説家は現実を見るべき|アニメやラノベの模倣だけでは書けない「本物のリアリティ」
小説家は現実を見るべきです。
これは当たり前のことのように聞こえるかもしれません。しかし、ライトノベルやWeb小説を書いている方であれば、一度は心当たりがあるのではないでしょうか。好きなアニメや漫画、ライトノベルの「雰囲気」を参考にして書いてしまうこと。作品の中で描かれている「世界」を、実物ではなく他の作品から借りてきてしまうこと。
それは「二次情報の再利用」であり、どうしても薄味になります。読者は気づきます。「ああ、この作者は実際に見ていないな」と。
このエントリーでは、現実を観察することがなぜ創作の質を劇的に変えるのかを、具体的な事例とともに解説します。特に、日常のニュースや社会現象をファンタジー設定に応用する方法を詳しく紹介します。
一次情報と二次情報の決定的な差
創作において、情報には2つの種類があります。
一次情報とは、自分自身が直接見て、聞いて、体験して得た情報のことです。街の匂い、人の表情、雨が降ったときの地面の色の変化。自分の五感を通じて入ってきたものが一次情報です。
二次情報とは、誰かが加工・編集した情報のことです。アニメで描かれている街並み、ラノベに書かれている戦闘描写、漫画で表現されているキャラクターの感情。これらはすべて、別の創作者のフィルターを通じた二次情報です。
二次情報を参考にすること自体は悪いことではありません。しかし、二次情報だけで作品を組み立てると、「どこかで見たような」作品が出来上がります。なぜなら、元の作品が持っていた一次情報の厚みが、コピーを重ねるたびに薄くなっていくからです。
現実の観察が創作を変える3つの視点
ここからは具体的に、現実を観察することで創作にどう活かせるのかを、3つの視点から解説します。
視点① — 分断の生まれ方を知る
東京オリンピックの開催をめぐって、日本中が賛成派と反対派に分かれました。テレビをつければ賛否両論が飛び交い、SNSでは毎日のように激しい議論が行われていました。
このとき注目すべきは、「賛成派」と「反対派」が、それぞれ自分たちの正義を信じていたという事実です。どちらも「自分が正しい」と確信しており、相手を「愚かだ」と感じていました。
この構造は、そのままファンタジーやSFの「派閥対立」に応用できます。たとえば王国内で改革派と保守派が対立する物語を書くとき、「改革派が正しくて保守派が悪い」という単純な図式にしてしまいがちです。しかし現実の分断を観察すれば、両方にそれぞれの正義があり、どちらも引くに引けない事情を抱えていることがわかります。
その「引くに引けなさ」を物語に反映できたとき、キャラクターに血が通い始めます。
大切なのは、「どちらが正しいか」を作者が事前に決めつけないことです。現実の分断を観察すればわかるように、正義は一方にだけあるのではなく、双方がそれぞれの正義を信じています。この構造を物語に取り入れることで、読者は「どちらの気持ちもわかる」という複雑な感情を抱くようになり、物語への没入度が格段に深まります。
視点② — 人が何を信じるかを観察する
世の中にはさまざまな「信仰」があります。宗教的な信仰だけではなく、「マスクをすれば安全だ」「ワクチンを打てば大丈夫だ」といった日常レベルの信じる行為も、広い意味では信仰の一種です。
創作者にとって重要なのは、「なぜ人はそれを信じるのか」を観察することです。人が何かを信じるとき、そこには必ず「不安」があります。不安を解消してくれる対象を、人は信じます。
この観察は、ファンタジー作品における宗教設計に直結します。異世界で宗教を描くとき、「この世界の人々は何を恐れているのか」から逆算して宗教を設計すれば、リアリティのある信仰体系を構築できます。恐怖の対象が「魔物の襲来」であれば、人々は身を守ってくれる存在を神として崇めるでしょう。恐怖の対象が「飢饉」であれば、豊穣をもたらす存在が信仰されるはずです。
現実の人間心理を観察しているからこそ、架空の世界にリアリティが宿るのです。
視点③ — 個人と組織と国の関係を理解する
GoToトラベルやGoToイートといった政府施策は、「国が旗を振り、企業が実行し、個人が利用する」という三層構造で動いていました。この三層の関係性を観察すると、ファンタジー世界における「王国」「貴族」「平民」の関係を設計するヒントが得られます。
たとえば、王が「魔物退治の報奨金制度」を発令したとします。その報奨金は誰が管理するのか。地方領主が間に入って中抜きをしないか。冒険者は本当に恩恵を受けられるのか。こうした「制度と現実のギャップ」は、現実の政策を観察していれば自然と発想できます。
逆に、現実の政策を知らずに制度を設計すると、「王が決めたことが末端まで完璧に実行される」という非現実的な世界になりがちです。読者の中には社会人として組織で働いている方も多いですから、「上の決定が下に伝わらない」「中間管理職が自分の都合で情報を歪める」といった現実を知っています。その知識との乖離が大きいと、リアリティがないと感じるのです。
ファンタジー世界の政治制度を設計するとき、「命令系統がきれいに機能する組織」を描くよりも、「命令が伝達されるたびに少しずつ歪んでいく組織」を描いた方が、現実の読者には説得力を持ちます。なぜなら読者自身が、そういう組織の中で生きているからです。現実の組織構造を観察することは、架空の世界のリアリティを底上げする最短ルートだといえるでしょう。
「見る」ことは最高のインプット
小説家にとって最も重要なインプットは読書だといわれていますし、それは間違いではありません。しかし読書だけでは得られないものがあります。それは「自分だけが気づいた細部」です。
たとえば雨上がりの駅のホームで、傘を畳む人と畳まない人がいることに気づいたとします。畳む人は几帳面なのか。畳まない人はずぼらなのか。あるいは単に、次の電車が来るまでの時間が短いだけかもしれません。この「なぜ?」から生まれる観察が、小説の描写を一段階引き上げてくれます。
アニメやラノベを見て「こういう描写がかっこいい」と感じることも大切です。しかし、それだけでは「かっこいいの再生産」にしかなりません。現実を自分の目で見て、自分の言葉で切り取ること。それが一次情報を持つ創作者の強みです。
情報収集のコツについては、以下の記事も参考にしてみてください。
• 小説家のための情報収集のコツ3点|Why・What・Howで調べれば、物語にリアリティが宿る
• 小説家の取材方法とは?|5つの取材パターンを使い分けて物語にリアリティを宿す
現実を見る習慣を持つということ
現実を観察するために特別なことをする必要はありません。通勤中に電車の中を見渡してみる。ニュースを見たとき「なぜこうなったのか」を自分なりに考えてみる。コンビニで買い物をしたとき、店員さんの動きを少し意識してみる。
こうした小さな観察の蓄積が、やがて作品の中で「本物のリアリティ」として滲み出てきます。二次情報の再利用では決して生まれない、あなただけの表現が可能になるのです。
現実は、創作者にとって最高の教科書です。ぜひ明日から、少しだけ意識的に「現実を見る」習慣を始めてみてください。アニメやラノベだけを参考にしている自分に気づいたとき、ふと窓の外を見る。その視線の先にある風景が、あなたの作品に唯一無二のリアリティを与えてくれるはずです。
関連記事
• 体験を経験に変える方法|フロイトの三層構造から考える作家の武器






