【保存版】プロの作家も意識する「小説の法則」:執筆レベルを一段階引き上げる5つのキーワード

小説を書いていると、「何かが違うけれど、どこを直せばいいかわからない」という壁にぶつかることがあります。そんな時、先人たちが積み上げてきた「物語の法則(キーワード)」を知っていると、それが強力な武器になります。

これらは単なるテクニックではなく、読者を物語に引き込み、最後まで飽きさせないための「心理学」であり「構造美」の哲学です。

今回は、あなたの小説をブラッシュアップするための重要なキーワードを5つ(+α)厳選して解説します。これらを意識するだけで、あなたの原稿は驚くほど洗練されるはずです。


1. チェーホフの銃 (Chekhov’s Gun)

「約束」と「期待」の法則

おそらく最も有名なキーワードでしょう。ロシアの劇作家アントン・チェーホフが提唱したこの法則は、以下のように定義されます。

「第一幕で壁に銃が掛けてあるならば、第三幕ではそれが発砲されなければならない。もし発砲されないなら、掛けておいてはいけない」

これは単に「伏線を回収しろ」という意味だけではありません。物語における**「要素の必然性」**を説いています。

なぜ重要なのか?

読者は、物語に出てくる情報すべてに「意味がある」と信じて読み進めます。

例えば、主人公が「父の形見の懐中時計」を意味ありげに見つめるシーンがあったとしましょう。読者は無意識に「この時計が後で重要になるんだな(例えば、銃弾を受け止める、あるいは時間のズレがトリックになる)」と期待します。

しかし、最後までその時計が物語に関わらず、ただのアクセサリーで終わったとしたらどうでしょう? 読者は「あの描写は何だったんだ?」と失望し、作者への信頼を失います。これを「不発の銃」と呼びます。

実践のポイント

  • 配置したら、使う: 意味ありげなアイテム、特技、過去のトラウマを出したら、必ず物語の解決や展開に関わらせてください。
  • 逆もまた真なり: クライマックスで主人公に銃を撃たせたいなら、第一幕の段階で銃(あるいはそれを使う予兆)を見せておく必要があります。突然都合よく現れた武器は「ご都合主義(デウス・エクス・マキナ)」と呼ばれ、嫌われます。

2. ショー・ドント・テル (Show, Don’t Tell)

「報告」せず、「体験」させる法則

「語るな、見せろ」。これは文章表現における黄金律です。

小説は、事実を伝えるレポートではありません。読者の脳内に映像を再生させ、感情を追体験させる装置です。

具体例で比較する

  • Tell(語る・説明する):花子はとても悲しかったし、太郎に対して怒っていた。
  • Show(見せる・描写する):花子は唇をきつく噛み締め、震える手で持っていた手紙をくしゃりと握りつぶした。太郎と目が合うと、彼女は何も言わずに背を向け、足早に部屋を出て行った。

前者は「悲しい」「怒り」という正解(ラベル)を読者に押し付けています。これでは読者は感情移入できません。

後者は、行動や仕草を通して感情を描写しています。読者は「唇を噛む=我慢している」「手紙を握りつぶす=激しい怒り」と自分で解釈し、花子の痛みを自分のこととして感じ取ります。

実践のポイント

  • 感情語を避ける: 「嬉しい」「怖い」「寂しい」といった言葉を使わずに、その感情にある人がどんな行動をとるか、どんな風景が見えるかを書いてみましょう。
  • 五感を使う: 視覚だけでなく、匂い、音、触感で状況を伝えます。「暑い」と書く代わりに、「シャツが背中に張り付く不快感」を描くのです。

3. キル・ユア・ダーリン (Kill Your Darlings)

「愛する者を殺せ」という非情な法則

この言葉は、ウィリアム・フォークナー(あるいはアーサー・クィラー=クーチ)の言葉として知られています。文字通り登場人物を殺せという意味ではありません。

「あなたが個人的に気に入っているシーンや文章であっても、物語全体の流れを阻害しているなら、迷わず削除せよ」

という意味です。

なぜ重要なのか?

