ファンタジー小説に役立つ、騎士の歴史と騎士階級について
ファンタジー小説を書くとなれば、騎士は絶対に登場させたいですよね。そこで本エントリーでは騎士階級の始まりから終わりまでをご紹介し、代表的な騎士について解説します。エクィテス、ミーレス、ナイト、パラディン……中世を舞台にしたファンタジー小説で登場する職業の成り立ちにワクワクしますよ。
騎士階級の基本
ヨーロッパにおける騎士とは、主に中世において騎馬で戦う者に与えられた名誉的称号を指します。ファンタジー小説に登場する定義も、これですよね。
ただ、騎士階級の意味は歴史とともに変化してきました。騎馬で戦う者から派生した(必ずしも騎兵、騎乗戦士ではない)階級のことも、現代では騎士と呼びます。ここでは、騎士階級の始まりから終わりまでを解説していきますね!
騎士の起源(〜紀元前1世紀)
騎士階級の起こりは、古代社会(ガリア人社会)の奴隷以外の自由ある若者が、成人し、槍と盾、ベルトと剣を授与され戦闘団に入団する。という成人の儀式だと言われています。
古代の自由ある若者とある通り、恵まれた人々だけに許された儀式です(もちろん古代ですので、自由を得られるのは成年男子市民のみです)。これらの恵まれた、一人前の男たちが後の「騎士」なっていきます。古代社会の儀式の形式は、のちの騎士叙任式につながっていきます。
エクィテス(紀元前1世紀〜5世紀頃まで)
「騎士」の最初期の形態は古代ローマのエクィテスです。古代ローマの兵役制度(ケントゥリア)では、騎兵として軍に加わる人間を指す「エクィテス」という社会階級がありました。
古代ローマ市民は武具を自前で用意して徴兵に応じる必要があり、馬を手に入れられるのは富裕層のみでした。
まだまだ馬を育てるノウハウも溜まっておらず、天然の馬を育てなきゃいけませんでしたから、別荘を借りて馬を育て、乗馬の訓練を行う必要があります。武具とあわせると、それこそ家が買えるような多額の資金が必要でした。それを用意できる人々……つまり「エクィテス」=現代でいうところのエリートだったのでしょうね。
そういった経緯もあり、この時期から、騎兵になることができる富裕層を「エクィテス」と呼び、騎士に名誉の意味合いが付加されました。
当時、馬に乗れるというのはとてつもないアドバンテージでした。電卓しか使えない人々の集団で、自分エクセル使えますって人がいたら100人力ですよね。そういう意味で馬を扱える人々は軍事的エリートとして扱われ、有事には公馬が与えられたそうです。
また、エクィテスという概念が使われた時代は、紀元前1世紀〜5世紀頃までと江戸時代より長いです。ですので言葉の意味も途中で変化していきます。ローマ帝国が安定し戦争のない平和な時代が続くと、軍事的エリートとしての意味合いは薄まり、経済的エリートとしての意味合いが強くなります。
ここから次の騎士階級ミーレスにつながっていくわけですね。
ミーレス(10世紀頃まで)
中世ヨーロッパにおいて「荘園の支配を保障される代わりに騎兵として戦うことを義務付けられた身分」をミーレスと言います。
定義が長いですが、ようは御恩と奉公。日本でいう武士みたいなものです。
ただしミーレスの場合、王様に仕えていた騎士だけでなく、大貴族に仕えていた騎士もミーレスと呼ばれました。この時代は、騎馬戦士だけでなく馬に乗っていない戦士でも、王様や大貴族に仕えていればミーレスを名乗ることができました。騎士=馬に乗るという概念はこの時代に崩れ始めています。
一般的な騎士の人生
騎士は叙任されるもので、生まれついての身分・階級ではありません。それだけに自由で夢のある職業でした。一般的な騎士の人生のマイルストーンは下記のようになります。
- 7歳頃から小姓(ペイジ)となり、主君の下に仕え、下働きをします。この時期、騎士として必要な初歩的技術を学びます。
- 14歳頃で従騎士(エスクワイア)となり、主人である先輩騎士について、下働きをします。甲冑や武器の持ち運びや修理も担当し、実際の戦闘にも参加します。
