エポックメイキングな作品は、後から見ると平凡に見えるというパラドックスを探る。

 画期的な作品が、後から見ると常識的なものとして受け入れられることはよくあることです。例えば、高橋留美子の少年漫画『うる星やつら』は、「金持ちの娘」「貧乏人の娘」というありきたりなキャラクターから、個性的なキャラクターや役割を生み出し、物語の中の女性像に劇的な変化を与えました。

 しかし、その革新性にもかかわらず、そのインパクトは時代とともに忘れ去られ、現在、そのアイデアを活用した他の作品と比較すると、物足りなさを感じてしまいます。

 今回は、このパラドックスがどのように発生し、なぜ発生したのかを探り、その教訓を私たちのエポックメイキングな作品作りにどう生かすことができるかを考えてみます。

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パラドックス入門

 パラドックス(paradox)とは、ある文が自分自身と矛盾しているように見える言葉の綾のことである。ギリシャ語では「信じられない、意見や予想に反する」発言という意味でパラドクサと呼ばれ、これがパラドックスの語源となりました。

 パラドックスは様々な作品に見られるが、エポックメイキングな作品(その作品の出現の以前と以後とで社会的に大きな違いが生ずるような画期的作品)が、あとから見るとまったくエポックではなく平凡に見えるというパラドックスは、特に興味深いです。

『うる星やつら』の新しさを検証する

 1978年に高橋留美子が発表した『うる星やつら』は、男性向けの作品に、よりリアルで多彩な女性キャラクターを登場させた代表的な作品として知られています。うる星やつら」の特筆すべき点は、女性キャラクターの多さです。それぞれのキャラクターが個性的で、当時の一般的なキャラクターとは一線を画していました。地球侵略を目論む宇宙人・鬼族代表幼なじみの恋人、いたずら好きのお嬢様、二面性のあるぶりっ子、喧嘩っ早いショートヘアの美少女など、さまざまなキャラクターが登場しました。このようなキャラクターは、当時としては新しいコンセプトでした。新しいテーマやモチーフを取り入れたことで、人気を博したのですね。

エポックメイキングな作品の特徴

 では、エポックメイキングな作品には、どのような特徴があるのでしょうか。一般的には、大きく3つの特徴があると言われています。

 まず、「革新性」です。革新=イノベーションとは、新しいアイデア、装置、方法などを導入することと定義されますが、エポックメイキングな作品は、従来の常識を覆し、新しいものを導入していることが特徴です(うる星やつらの場合は、旧来の女性観をぶち壊しました)。

 2つ目は、「観客との深い感情的なつながり」です。この感情的なつながりは、深く記憶に残るキャラクターやストーリーから生まれることもあれば、革新的な技術のインパクトから生まれることもあります。あの作品は凄い!あの作品のキャラクターがいい!と言われるような作品ということですね。最近ですと、リコリス・リコイルの錦木千束は革新的なキャラクターで、それによって観客の心を掴んだのではないでしょうか。

 最後に、「普遍的な受容性」です。エポックメイキングな作品は、文化や世代の壁を越えて、様々な観客に日常生活の定番として広く受け入れられていきます。これはつまり、作品の描いた光景が、誰もが望む理想の未来ということです。うる星やつらの例を見る限り、「抑圧されるよりは自由のほうがいい」というのは一つの普遍的なテーマでしょう。あとは「絆」も普遍的なテーマの例として挙げられます。

 そしてこの普遍性がゆえに、後発作品にも真似されて、いつしかエポックメイキングだった作品が、次の時代のスタンダードとなり、陳腐化していくのでしょう。こう聞くと、もしかしたらあなたは、陳腐化するのは嫌だと感じるかもしれません。しかし後から見た時に、あの作品以前と以後で物語の作り方が違う……と気づいてくれる人が必ずいるはずです。そして重要な作品として教科書に乗っていくのは、こうしたエポックメイキングな作品たちです。

エポックメイキングな作品を作る

 エポックメイキングな作品を作るなんて無理な話だと思うかもしれませんが、それでも目指す価値はあります。エポックメイキングな作品を作るには、先ほど説明したとおり、革新的であること、観客とつながり、多くの人に受け入れられる作品にすることを忘れてはいけません。

 革新的であるためには、新しいアイデアやアプローチに注目することが重要です。そして、観客と心を通わせるためには、深い意味を持つキャラクターとストーリーを持つ作品にすること。最後に、多くの人に受け入れられる作品にするためには、文化や世代の垣根を越えられる普遍的なテーマを持ち、なおかつ面白く、魅力的で、親しみやすい作品にするよう注力することです。

まとめ

 エポックメイキングな作品を作るには、熟練と熟考が必要です。「うる星やつら」のようなエポックメイキングな作品の例から、学ぶべきことは多いです。過去のエポックメイキングな作品の教訓は、未来のエポックメイキングな名作作りに役立てることができるのですね。

 エポックメイキングな作品づくり、チャレンジしてみませんか?

ここまで読んで頂きありがとうございました。
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