時代劇に学ぶストーリーテリング|お約束の中のオリジナリティ

2023年2月22日

水戸黄門の印籠が出るタイミングは、誰でも予測できます。

旅の一行が町に着く。悪代官が民を虐げている。助さん格さんが暴れる。そして「この紋所が目に入らぬか」。毎回この流れ。なのに、なぜ視聴者は何十年も見続けたのか。

ここに、物語を書くすべての人間が学ぶべき技術が詰まっています。


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時代劇をバカにしてはいけない理由

「えー、今時、時代劇ー?」と思われるかもしれません。しかし1話45分で、構成を変えずに毎回楽しませるには相当な技術が必要です。

時代劇は「想定される尺の中で」「お約束を守りながら」「物語を完結させる」という厳しい制約の中で、オリジナリティを出さなければなりません。

ここまで読んでお気づきの方もいるかもしれませんが、この制約はそのまま異世界ファンタジー小説にも当てはまります。テンプレートを守りながらオリジナルの物語を展開する——時代劇もなろう系も、求められるテクニックは本質的に同じなのです。


時代考証という基盤——世界観設定の原点

時代劇を作るには、その時代の文化・風習・言語を正確に理解する必要があります。歴史的事実と年代。当時の生活習慣、食文化、服装。言葉遣いの特徴。身分制度や社会構造。

これは異世界ファンタジーにおける「世界観設定」そのものです。時代劇の作り手が歴史を徹底的に調べるように、異世界ファンタジーの作家は自分の世界を徹底的に構築する必要がある。「なんとなく中世っぽい」では、説得力のある物語は生まれません。


フレームワーク×ドラマ×演劇——3層構造で見る時代劇

時代劇の構造は3つの層で成り立っています。

第1層:フレームワーク

話の始まり、何が起き、どうやって解決するか——この基本的な枠組みです。

水戸黄門を例にとると、「一行が旅をする → 土地で問題が起きている → 黄門様が印籠を出して解決する」。このフレームワークは毎回変わりません。読者(視聴者)はフレームワークを知った上で楽しむ。「今回はどんな問題が起きて、どう印籠が出るのか」——その変奏を楽しむのです。

第2層:ドラマ

フレームワークの中で展開されるストーリーです。ハプニングや葛藤が起き、キャラクターが動き、観客に感情の起伏を与えます。

同じフレームワーク(旅→問題→印籠)でも、問題が「悪代官の横暴」なのか「村人同士の誤解」なのかで、ドラマは全く変わります。この変化が毎回の新鮮さを生み出す。

第3層:演劇

シーンごとの脚色です。「いい天気だね」「そうですね」という何でもないセリフに、時代の空気感やキャラクターの背景を加えて、無限のバリエーションを作り出す層です。

同じセリフでも、武士が言うのか町人が言うのかで違う。春の桜の下で言うのか冬の雪の中で言うのかで違う。敵の前で言うのか味方の前で言うのかで違う。この脚色の技術が、フレームワークという「制約」を「豊かさ」に変換するのです。


水戸黄門と鎌倉殿の13人——安心感と緊張の対比

水戸黄門:フレームワークの安心感

水戸黄門の魅力は、フレームワークの絶対的な安心感にあります。「最終的に印籠が出て解決する」とわかっている。だからこそ途中のドラマ——問題や葛藤——を安心して楽しめる。

これは公平世界仮説(善が報われ、悪が罰せられる)と完全に一致しています。読者の心理的安全性が担保された中でドラマを展開する——これがフレームワークの力です。

鎌倉殿の13人:フレームワーク自体がサスペンス

三谷幸喜脚本の「鎌倉殿の13人」は、真逆のアプローチでした。「事件が起きる → 誰かが疑われる → 粛清される」。このフレームワーク自体に緊張感がある。「もうやめてくれ」と思いながらも目を離せない。毎回が「次は誰が消されるのか」というサスペンスになっていたのです。

善人でも粛清される世界——反・公平世界仮説的なフレームワーク。水戸黄門の安心感と「鎌倉殿」の恐怖は、フレームワークの使い方が正反対でありながら、どちらも視聴者を釘付けにした。フレームワークは「安心」にも「恐怖」にも使えるという証明です。