- 20歳前後で一人前の騎士と認められると、主君から叙任を受け、金もしくは金メッキの拍車なります。騎士叙任式は、主君の前に跪いて頭を垂れる騎士の肩を、主君が長剣の平で叩くというものです(日本の寺でも似たような儀式がありますね。坐禅のとき、修行者の肩ないし背中を警策で打つやつです)。これは当初、子供から戦士になることを歓迎する儀式でしたが、徐々に宗教色や騎士道精神が入ってきます。
ウォリアーモンク、ドイツ騎士修道会、テンプル騎士団、聖ヨハネ騎士団(14世紀頃まで)
12世紀初頭、ローマ教皇ウルバヌス2世はキリスト教の聖地エルサレム奪還のため、西ヨーロッパの騎士たちを集めて軍事行動をとりました。これが第1回十字軍です。そしてエルサレム奪還の目的が達せられると、ほとんどの人々は西ヨーロッパの実家に帰っていったのですが、エルサレムに住み着いた信仰厚い集団がいました。
彼らが創設したのが、騎士修道会です。
この騎士修道会は、キリスト教的観念に基づく忠誠、公正、勇気、武勇、慈愛、寛容、礼節、奉仕などが徳とする宗教的騎士道を確立します。
当時、教会は上流階級の巣窟でしたから、騎士は社会的に認められた上流階級となります。また、教会特有の排他的・閉鎖的身分集団と化していきます。
ドイツ騎士修道会(ドイツ騎士団)、テンプル騎士団や聖ヨハネ騎士団といった宗教騎士団はこの時期に創設されました。
これを見たかつての騎士たちは、騎士修道会の構成員は「ウォリアーモンク」だろと言って、騎士を取り返そうとしました。
現代なら、騎士修道会の構成員はホーリーナイト、教会を離脱した騎士はダークナイトなどと呼ばれるかもしれませんね! ファンタジー小説の舞台となるのはこの時期だと思いますから、教会と騎士との対立を描くのも面白いかもしれません。
強盗騎士
中世ヨーロッパにおいては、強盗騎士(Robber Knight)という概念も登場しました。
戦時には傭兵として戦い、平時には強盗を行って生計を立てる人々のことです。彼らが単なる強盗と違うのは、フェーデ(果たし状を送って決闘する制度)を利用して行商人などに決闘を申込み、金品を奪うところです。この決闘はつまらない言い掛かりから始められたそうで、正直、現代でいうところの「当たり屋」と変わりません。
強盗騎士から金品を守るために「自由騎士(特定の国に属さない騎士)」が雇われることもあったかもですね。
パラディン
現代ファンタジー作品に登場するパラディンも、元ネタがあります。
それは中世・ルネサンス期の文学作品で、12世紀始めに成立した「ローランの歌」です。この作品は、8世紀のローマ皇帝シャルルマーニュの騎士12人を「シャルルマーニュ十二勇士」として描きました。
そして「シャルルマーニュ十二勇士」を聖騎士(パラディン)として表現しました。つまりパラディンは騎士の中でも特に高位の騎士。最高の騎士に与えられる称号だということですね。
なお「ローランの歌」は「シャルルマーニュ十二勇士」筆頭の、聖剣デュランダルを携えた聖騎士ローランを主役とした物語です。アーサー王伝説とどこか似ていますね。12世紀は騎士があこがれの職業だったでしょうから、様々な騎士道物語が書かれたのでしょうね。
騎士団の役職
騎士団が全盛の時代においては、多数の人が騎士団に所属していました。現代の企業のような形で、職を求める人々の受け皿となっていたのですね。
騎士団の構成員はパラディンのような上級騎士、下級騎士、見習いの従騎士だけでなく、下記の4つのグループで構成されています。
- 騎士 – 重装備、貴族出身
- 従士 – 軽装備、平民出身
- 修道士 – 資産管理
- 司祭 – 霊的指導
また、それ以外にも騎士団を運営するため、下記のような役職が存在していました。これを見ると、支持してくれる教会とのつながりの維持。団員を管理するための系統図。騎士団のシンボルとなる紋章関連の業務が行われていたようです。
私の大好きなゲーム、ファイアーエムブレムでお馴染みの紋章も重要視されていたようですね!
