創作ネタ | 『中学生でも読めるように書く』ことが正しい理由

2021年1月13日

 レトロニムという言葉を知りました。本エントリーではレトロニムを取っ掛かりにして、「スタンダードな意味で言葉を使ったほうがいい」と気づいたことを書かせていただきます。
 それから、一般的な創作論で『中学生でも読めるように書く』ことが正しい……と言われる理由についても、気付きがありましたのでシェアします。

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レトロニム(retronym)の意味と例、意見

 まずはレトロニム(retronym)の意味と例を紹介します。

レトロニム(retronym)とは、後から登場した他の物事と区別する必要が生じたために、元からあった何かに対して後から遡って改めて付けられた言葉のことである。
 レトロ(retro)とは「古い以前の何かに遡及する」という意味、ニム(nym)とは「語」という意味である

【レトロニムの例】
・旧約聖書 – キリスト教徒の「新約聖書」が登場したことによって使われるようになった。ユダヤ教の聖典「タナハ」を呼んだ言葉。(ただし厳密には内容に若干の差異があり、「旧約聖書=タナハ」と完全にイコールで結べるわけではない)

・ファーストガンダム – 正式な作品名は「機動戦士ガンダム」。ガンダムシリーズが続くにつれてシリーズ全体を指す意味と区別するために第一作をこう呼ぶケースが生じ始めた。

・紙媒体(紙の本、物理書籍) – 本、書籍: デジタルメディアが登場したことによって使われるようになった。

・固定電話 – 携帯電話が登場したことによって使われるようになった。

 

 私が見聞きしたところ、このレトロニムを気に入らない、使いたくない人がいるそうです。物書きにもいらっしゃるかもしれません。

 どういうことかというと、例えばファンタジー作品で「紙の本」を「本」と書きたい人がいるみたいなんですね。理由は電子書籍がない世界観なんだから、「紙の本」は「本」と書くべきだって論調です。

 言葉の定義の深堀りという意味では、なんだか異世界サンドイッチ問題を思い出しますね。異世界サンドイッチ問題を語る【異世界にチートやキリスト、南無三という単語を出してもいい?】

 

スタンダードな意味で言葉を使ったほうがいい

 これに対して私の意見としては、「できるだけ今の時代にスタンダードな意味で言葉を使ったほうがいい」です。

 というのも、レトロニムを使いたくないからと、今の時代のスタンダードな言葉と乖離した言葉をつかうと、読者離れを引き起こすからです。
※スタンダードな意味で言葉を使わないと、読者は意味がわからない。読み取りにくい。結果、読むのが苦しく、読むのをやめてしまいます。

 

 もちろん、言葉の意味を深堀りするのは大事なことです。言葉の意味を知らずに話していたら、何も議論できませんし、意識をあわせた仕事もできません。

 ですが言葉の意味は実際変わっています。事例をいくつか紹介します。

【穿(うが)った見方】
・本来の意味:物事の本質を的確に捉える見方をすること
・浸透しつつある意味:疑ってかかるような見方をすること

【役不足】
・本来の意味:本来の能力より軽い仕事や役割を与えられること
・浸透しつつある意味:本来の能力より重い(手に余る)仕事や役割を与えられること

【気が置けない】
・本来の意味:遠慮したり気づかったりする必要がなく、心から打ち解けられること
・浸透しつつある意味:遠慮したり気づかったりする必要があり、心から打ち解けられないこと

【確信犯】
・本来の意味:政治的・思想的・宗教的な信念に基づいて、正しいと確信して行う行為や犯罪のこと(またはそれを行う人のこと)
・浸透しつつある意味:悪いことだと自覚していながら行う行為や犯罪のこと(またはそれを行う人のこと)

【情けは人のためならず】
・本来の意味:人に親切にすれば、巡り巡って、その親切が自分の身に戻ってくること
・浸透しつつある意味:親切にするのはその人のためにならないこと

 また、下記の記事も参考になります。

「人々の意識は変わるものです」日本語学者の飯間浩明さんが語る、大学の授業で「恋」という言葉を説明したときの10年間の反応の違いについて – Togetter

  

 言葉の意味が変わったことに気づかずにいると大変なことになります。

 例えば、「確認ヨシ!」という言葉が、現場猫の浸透により「危険だけどOK」という意味で使われはじめたらどうでしょうか。
 昔を知るベテランから、確認できたら「確認ヨシ!」と言うよう支持された人は、「危険だけどOK」でいいんだと理解し、事故に繋がります。(さすがにないか笑)

 

 なにせ、仕事では言葉の定義をあわせなくてはいけません。職場のスタンダードな意味で言葉を使うためです。

 これと同じことが、作家にもいえると感じます。
 言葉の定義をあわせなくては、読者に伝わらないんですね。

 でも、後から登場した他の物事と区別するためのレトロニムも発生するし、言葉の意味は遷移する……だとするとどの言葉を使えば誰に伝わるのか全然わからない!

 この思いは、結構みなさま持たれているのではないでしょうか。私も、時折、私の言葉は、読者にちゃんと届いているのか……自信がなくなります。

 だから一般的に『中学生でも読めるように書く』ことが正しいとされます。

 

『中学生でも読めるように書く』ことが正しい理由

 『中学生でも読めるように書く』ことが正しい理由は単純です。義務教育が中学校までだからでしょう。

「義務教育で学んだ言葉であれば、全国民知っているはず。だから中学3年生がつかう国語辞典に載っている言葉はつかっていいんだ」
 というのが、『中学生でも読めるように書く』ことが正しい理由だと想像します。

 とはいえ、中学校の国語辞典の中身なんて、全員が記憶しているでしょうか。
 しかも、言葉の意味は変わっていきます。
 若者言葉の例でいうと、「やばい」。

やばい
[形]《形容動詞「やば」の形容詞化》危険や不都合な状況が予測されるさま。あぶない。「―・い商売」「連絡だけでもしておかないと―・いぞ」
[補説]若者の間では、「最高である」「すごくいい」の意にも使われる。「この料理―・いよ」

 「やばい」ですと、辞書は補足で口語的な意味に触れています。しかしながら、これが今のスタンダードではないでしょうか。今のスタンダードが[補説]でしか書かれない……。国語辞典ですら、古い言葉の意味を大事にするあまり、現実の意味を明確に定義できていない。

 だとすると、私たちは何を書けば、他人に物語を届けることができるのでしょう。

  

届けたい世代の言葉を学ぶ姿勢が大事

 大事なのは、届けたい世代の言葉を学ぶ姿勢です。

「国語辞典では、こういうふうに意味が定義されているんだから、オレの書く言葉は間違っていない。読者の頭がおかしい。もっと勉強してオレの小説を読め」
と、いう作家には誰も見向きもしないのです。

 自分の中の当たり前をアップデートするのは、誰にとってもしんどいです。ですが自分の世代が正しいと思っていたものこそ、変わっていくと思ったほうがいいのだと感じます。

 例えば、古い世代が「デキ婚は絶対に許さん!」という価値観だったのに対し、今の世代は「授かり婚おめでとう!」に変わったように、価値観は変わっていきます。今はデキ婚という言葉に、ネガティブイメージがないのかもしれません(私はそこまではわかりません)。

 では、まとめです。改めて書きます。
 大事なのは、届けたい世代の言葉を学ぶ姿勢です。

 これは届けたい世代の言葉を学ぶ姿勢=ターゲットを明確にするという意味でもあります。このエントリーがあなたにとって、物語を書く際のヒントとなれば幸いです。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
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