「リアリティがない」批判の正体|物語のビリーバビリティを高める方法
「リアリティがない」
読者からのこの一言に、ぐさりと胸を刺された経験がある方は少なくないでしょう。ファンタジーを書いているのに「リアリティがない」と言われても、そもそも現実じゃないのだから当たり前では——そう反論したくなる気持ち、よくわかります。
しかし、この批判には真剣に向き合う価値があります。なぜなら「リアリティがない」の正体は「現実と違う」ではないからです。
「リアリティ」の正体は「説得力」
リアリティ≠リアル
まず大事な前提を整理します。
創作における「リアリティ」は、「現実(リアル)と同じかどうか」ではありません。 「読者がその世界のルールを、物語の中で納得できるかどうか」 です。
つまり、リアリティとは説得力。あるいは納得力。
ファンタジー世界に魔法があっても、その世界のルールとして説得力があればリアリティは成立します。反対に、現代劇であっても、登場人物の行動に説得力がなければ「リアリティがない」と感じられます。
リアリティがないと没入できない
リアリティが欠けると、読者は物語の世界に入り込めません。
たとえば、牧歌的なファンタジー世界の風景の中に、なんの説明もなくコンクリートの四角いビルが建っていたら? 「いやいや、周囲と技術レベルが違いすぎるでしょ?」と読者は冷めます。
しかし、「そのビルは先進国の貴族が植民地支配のために建てた要塞だ」と説明されれば、違和感は減ります。むしろ「植民地支配に抵抗する主人公たちの物語」として、世界観に奥行きすら出てくる。
同じ「あり得ない設定」でも、根拠が積み上がっているかどうかで、読者の反応はまったく変わるのです。
「あり得ないことを書くのが物語だ」という開き直り
まず、開き直る
「主人公が毎回勝つのはリアリティがない」
こういった指摘に対する最初の心構えは、あり得ないことを書くのが物語だ、という開き直りです。
「主人公が毎回勝つ」のではなく、「毎回勝つキャラクターを主人公に選んでいる」のです。
• 牧歌的なファンタジー世界にコンクリートビルがある → 「ギャップのある風景を舞台に選んだ」から
• 主人公が毎回勝つ → 「毎回勝つ強さがある人物を主人公に選んだ」から
• 10代の少年が世界を救う → 「世界を救う力を持った少年の物語を選んだ」から
作家にとって必要なのは、この 「自分の好みを貫く覚悟」 です。リアリティの批判に怯えて、書きたいものを書けなくなるのは本末転倒です。
開き直った上で、根拠を積む
ただし、開き直るだけでは独りよがりになります。
大事なのは、開き直りと根拠の積み上げを同時にやることです。
「あり得ないことを書く」覚悟を持った上で、読者が「あり得ない」と感じるポイントに、ひとつずつ根拠を置いていく。この二段構えが、物語のリアリティを高める作家の姿勢です。
ビリーバビリティ——「信じさせる力」
リアリティよりも「ビリーバビリティ」
創作の世界では「リアリティ」よりも正確な用語として ビリーバビリティ(Believability) という概念があります。
ビリーバビリティとは「もっともらしさ」——つまり「読者がその物語を信じられる度合い」のことです。
リアルかどうかではなく、信じられるかどうか。この区別が重要です。
ビリーバビリティの高い作品・低い作品
| 作品 | 設定 | ビリーバビリティ | なぜ? |
|---|---|---|---|
| 葬送のフリーレン | 勇者が魔王を倒した「後」の物語 | 高い | 魔法の設定に一貫性があり、感情描写が丁寧 |
| ワンピース | ゴムゴムの実で体がゴムになる | 高い | 能力の限界と弱点が明確。世界のルールが統一 |
| 無理のある展開例 | 初心者がいきなり最強の敵を倒す | 低い | 努力や成長の描写なく、読者が納得できない |
ビリーバビリティが高い作品は、設定自体が「あり得ない」ものであっても、作中のルールが一貫しており、そのルール内での論理が通っているのです。
ビリーバビリティを高める5つの方法
方法1:ルールを作り、ルールを守る
物語の世界に独自のルールを設定したら、そのルールを作者自身が絶対に破らないことが最重要です。
「魔法は代償がある」と設定したなら、主人公だけ例外的に代償なしで使える——は禁じ手です。もし代償を回避する方法があるなら、それ自体にもルール(特殊な条件、限定された状況など)を設定する必要があります。
方法2:根拠を先に見せる(フリの技術)