- 僧長 (プレラトゥ)
※最高位聖職者が担う - 長官 (チャンセラー)
※僧長に次ぐ存在で次席聖職者が担う - 記録官 (レジストラ)
※公式の記録員 - 衛門 (アッシャー)
※黒杖官。事務長的な存在。 - 秘書 (セクレタリー)
※騎士団員が担当 - 血統官 (ジェネオロジー)
※騎士団員が担当。系統図を管理する。 - 最高紋章官(キング・オブ・アームズ)
※紋章にまつわる事案発議、管理。紋章や系譜の記録。 - 紋章職員
※キング・オブ・アームズの補佐
騎士の終わり(15世紀〜)
近世以降、銃の台頭により、剣と槍と馬の時代が終わると、騎兵そのものが消滅し、ナイトは貴族の称号や、単なる名誉職となりました。
イギリスにおいては、大英帝国勲章の5段階の階級のうち、上位2階級を授与された人物をナイトとして扱います。大英帝国勲章の5段階とは下記に示す5つです。
- ナイト・グランド・クロス又は
デイム・グランド・クロス(大十字騎士) - ナイト・コマンダー又はデイム・コマンダー(司令官騎士)
- コマンダー(司令官 CBE)
- オフィサー(将校 OBE)
- メンバー(団員 MBE)
大英帝国勲章の上位2階級を授与された男性は「サー」、女性は「デイム」の敬称が許されます。実際、第93回アカデミー賞で、見事に2度目の主演男優賞に輝いたアンソニー・ホプキンスは1993年に55歳で大英帝国勲章の上位2階級を授与され、ナイトとなりました。
現代のナイトは、英語ではknight(ナイト)と「臣従」を意味する単語で呼ばれますが、フランス語ではchevalier(シュヴァリエ)、ドイツ語ではRitter(リッター)と「騎兵」を意味する単語で呼ばれています。これらの単語は、14世紀頃の役割からきています。
14世紀当時、フランスやドイツではまだまだ騎兵がイケイケでしたから、「騎兵」を意味する単語が使われています。イギリスは既に騎士の概念が成熟し、王様や大貴族に仕える存在だったため、「臣従」を意味する単語が使われています。
騎士を含めた爵位一覧
現代のフランスやイギリスでの爵位一覧は下記のとおりです。騎士は最も下に位置づけられています。
ですが、貧富や血筋に関わらず爵位を得られるのは、騎士だけです。騎士は今も昔も夢がありますね。
・公爵(Duke)
・侯爵(Marquess)
・伯爵(Count)
・子爵(Viscount)
・男爵(Baron)
・準男爵(Baronet)
・騎士(Knight)
それぞれの爵位の意味は、下記エントリーを参考にしてください。
騎士は役目を終えましたが、ナイトという響きはロマンを携えて、今もファンタジー作品の中に息づいていますね!
まとめ
ファンタジー小説に役立つ騎士階級、騎士団の序列や役職について、ご紹介しました。当初は騎兵を指していた言葉が、次第に名誉の証として独り立ちしていく歴史が興味深いです。こうして歴史を学ぶと、やはりファンタジー小説の舞台として、中世ヨーロッパは魅力的ですね!
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