シン・エヴァンゲリオン劇場版 感想「さよならとありがとう。気持ちよくお別れが言えた」

2021年4月11日

 シン・エヴァンゲリオンを観たあとに、虚脱感はありませんでした。

 例えば2019年「天気の子」や「空の青さを知る人よ」、「Hello World」を観たあとは、虚脱感でしばらく悶ていたものです。「天気の子」や「空の青さを知る人よ」については、すべてが手に入るわけではない……そういう作品だったからでしょう。「Hello World」については、予想を裏切られる展開の先に、最後の裏切りといえる感動が待ち構えていたからでしょう。

 一方のシン・エヴァンゲリオンは、のどごしスッキリで……、よくいえば見たいものが見られた。悪く言えばご都合主義、予定調和的な作品でした。

 また、エヴァンゲリオンという作品である以上、仕方ありませんが、「虚構ではなく現実を生きなさい」というテーマも、1997年から変わらないテーマで。まさにエヴァンゲリオン発だったこのメッセージは、2000年代に消費しつくされて、今となっては目新しくありません。

 ただ、まどかマギカで一世を風靡したループネタを盛り込み、ループという虚構から一歩踏み出さなきゃとメッセージを投げかけたのは、リメイクが多い時代に対する痛烈なメッセージになっていて、良いと感じました。有言実行で、エヴァンゲリオン自身にも、ピリオドを打ちましたからね。

 現代は、フェイクニュースに代表されるように、何が真実で何が嘘かわからなくなっている時代です。この現代に、多くの人の心に響く作品をつくるのは大変です。だから実績のあるリメイクや、過去の栄光に逃げ込む会社も多くなっていると感じます。そこに「虚構(ループ、リメイク)ではなく現実を生きなさい」と楔を打ち込むのは、大変意味があることだと感じました。

 現代は、小説家になろうのように、スピード感をもって新しいものを次々に生み出す活力が大事です。それを称賛する世界になっていかないと、アニメは伝統芸能のようになり、文化は先細りしてしまいますからね。虚構(ループ、リメイク)で悩むことも大事ですが、新しい現実をつくっていかなくちゃいけない、難しい時代です。

 

 とはいえ、監督自身は今後リメイクの世界で戦うことを選ばれたようです。

 新劇場版制作を通して、若いころの感性にどうしたって勝つことができないと感じられたのか、昔好きだったものをリメイクすることで若い頃の感性を取り戻そうともがいてらっしゃるのかはわかりません。どちらだとしても、とても理解できます。

 新劇場版は、庵野監督が生涯抱えていたテーマにもう一度正面から向き合った作品のはずです。そして若い頃の自分のパワーに、改めて恐れ入ったはずです。私のような作家ですら、若い頃の自分の表現に目を開かされたことがありますから。

 シン・エヴァンゲリオンで尖った表現があまりなかったのは、過去の自分を超えられなかったからでしょう。アディショナルインパクトでエヴァが津波のように押し寄せる映像などは、3.11から発想したのだとわかり、安直にも感じられました。けれど才能の劣化をテクニックでカバーして、超大作を完結させたのは流石でした。

「大人が子どもよりも優れている点が1つある。これまでに何度も経験し、記憶してきた恐怖への慣れだ。新しいものへの好奇心や、感受性、才能は失われても、経験から作り出したプロセスが大人を強くする。(中略)大人が子ども達に見せられるのは、どんな困難にでも立ち向かう姿だ」

 

 私は、シン・エヴァンゲリオンに虚脱感を感じませんでしたが、胸が震えました。それは、私が24年前信者になるほど魅入った作品をつくった天才が、才能の枯渇と戦っていると感じたからです。才能が枯渇しながらも、自己最高の興行収入を叩き出す作品をつくりあげた技術に感動しました。
※ただ、ゲンドウに関する描写はドキッとしました。レイとユイが裏表の存在だったように、カヲルとゲンドウが裏表の存在だったと気づいたときには、胸が締め付けられました。監督は1995年当時にこの発想があったのでしょうか。新劇の途中でこの設定を思いついたのだとすると、流石天才と言わざるを得ません。

 次はシン・仮面ライダーが控えています。シン・エヴァンゲリオンによって世間の人々からは、庵野監督の映画は間違いないと言われるようになったでしょう。それは、ミスチルの曲だから間違いないというのと同じで、監督がブランドになった証拠です。

 ただ、エンタメの世界でブランドというのは、盲目的なファンを作り出します。盲目的なファンは、作品が本当に面白くなくなったことに気づけません。作品が好きなわけではなく、ブランドが好きだからです。

 そうなると、見る目のあるファンは離れていきます。つまらないというと批判されるので、忌憚なき意見もいうことができなくなります。こうしてブランドになったクリエイターは、虚構のなかで晩年を過ごすのです。

 こう考えると「虚構ではなく現実を生きなさい」は、クリエイターにとって永遠の課題といえます。庵野監督には、シン・仮面ライダーで、現代社会をえぐるような新たな表現を期待したいですね。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
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