「主人公が強い」ならば、その強さの根拠を読者が疑問を持つ前に見せておくことが重要です。
• 努力の描写(修行シーン)
• 特殊な才能の説明(血統、先天的な能力)
• 勝てる理由の提示(相手の弱点を事前分析)
RPGで例えるなら、ボス戦の前にレベルアップイベントを挟むようなもの。読者に「この主人公なら勝てるだろう」と思わせてからバトルに入れば、勝利にリアリティが生まれます。
方法3:反応をリアルにする
設定が非現実的であっても、登場人物の感情反応をリアルに描くことでビリーバビリティは格段に上がります。
「魔法が使える世界」で空を飛ぶキャラクターがいるとして、周囲が「すごい!」と驚いてくれるだけでも、読者はその世界を信じやすくなります。逆に、あり得ないことが起きているのに誰も驚かなければ、読者は「この世界は雑だ」と感じます。
方法4:例外には必ず理由をつける
物語のルールの「例外」こそ、最もビリーバビリティが問われるポイントです。
「この世界では魔法使いは10年修行しないと一人前になれない。しかし主人公は3か月で一人前になった」——この例外部分に、読者が納得する理由がなければ「ご都合主義」と言われます。
例外の理由は複雑である必要はありません。しかしその理由自体が世界のルールと矛盾しないことが絶対条件です。
方法5:経験から書く(取材の力)
リアリティを高める最も直接的な方法は、経験に基づいて書くことです。
すべてを体験する必要はありません。しかし「それらしい描写」は、実際に見たり聞いたりした人にしか書けない場合が多い。
• チャラ男を書きたいなら、チャラ男と呼ばれた人の自伝を読む
• 戦闘シーンを書きたいなら、武術の動画を研究する
• 料理シーンを書きたいなら、自分で一度作ってみる
取材や疑似体験を重ねることで、描写のディテールに厚みが出ます。このディテールこそが、読者に「この作者はわかっている」と感じさせるビリーバビリティの源泉です。
AI時代のリアリティ問題
AIが書く「もっともらしいが中身のない文章」
2025年現在、ChatGPTやClaudeなどの生成AIは「もっともらしい文章」を瞬時に生成できます。しかしAIの文章は、表面的にはリアリティがあるように見えても、中身が空洞であることが少なくないのが現状です。
AIは統計的に「ありそうな文の並び」を生成しているため、設定の一貫性、感情の機微、世界観のルール整合性——つまりビリーバビリティの核心部分——が欠落しやすい。
逆に言えば、ビリーバビリティを意識的に設計できる作家は、AI時代においてこそ価値を発揮します。AIには「世界のルールを作り、守り続ける」という意志的な行為が難しいからです。
人間にしかできない「説得力の設計」
AIは根拠を「でっち上げる」ことはできても、根拠を「積み上げる」ことは苦手です。
物語のビリーバビリティとは、まさに「根拠の積み上げ」の産物です。作者が世界のルールを設計し、登場人物の感情に寄り添い、例外のひとつひとつに理由を与えていく——この地道な作業は、人間の作家にこそ求められる力です。
ビリーバビリティ・チェックリスト
あなたの物語のリアリティを点検するとき、以下のリストを活用してください。
| チェック項目 | 確認 |
|---|---|
| 世界のルールは明確か? | |
| そのルールを作中で一度も破っていないか? | |
| 主人公の強さ・能力に根拠があるか? | |
| あり得ない設定に対する登場人物のリアクションは描けているか? | |
| ルールの「例外」に理由はあるか? | |
| 描写のディテールは取材や経験に基づいているか? | |
| 読者が「ご都合主義」と感じそうなポイントを洗い出したか? |
まとめ:開き直れ、そして根拠を積め
「リアリティがない」という批判の正体は、「現実と違う」ではなく「説得力が足りない」です。
物語のリアリティとは、すなわちビリーバビリティ——「読者がその世界を信じられるかどうか」。設定が荒唐無稽であっても、ルールが一貫し、根拠が積み上がっていれば、読者は信じてくれます。
作家に必要なのは、2つの姿勢の両立です。
• 開き直り — あり得ないことを書くのが物語だ。自分の好みを貫く覚悟
• 根拠の積み上げ — 読者が疑問を感じるポイントに、ひとつずつ説得力を置いていく
この二段構えがあれば、「リアリティがない」という批判は、やがて「この世界は信じられる」という賞賛に変わります。
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