作家は往々にして、自分の書いた「名文」や「ウィットに富んだ会話」、「凝った設定」に恋をしてしまいます。「この会話、すごく面白いから残したい!」と思うでしょう。

しかし、そのシーンがあるせいでテンポが悪くなったり、本筋と関係ない寄り道が長引いたりする場合、それは物語にとっての**「贅肉」**です。

実践のポイント

  • 客観的な目: 推敲するときは、「作者」ではなく「編集者(あるいは鬼)」の人格を持ってください。
  • 保存して削除: どうしても消すのが辛い場合は、その部分だけ別のファイル(「未使用アイデア集」など)に移してから削除しましょう。精神的な痛みが和らぎますし、別の作品で使えるかもしれません。
  • 機能を確認する: そのシーンは「ストーリーを進めているか?」または「キャラクターの深掘りをしているか?」。どちらの機能も果たしていないなら、どんなに美しくても削除対象です。

4. アイスバーグ・セオリー (The Iceberg Theory)

「氷山の一角」で深みを出す法則

アーネスト・ヘミングウェイが提唱した理論です。

「氷山の動きの威厳は、その8分の1しか水面上に出ていないことによる」

すべてを説明する必要はありません。むしろ、説明しないことで物語に深みが生まれます。作者はキャラクターの過去、世界の歴史、詳細な設定を100%知っていなければなりませんが、読者に見せるのはそのうちの10%〜20%で十分です。

具体例

二人の男女がカフェで話しているシーンがあるとします。

二人が過去に恋人同士で、泥沼の別れ方をしたという設定(水面下の90%)が作者の中にあれば、わざわざ「二人は元恋人で気まずかった」と書かなくても、会話の端々、視線の逸らし方、敬語の混じり方(水面上の10%)に自然と緊張感が滲み出ます。

実践のポイント

  • 説明過多(インフォ・ダンプ)を避ける: ファンタジー小説などで、冒頭から数ページにわたって国の歴史や魔法の仕組みを解説してしまうのはNGです。読者は教科書を読みたいわけではありません。
  • 行間を読ませる: 重要なことほど、言葉にさせない。「愛している」と言わせずに、愛を伝える行動を書くほうが、読者の心に深く刺さります。

5. オッカムの剃刀 (Occam’s Razor)

「シンプルさ」こそが最強である法則

元々は哲学や科学の用語で、「ある事柄を説明するのに、必要以上に多くの仮定をするべきではない」という指針です。簡単に言えば**「最もシンプルな説明が、たいてい正しい」**ということです。

これを小説に応用すると、プロットや設定の複雑さを制御するのに役立ちます。

悪い例(複雑すぎる仮定)

密室殺人が起きた。犯人は「壁を通り抜ける魔法」を使い、かつ「被害者の生き別れの双子の弟」で、さらに「宇宙人による記憶操作」を受けていた……。

要素を盛り込みすぎると、リアリティがなくなり、読者はついていけなくなります。

実践のポイント

  • 動機の単純化: 複雑怪奇な動機よりも、「愛」「金」「復讐」といったシンプルで普遍的な動機の方が、読者は共感しやすくなります。
  • ルールの統一: 困ったときに新しい魔法や設定を次々と追加しないでください。既存のルールの組み合わせで問題を解決するほうが、知的な面白さが生まれます。シンプルであることは、退屈であることとは違います。シンプルだからこそ、強いのです。

【番外編】マクガフィン (MacGuffin)

物語を動かす「虚構のエンジン」

アルフレッド・ヒッチコック監督が提唱した概念です。

マクガフィンとは、**「登場人物にとっては死ぬほど重要だが、観客(読者)にとっては中身が何であっても構わないアイテム」**のことです。

  • スパイ映画の「機密書類」
  • 冒険映画の「秘宝」
  • 恋愛小説の「彼が探している思い出の場所」

物語の推進力(エンジン)として、キャラクターを動かす動機付けにはなりますが、物語の本質は「それを奪い合う人間ドラマ」や「成長」にあります。

「何を追いかけているか」よりも、「追いかける過程で何が起きるか」が重要なのです。


まとめ:キーワードは「読者への思いやり」

今回紹介したキーワードを振り返ってみましょう。

  1. チェーホフの銃: 期待を裏切らない(伏線回収)
  2. ショー・ドント・テル: 感情を押し付けず、体験させる
  3. キル・ユア・ダーリン: 読者のためにテンポを守る
  4. アイスバーグ・セオリー: 想像の余地を残し、深みを作る
  5. オッカムの剃刀: 混乱させず、シンプルに伝える

これらはすべて、**「どうすれば読者がストレスなく、物語の世界に没頭できるか」**という、読者への配慮から生まれています。

執筆に行き詰まったとき、推敲で迷ったとき、これらのキーワードを思い出してみてください。「このシーンは『チェーホフの銃』になってるかな?」「ここは『説明(Tell)』しすぎてないかな?」と問いかけるだけで、あなたの作品は間違いなく、プロの領域に近づきます。

まずは、今書いている原稿の中で「削るべき愛する部分(キル・ユア・ダーリン)」がないか、見直してみることから始めてみませんか?


ここまで読んで頂きありがとうございました。
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