適度な「登場人物の人数」とは?
本エントリーでは、『小説の適度な登場人物の人数』について書いていきます。
小説において「登場人物の人数」は難しい問題です。増やしすぎると、ひとりひとりのキャラクターが薄くなってしまいますし、少なすぎても華がない、淡々とした作品になってしまいます。
書き始めのころは、登場人物は多ければ多いほど良いと考えがちですが、増やす際にもコツが必要です。本エントリーでは、小説の適度な登場人物の人数を解説します。ぜひ読んでみてください。
小説の適度な登場人物の人数
登場人物は最低3人、多くても5人としましょう。
これは一般的なライトノベル第1巻10万文字における目安です。
理由は、物語を作る際に「主人公」と「否定者」と「肯定者」の3役を考慮することが重要だからです。
「主人公」:明確な主張を持つキャラクター
「否定者」:主人公の主張に反対するキャラクター
「肯定者」:主人公の主張に同調するキャラクター
最低3人の内訳は「主人公×1」と「否定者×1」と「肯定者×1」の3役。
5人の内訳は「主人公×1」と「否定者×2」と「肯定者×2」もしくは「主人公×1」と「否定者×3」と「肯定者×1」、「主人公×1」と「否定者×1」と「肯定者×3」です。
3役で主張を対比させて進めることで、読者を物語に引き込むことができます。
※「主人公」と「否定者」と「肯定者」の3役については、DKさんがまとめておられますので、参考にしてください。
キャラは役割で考えて作ろう、という図解。 「主人公」と「否定者」と「肯定者」の3役で、考え方の比較して、読者・観客が興味、関心をもって楽しめるように作ることが大事。 キャラの設定情報だけ詳しく決めてもダメよ。面接で履歴書だけ見せられてもキャラを把握できんでしょ?
第2巻ではさらにキャラクターを加えられる
ライトノベル第1巻10万文字における登場人物の人数の目安は、最低3人から5人でした。
第2巻では第1巻のキャラクターに加えて1名~3名を加えることができます。
理由は第1巻の時と同じで「主人公」と「否定者」と「肯定者」の3役を考慮することが重要だからです。
第2巻の場合は、以下のパターンでキャラクターを増やすことができます。
・あらたに「主人公」と「否定者」と「肯定者」の3役をプラスする
→新たな主張をする主人公と、否定者と肯定者も加えて物語を拡張する方法です。世界観が魅力的な小説で使えます。例えば「十二国記」。これは神仙や妖魔の存在する中国風の異世界を舞台にしたファンタジー小説シリーズで、同じ世界観で別の主人公を立てても成立します。
・あらたに「主人公」と「否定者」をプラスする
→新たな主張をする主人公とその否定者をプラスし、第1巻で登場済みのキャラクターを肯定者として使う方法です。第1巻で登場済みのキャラクターは助っ人として参戦するイメージです。「キノの旅」のように各地を転々と旅する物語に適するでしょうか。
・あらたに「否定者」をプラスする
→新たな否定者をプラスし、第1巻で登場済みのキャラクターを主人公、肯定者として使う方法です。第1巻で肯定者を多めに(3名)出しておき、第2巻では肯定者の1人を主人公として深堀するパターンは王道です。「この素晴らしい世界に祝福を!」は2巻でめぐみん主人公の物語を書きましたね。
※もちろん、1人も新しいキャラクターを付け加えることなく、第1巻のキャラクターを深堀りするのも1つの手段です。
小説の「登場人物が多すぎる」問題を解決する3つのコツ
もちろん、上記は目安であり、登場人物の人数は書き手は「自由」です。
登場人物を無尽蔵に増やすことも可能です。
例えば私の作品はKindle小説3冊10万文字で登場人物が50人以上登場します。
登場人物が多い作品を書く際のコツを3つ紹介します。このコツを実践することで「登場人物が多すぎる」問題を防ぐことができます。
1つ目は「メインキャラクターの人数」を絞ること
私の場合はメインキャラクターは主人公のアイン・スタンスライン1名に絞りました。
肯定者はピーキュー、ウェールズ、サイトウ、リングリット、ライロック、グイン(否定者→肯定者)、ルミナス、レイアス、バルディッシュ兄弟と多いですが、肯定者の深堀りはほぼしていません。主人公アインとの馴れ初め、主人公アインの歩みを助けたエピソードのみが語られます。
否定者も多いですが、概念的な敵をいくつか用意しました。村の神、オースティアの世論、ロマリアを侵略するストライト、レオパルド・コーポレーションは顔のない敵です。
具体的な敵キャラクターはグイン、ルノワール、ブラエサル、皇帝の4名のみに絞っています。
2つ目はキャラクターイラストを全員分作成する(別メディアを活用)こと
文字だけで50人のキャラクターをかき分けることは困難です。簡単にキャラクターを特徴づける方法は、語尾を変えたり、方言で語らせることですが、50名のキャラクターが独特の話し方をすると読者は情報量の洪水で混乱するでしょう。
そのためセリフで特徴づけることは極力避け、キャラクターイラストを全員分作成して見た目で違いをあらわすようにしました。
イラストは強い力があり、キャラクターの描写がほぼなくても、イラスト化してしまえば見分けがつくようになります。
