作家は上手に嘘をつく?!「叙述トリック」で物語の格上げに挑戦!
嘘をつくなんてズルい?いえいえ、小説家なんてそんなものです。物語を作ること自体が、いかに人を騙し、独自の世界のルールを自ら作れるかという作業であり、それができなければむしろ小説家としては失格です。ここでは物語にどんでん返しをもたらして格を上げる、「叙述トリック」を用いた物語についてご紹介します。
叙述トリックの肝は、読者の「先入観」
叙述トリックとは「読者をだまして、登場人物をだまさない」、つまり読者には情報を与えず、あえて事実を誤認させるトリックのこと。
例えば、以下の文章を読んでください。
‘’夜道を歩く女性を狙い、背後から犯行に及ぼうとしていた金谷は、俺に気づくと何事もなかったように踵(きびす)を返して戻っていった。‘’
この文の「金谷」は男女どちらだと思いますか?恐らく、多くの方が「男性」だと思ったのではないでしょうか。
それは、女性を襲うのは「男性」という先入観が影響しています。もしこれを読み進めた後に「あれは女性だったのか!」とわかった場合どうでしょう。「してやられた!」と思わずいいたくなりませんか?
このように読者の先入観をうまく利用して、小説家と登場人物が協力して読者の常識をひっくり返すテクニックが「叙述トリック」です。
「真実」を忠実に描きつつ、だます
叙述トリックは、「嘘をつかず」に読者を「だます」トリックです。上記の例でいえば、いかにも男性であるような雰囲気をかもし出しながらも、実は女性であることを前提に記述を進めなければいけません。
ここで大切なポイントは、だまされるのはあくまで「読者」だけにする必要があるということ。物語の中では、犯人は一点の曇りもなく「女性」であるべきで、登場人物たちがそのことに何の疑いもなく完璧に演じている様を描かなければ、「トリック」にはならないからです。
そうすることで最後のどんでん返しを受けた読者は、ずっと犯人は男性だと思い込んでいた分、「よく読み返してみると全て女性の話ではないか!」と大きな衝撃を受けることになり、その意外性に面白味を感じるというわけです。
「言い訳は一切しない」がコツ
叙述トリックの難しいところは、わざとらしくなったり、どうしても説明くさくなるところです。最後のどんでん返しを迎えた時に、「あの時こんなことあったでしょ?だから・・・」というニュアンスのセリフを決して出さないようにするのがポイントです。
どんでん返しを受けた読者本人が過去の様々なシーンを思い出し、一つずつ答え合わせをするように回想するのも楽しさの一つだからです。読者の楽しみを奪わないように余計な言い訳は入れないようにしましょう。
叙述トリックの代表作ともいえる、乾くるみの「イニシエーションラブ」は、言い訳じみていないという点で非常に秀逸な作品です。なぜなら言い訳が全くできないほど、究極の「最後の最後」でどんでん返しを迎えるから。ぜひ読んで参考にしてみてください。
まとめ
叙述トリックは、小説家と登場人物が協力をして、読者をうまくだますトリックです。決して嘘はつかず、読者の「先入観」を利用して、自然とだまされていくように仕向けます。
ポイントは、物語の中では「真実」を忠実に描くこと。そして、どんでん返しの後には決して言い訳をしないこと。読者が回想する楽しみを奪わないように、あっさりと終わりを迎えるのがコツです。あなたも叙述トリックを使って、物語の格上げに挑戦してみましょう!
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