《映画感想》マチネの終わりに 切ない物語の教科書

2019年11月4日


たった三度会ったあなたが、
誰よりも深く愛した人だった

東京・パリ・ニューヨークの彩り豊かな街並みを舞台に、音楽家とジャーナリストの男女二人が、出会い、悩み、そして愛した六年―原作は、芥川賞作家・平野啓一郎の代表作「マチネの終わりに」。
ラブストーリーでありながら、人生の苦悩、世界の分断や対立といったテーマを織り交ぜ、登場人物たちの心情の変化を緻密に描き出し、大きな話題を生んだ。主演は、アーティスト、俳優として、常に第一線で活動を続ける福山雅治。
天才ギタリストとして名を馳せるも、現状の演奏に満足が出来ずに自分の音楽を見失い苦悩する蒔野聡史を熱演。そして、蒔野と惹かれあうジャーナリスト・小峰洋子役には映画、ドラマ、CMなどあらゆるジャンルで活躍する女優・石田ゆり子。運命に翻弄されながらも、六年の歳月を歩んだ男女の姿を二人が情感豊かに演じる。
さらに、伊勢谷友介、桜井ユキ、木南晴夏、風吹ジュン、板谷由夏、古谷一行ら、まさに実力派俳優陣が集結。
愛とは何か、人生とは何か。

今冬、切なくも美しい大人の愛の物語が、ついにスクリーンへ。

交錯する想い、あらがうことの出来ない運命
情熱と現実の間で揺れ動く二人の愛の行方とは。

ネタバレあります。

すれ違い、後悔の連続の人生でも、未来は常に過去を変えてくれます。この辛い今も、将来振り返ってみれば何か、幸せな人生に着地するためのきっかけだったのかもしれません。

天才ギタリストの蒔野聡史が、人生を貫通してしまうほどの人、小峰洋子と出会うところから物語は始まります。

蒔野のスランプ、洋子とのすれ違い(スマホ時代はすれ違いを描けないって思っている人はこの映画を見ると良いと思います。スマホ時代だからこそのすれ違いがこの映画では描かれています)、そして最後の再会。

一見陽転していく蒔野の人生、暗転していく洋子の人生が描かれ、最後の出会いにつながるシーンで最高潮を迎えます。人生の一面をえぐり取ったような、素敵な台詞も印象的でした。

人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える

『洋子さんの存在こそが、俺の人生を貫通してしまったんだよ』

孤独というのは、つまりは、この世界への影響力の欠如の意識だった』

切ないお話でした。

もちろん予想を裏切る面白い展開で、私たちを惹きつける作品です。けれど爽快感が残るような作品ではないんですね。

例えばすれ違いの人生を歩んできた蒔野と洋子が再会するラストシーン。これを美しいと見る意見もあると思うのですが、最後二人は抱き合いませんでした。

これは監督が切ないという感想を持ってもらいたいので二人が抱き合うところまで描かなかったのだと想像します。

だから私は、このお話は切ないという感想が適切だと思います。

切ない? 美しい? それって何と思われる方もおられるかもしれません。

私は切なさとは美しいの亜種だと考えています。

美しい物語とは、おさまるべきところにおさまっている物語のことです。

※短期的な美しさと長期的な美しさがあり、今は長期的な美しさのことを言っています。下記エントリでも書いています。

https://kosiboro.work/?p=489

対して、切ないとは、おさまるべき物語がおさまっていないことだと考えます。

ポイントは、一貫性をもって進んできた主人公の夢がついに報われるとか、目指してきた存在に最後に出会えるといったことですね。

つまりマチネの終わりにで言うと、蒔野と洋子は互いに自分の人生を貫通した運命の二人で、お互いを想い続けているのがわかるのに、その二人が付き合ったり結婚するというおさまるべきところにおさまっていません。

これに私たちは切なさを感じるのでしょう。

映画全編を通して表現されるのは、この二人が一緒にいるのが美しい着地点だということ。けれどそこにいくつもの障害を配置して、二人を決しておさまるところにおさめません。

切ないラブストーリーを描く際の、素晴らしい教科書となる作品です。

人生をえぐり取ったような素敵な台詞にも、心を掴まれること間違いなしです。

ぜひ見てみてください。

※ちなみに私はマネージャの人も好きです。正直を貫き通した彼女もまた、幸せになるべき人だと思うからです。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
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