3つ目は1度に登場するキャラクターを絞ること
私は(主人公に旅をさせることで)1度に登場するキャラクター数を絞るようにしました。
旅をさせると、特定地域のキャラクターはその地域のエピソードが完了した時点で、一時的に離脱させることができます。
1度に登場するキャラクターが増えすぎると、会話シーンも長くなり、かき分けも難しくなります。キャラクターを増やすのであれば、増やしただけキャラクターを離脱させる試みも必要です。
例えばアメリカのモダン・ホラー小説家で『書くことについて』という名著を書いたスティーブン・キングは「原稿が全く進まなくなったとき、登場人物を半分殺害したことで筆が進んだ」と語っています。キャラクターを上手に離脱させることも、登場人物の人数を増やす際のポイントです。
「登場人物が多い」イコール「群像劇」ではない
登場人物の人数について書いてきました。ここで1つ重要なポイントがあります。
それは「登場人物が多い」イコール「群像劇」ではないということです。
群像劇とは、複数の登場人物が入り乱れて、同じ時間軸の上で違う話を複数展開していくという物語です。
例えば「かがみの孤城」がそうです。
「かがみの孤城」は映画にもなっており、7人の登場人物が悩みを解決していくストーリーです(7人の悩みは以下に羅列しています)。
登場人物が多くても「否定者」や「肯定者」は物語の中で変化する必要がありません。「否定者」や「肯定者」の役割を与えられていないキャラクターは言わずもがなです。
しかし、群像劇は単に登場人物が多いだけではなく、『すべての登場人物が、作中で変化します』。
例えば小説1冊10万文字で、群像劇を書こうとすると、これは非常に難しい。
やりやすいのは3人のパターンです。私の大好きなリコリス・リコイルも3者の群像劇にまとめられます。
「主人公」:肯定者、否定者とのやり取りにより、最初の主張を変化させる(錦木千束)
「否定者」:最後まで否定者として対するが、クライマックスで肯定者に変化する(真島)
「肯定者」:冒頭、否定者として登場するが、主人公と接することで肯定者に変化する(井ノ上たきな)
※変化のさせ方は3つの雛形があります。以下のエントリーにも書いていますので参考にしてください。
小説家が他作品から「登場人物の人数」を参考するときの注意
最後に、小説家が他作品から「登場人物の人数」を参考するときの注意を書きます。
アニメ・漫画を参考にするのはやめたほうが良い
例えば「僕のヒーローアカデミア」は、漫画37巻、アニメ第6期時点で登場人物が115名もおり、メインキャラクターでも20人以上います。しかしどんなに「僕のヒーローアカデミア」が面白くても、小説家はこの漫画を参考にすべきではないです。
「僕のヒーローアカデミア」がキャラクター数を増やせる理由は、視覚的にキャラクターを特徴づけられるためです(かつ名前も能力を反映したわかりやすいものになっています)。
小説家がマネをしたい場合は、最低限、私がしたように全キャラクターのイラストを作る必要があるでしょう。
また、アニメも小説の参考にするのは不向きです。
アニメの強みは声優さんの声があることです。同じような見た目、話し方のキャラクターでも声で明確に区別できます。
例えばリコリス・リコイルのキャラクターはリアルJKの言葉遣いが特徴的でした。主人公の錦木千束は女性らしい言葉遣いのときもあれば、男っぽい言葉遣いのときもあります。しかしそのリアル感を小説で表現すると、いま喋ってるキャラクター誰?となりかねません。
リアル志向の作家さんは、語尾を特徴的にするラノベ的演出を嫌うことがあります。ですが、小説は文字だけでキャラクターを区別しなければいけないので、語尾を変えるなどの小技も必要となります。
長期連載作品を参考にするときは1巻を参考にする
長期連載作品が盛り上がっていくにつれ、この作品のような作品を書いてみたい!と感じることが増えるでしょう。
しかし長期連載作品を参考にするときは1巻を参考にしましょう。
例えば先ほど紹介した「僕のヒーローアカデミア」は、漫画37巻、アニメ第6期時点で登場人物が115名います。小説第1巻で115人出すというのはさすがに無謀です。1巻につき3人ずつくらい増やしていき、35巻のシリーズでようやく115人に到達するイメージでしょうか。
登場人物は徐々に増やすことが鉄則です。参考にするときは、好きな作品の1巻を参考にしましょう。
余談:新海誠シリーズは参考にするのにちょうどよい
小説1冊10万文字の登場人物は3人~5人がよいと書きました。この点で新海誠シリーズ(君の名は。、天気の子、すずめの戸締り)はちょうどよい塩梅です。
私が一番好きな「天気の子」を例にとると、登場人物は主人公の森嶋帆高と天野陽菜。肯定者の天野凪、須賀夏美、須賀圭介。
否定者は天気の巫女の呪いを主軸としつつ、刑事のようにわかりやすい敵もいます。コメディからシリアスに展開していく物語で、ストーリーもライトノベル向きです。登場人物の描き方の参考になるかと思います。
何より、映画1本を小説にしたらこうなるんだと塩梅がわかります。おすすめです。
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