三谷幸喜の「口語革命」が示すもの

三谷幸喜は「鎌倉殿の13人」で、一つの革命を起こしました。

通常、時代劇の台詞は当時の言葉の特徴を反映させます。カタカナは避け、歴史的正確さを重視する。これが常識でした。しかし三谷は現代的な口調で物語を進めて大成功しました。

なぜ成功したのか。ポイントは2つあります。

1つ目。カタカナ文字など世界観を根本的に壊す要素は使わなかった。2つ目。口調を現代風にしたことで、キャラクターへの感情移入のハードルが下がった。

「口調までは変えてもいい。世界観は壊さない」——この線引きは、異世界ファンタジーを書く上でも極めて重要な指針です。たとえば異世界に「スマホ」を出せばギャグになりますが、キャラクターの口調を現代的にする程度であれば読者は受け入れる。第3層(演劇)をどこまで崩せるかの判断基準がここにあります。


「べらぼう」に見る時代劇の進化

2025年の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」は、江戸の出版文化を描いています。蔦屋重三郎という「メディアプロデューサー」を主人公にした点が興味深い。

これは「クリエイターの物語」を時代劇のフレームワークで描くという試みです。フレームワークは「江戸の出版業界で成り上がる」。ドラマは「検閲・権力との対立・クリエイター同士の競争」。演劇は「江戸文化の豊かな描写」。

クリエイターの葛藤は時代を超えます。「良いものを作りたい vs 売れるものを作らなければならない」——この対立は、2026年のWeb小説作家にもそのまま当てはまる。時代劇のフレームワークが現代の創作者の悩みに接続する瞬間です。


なろう系テンプレ=時代劇の「お約束」

時代劇の3層構造は、異世界ファンタジーにそのまま転用できます。

時代劇異世界ファンタジー
時代考証世界観設定
フレームワークジャンルテンプレート
ドラマイベント発生と解決
演劇世界観を見せる描写・脚色

なろう系の主要フレームワークを並べてみましょう。

フレームワーク名構造
異世界転生死亡→転生→新世界で活躍
追放系不当に追放→真の実力を発揮→元の仲間が後悔
悪役令嬢破滅フラグ認識→回避努力→予想外の展開
配信者系配信開始→バズる→認められる
現代ダンジョン日常にダンジョン出現→攻略→成り上がり

これらはすべて「水戸黄門の印籠」と同じ役割を果たしています。読者はフレームワークを知った上で読み始める。追放系なら「この主人公は最終的に認められるんだな」と予測できる。その安心感があるからこそ、途中のドラマ——どんな苦境に立たされるか、どう切り抜けるか——に集中できるのです。


フレームワーク内でオリジナリティを出す3つの方法

ドラマの質を上げる。フレームワークの「お約束」通りに進みつつも、予想外の葛藤を盛り込む。追放された主人公が新天地で成功するだけでなく、成功したことで新たな問題が生まれる——この「二段階目」がオリジナリティです。

演劇の精度を上げる。世界観描写の解像度を高め、「この作品でしか味わえない空気感」を作る。同じ異世界転生でも、食文化の描写が精緻な作品と雑な作品では没入感が全く違います。

フレームワークを「少しだけ」崩す。追放系なのに追放した側にも正義がある。悪役令嬢なのに本当に悪い。「鎌倉殿の13人」が時代劇のフレームワークを「恐怖」に転用したように、テンプレートの一部をずらすことで独自性が生まれます。ただし崩しすぎるとフレームワークの恩恵(安心感・予測可能性)を失うため、「少しだけ」が肝心です。


まとめ

要素内容
時代劇の価値制約の中でオリジナリティを出す技術の宝庫
3層構造フレームワーク×ドラマ×演劇
水戸黄門フレームワークの安心感(公平世界仮説)
鎌倉殿の13人フレームワーク自体がサスペンス(反・公平世界仮説)
三谷の口語革命口調は変えても世界観は壊さない
べらぼうクリエイターの葛藤は時代を超える
なろう系転用ジャンルテンプレ=フレームワーク

水戸黄門の印籠は「ネタバレ」ではありません。フレームワークです。

お約束をバカにしてはいけない。お約束があるからこそ、読者は安心してドラマに没入できる。そして、お約束の中にこそ、オリジナリティの居場所がある。あなたの作品の「印籠」は何ですか?

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