本屋大賞受賞作 逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』感想

【第166回直木賞候補作】
史上初、選考委員全員が5点満点をつけた、第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作

独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。
「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵""とは?

同志少女よ、敵を撃て
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Contents

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感想

 私はワークライフバランスという言葉が嫌いだ。

 会社という組織に所属している以上は、会社の達成すべき目的のために全力を傾けることが肝心で、たとえ残業時間が月60時間を超えて、働いて寝るだけの生活になったとしても、お客様の問題を解決するというミッションに命を捧げなければならないはずだ。

 ワークとライフは並び立てるものではなく、良いワークをするためにライフがあるに過ぎない。もしライフを重視して、ワークをおろそかにすれば精神を止む。例えば本来10時間かかる仕事を8時間でやろうとすれば無理が出るに決まっているし、差分の2時間分を他のメンバーに肩代わりしてもらえば他のメンバーからの印象が悪くなり人間関係に支障をきたす。成果が出なければつまらない仕事しか回ってこない。

 この国には小学校、中学校、高校、大学を出て会社に入り、40年余り働いて退職するという大きな物語がある。望むと望まないに関わらず、この国に生まれた限りは大きな物語に影響されて生きることになる。人生の大半を費やすワークがつまらなければ死んでいるのと同じだ。

 しかしふと、考えた。

 人生のすべてをワークに捧げて、定年を迎えたとき、私に何が残るのだろう。

 

 逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』が描いていたのは第2次世界大戦末期のソ連とドイツの間にあった「戦争」という大きな物語だ。

 1942年のソ連。主人公のセラフィマはモスクワ近郊の農村イワノフスカヤ村で猟師の母と穏やかに暮らしていた。しかし独ソ戦が激化する中、村はドイツ軍に襲われ、母や村人たちが殺された。

 セラフィマは戦争という大きな物語に巻き込まれた。彼女は母を撃ったドイツ人狙撃手と母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために、戦うことを決意し狙撃兵になった。訓練学校での仲間たちとの交流を通して軍人になっていくセラフィマ。

 人を狂わせる戦場の殺気と血の匂いが、読者にも感じられる文章で描かれていく。

 この本が書いていたのは「ワークライフバランスやFIREという心地よい言葉を語る社会」の反対にある現実だ。

 セラフィマが狂いながらも、戦場で的に照準を定めてライフルを撃つ、その一瞬の無にとりつかれたように。現代の会社員たちはお客様に的確なEメールを出す瞬間にとりつかれている。ウクライナ戦争が勃発した2022年、戦場で失われる命の尊さに焦点があたったが、もっと前から現代の人々は職場という戦場で戦っている。仕事に狂い自分の体を壊す現代人と、『同志少女よ、敵を撃て』のアヤの姿は重なって見えた。

 しかしこの本のクライマックス。戦争が終わったあと狙撃兵はどう生きればいいかと尋ねられた伝説のスナイパー リュドミラ・パヴリチェンコの言葉で我に返った。

「愛する人と生きがいを持て」

 人類はその歴史の大半を戦争に費やしてきた。平和な時代に築いたものが戦争によって破壊されて無に還る、その繰り返しだ。だからといって、失うのが怖いから築かないのでは、人類は発展してこなかっただろう。

 戦争のさなかでは、誰もが平和を望み、平和な世の中で何をしたいのかを考え、愛する人をつくり、平和のために戦った。平和な時代においては、平和がいつまでも続くと考え、どうしたらもっと良くなるかを考え、今を精一杯楽しんで生きた。その繰り返しが人類の歴史を紡いできたのだ。

 

 冒頭で私はワークライフバランスという言葉が嫌いだと書いた。この本を読んだからといって180度意見が覆るわけではないが、「愛する人と生きがい」を見つけたいと感じた。

 どんな戦争も必ず終わる。

 人生の大半を費やすワークがつまらなければ死んでいるのと同じだが、戦争の後で人生の大半を費やすライフがつまらなくても死んでいるのと同じだろう。

 探そう。

 同志少女セラフィマのように、穏やかで幸せな余生を暮らすために。

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女性スナイパーの戦争を描いた本です。男性スナイパーだったら多分ここまで面白くなかったでしょう。ライトノベルのようにスムーズに読める文章で書かれており、読みやすいです。ラストはそうきたか!となるのでぜひ読んでほしいです。アニメ化or映画化期待。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
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