NHK大河ドラマ『麒麟がくる』が面白い3つの理由|歴史を”最高のエンタメ”に変えた作劇術

2021年2月21日

NHK大河ドラマ『麒麟がくる』が面白いです。

長谷川博己さん演じる明智光秀を主人公に据えた本作は、歴史上「裏切り者」として語られてきた人物を、まったく新しい視点で描き直しました。大河ドラマの中でも屈指の完成度を誇る傑作だと感じています。

このエントリーでは、『麒麟がくる』がなぜこれほど面白いのか、創作者の視点から3つの理由を分析します。歴史を物語に変換するときに参考になる技術が詰まっており、小説やWeb小説にもそのまま応用できるエッセンスが豊富に含まれています。

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理由① — 主人公のパラダイムシフト

『麒麟がくる』の最大の功績は、明智光秀という人物に対する「パラダイムシフト」を起こしたことです。

明智光秀といえば、本能寺の変で主君・織田信長を討った「裏切り者」。これが日本人の大多数が持つイメージではないでしょうか。大河ドラマでも、これまで光秀は脇役として、あるいは信長を裏切る悲劇的な存在として描かれることがほとんどでした。

しかし『麒麟がくる』は、この光秀を「義の人」として描きました。民を想い、平和な世を願い、そのために行動し続ける誠実な人間として、一年を通じて丁寧に積み上げたのです。

このパラダイムシフトがもたらす効果は絶大です。視聴者は「裏切り者・光秀」という既存の知識を持った状態でドラマを見始めます。そこに「義の人・光秀」が提示されることで、「この誠実な人物が、なぜ本能寺の変を起こすに至るのか」という強烈な問いが生まれます。

この「既知の結末に対する未知の動機」こそが、本作最大の推進力になっています。視聴者は結末を知っているにもかかわらず、いや、知っているからこそ、一話も見逃せなくなるのです。

創作において、この手法は非常に応用が効きます。読者が「知っている」と思っている物事に対して、まったく異なる解釈を提示する。そのギャップが物語の吸引力になります。歴史ものに限らず、神話の再解釈やおとぎ話の裏側を描くような作品でも、同じ原理が働いています。

Web小説の世界でも、パラダイムシフトは有効です。たとえば「異世界転生もの」というジャンルでは、転生者は通常「チート能力で無双する」存在として描かれますが、「転生先で能力が役に立たない」「チート能力こそが災いの元になる」といった逆転の解釈を提示すれば、それだけで読者の興味を引くことができます。既知の枠組みを逆手に取ることで、既視感のあるジャンルにも新鮮さが生まれるのです。

理由② — キャラクターにパーソナルカラーを持たせる大胆な衣装設計

『麒麟がくる』を見て驚いたのは、衣装の色彩設計です。

従来の大河ドラマは、時代考証に忠実な落ち着いた色合いの衣装が標準でした。しかし本作は、各キャラクターに鮮やかなパーソナルカラーを割り当てています。明智光秀には青緑、斎藤道三には深い紫、織田信長には鮮やかな赤。画面に映った瞬間、誰が登場したのかが色で判別できるのです。

これは小説やライトノベルにも応用可能な、キャラクター設計の基本テクニックです。キャラクターに固有の「色」を持たせることで、読者は直感的にそのキャラクターを識別し、記憶できるようになります。

色は衣装に限りません。髪の色、瞳の色といったビジュアル的な要素はもちろん、「口癖」「行動パターン」「価値観の象徴」なども、キャラクターの「色」として機能します。大切なのは、そのキャラクターを一言で表現できるような、鮮烈な特徴を与えることです。

群像劇を書くときにこの手法は特に効果を発揮します。登場人物が10人以上になると、読者は「この人誰だっけ」と混乱しがちです。しかし各キャラクターに明確なパーソナルカラーが設定されていれば、「赤い人」「青い人」という直感的な記憶で識別できます。戦記ものやファンタジーで多数の陣営が登場する場合は、陣営ごとに色のトーンを揃えるのも有効な手法です。

『麒麟がくる』の衣装設計は、「歴史的正確さ」よりも「キャラクターの識別性」を優先した判断です。批判もあったかもしれませんが、エンタメとしての視認性は格段に向上しました。リアリティと面白さのバランスをどこに置くかは、創作者が常に意識すべきテーマではないでしょうか。

理由③ — 第1話で「見たいもの」を見せる設計

3つ目の理由は、第1話の構成です。

大河ドラマでは、主人公の幼少期から丁寧に描くのが伝統的なスタイルでした。子役が登場し、家庭環境や幼少期のエピソードが語られ、成長してから本編が始まる。この構成は人物の背景を深く理解させる一方で、「いつ本編が始まるのか」と視聴者をじれったくさせるリスクがあります。

『麒麟がくる』は、この幼少期を大胆にカットしました。第1話から、青年期の光秀が剣を振るい、戦乱の世を駆け回る姿が描かれます。視聴者は冒頭から「この物語の主人公はどんな人間で、何を目指しているのか」を直感的に理解できます。

さらに重要なのは、第1話の中で「麒麟がくる世を目指す」という物語全体の方向性が明示されることです。麒麟とは、仁のある政治が行われている世に現れるとされる聖獣のこと。光秀が目指す平和な世の象徴であり、タイトルの意味そのものです。この「物語のゴール」が第1話で提示されることで、視聴者は「光秀は麒麟がくる世を実現できるのか」という問いを持って、物語を追い続けることができます。

小説でも同じことがいえます。冒頭で「この物語は何についての話なのか」を読者に伝えることは、連載を読み続けてもらうために極めて重要です。設定の説明や世界観の提示に時間をかけすぎると、読者は「何を楽しみに読めばいいのか」がわからず離脱してしまいます。

第1話で見せるべきは、主人公の魅力、物語の方向性、そして「続きを読みたい」と思わせるフックの3つです。『麒麟がくる』は、この3つをすべて第1話に凝縮していました。

連載小説やWeb小説であれば、この原則はさらに重要になります。書籍と違い、Web小説の読者は第1話で面白くなければ即座に離脱します。世界観の説明は後からでもできますが、主人公の魅力と物語の方向性は第1話で示さなければなりません。『麒麟がくる』のように、「この人物は何を目指しているのか」「その目標の先に何が待っているのか」を冒頭で提示することで、読者に「付いていく理由」を与えることができるのです。

歴史ドラマから盗める作劇のエッセンス

『麒麟がくる』の3つの要素をまとめると、以下のようになります。

パラダイムシフトで既知を未知に変える — 読者が「知っている」と思っていることに新しい解釈を与えることで、強い吸引力が生まれます。

キャラクターに鮮烈な「色」を与える — ビジュアルだけでなく、性格や価値観の面でも、一発で判別できる特徴を設計しましょう。

第1話で物語のゴールを提示する — 読者は「何を楽しみに読めばいいか」がわかると、安心して物語を追いかけられます。

これらの技術は、歴史ドラマに限らず、あらゆるジャンルの創作に応用可能です。明智光秀という「謎多き人物」を最高のエンタメに昇華させた『麒麟がくる』から、物語の設計術をぜひ盗んでみてください。

歴史上の人物を主人公にするとき、教科書的な解釈をなぞるだけでは「知っている話をもう一度聞かされる」退屈な体験になりがちです。パラダイムシフトによって既知を未知に変え、鮮やかなキャラクター設計で識別性を高め、第1話で物語の核心を提示する。この3点を押さえるだけで、歴史ものの面白さは格段に向上するはずです。あなたの作品にも、ぜひ取り入れてみてください。


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