なぜ『小説家になろう』では長文タイトルが流行るのか?
「小説家になろう」(以下、なろう)を見ていると、タイトルがやたらと長い作品が目につきませんか?最近では「異世界転生」や「貴族もの」を題材にした作品で、まるで作品のあらすじそのもののような長文タイトルがずらりと並んでいます。たとえば、2024年冬アニメ化作品のタイトルには『最強タンクの迷宮攻略~体力9999のレアスキル持ちタンク、勇者パーティを追放される~』や『ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する』といったものがあり、一作品あたり平均30文字程度にも及びます。タイトルだけで主人公がどんな状況に置かれているか想像できてしまいそうですよね。
『小説家になろう』で長文タイトルが流行る理由
では、なぜここまで長文タイトルが「なろう」で流行っているのでしょうか?主な理由は三つあると考えられます。
1. 作品数が膨大で、埋もれないための手段
「なろう」には現在100万作品以上もの小説が掲載されています。玉石混交の中から読者に自作を見つけてもらうのは至難の業です。まずタイトルで目を留めてもらえなければ、他の作品に紛れて埋もれてしまいます。そこで作者たちは、タイトルを作品の宣伝広告代わりに使い始めました。タイトルで「この作品は異世界ファンタジーで、転生した主人公が無双します!」とパッと伝えられれば、同好の読者の目に留まりやすくなります。いわばタイトルがキャッチコピーとなって、読者へのアピールを担っているのです。事実、近年のタイトル平均文字数は大幅に増加しており、2020年前後には平均30~40字台に達したというデータもあります。多くの作者がタイトル勝負に本気になっている証拠ですね。
2. タイトルがあらすじ代わり(速い展開を求める風潮)
ウェブ小説読者には「早く面白さを知りたい」という気持ちが強く、昨今はいわゆるファスト文化とも言われます。実際「なろう」のスマホ版ではランキング一覧にタイトルしか表示されず、あらすじは折りたたまれているため、まずタイトルだけで判断されます。この環境では、短いタイトルだと内容が伝わらずスルーされてしまう恐れがあります。逆に長いタイトルなら作品内容の8割ほどを詰め込んで紹介でき、読者も「どんな話か一目でわかる」ため選びやすいのです。要するに、忙しい読者と埋もれたくない作者、双方のニーズが一致した結果、タイトル長文化が進んだと言えます。実際、「タイトルだけで大体の内容が想像できる」作品が好まれる傾向は強く、タイトルを見ただけでストーリー展開が浮かぶようなものすらあります。
3. 流行に乗る安心感
一度「長文タイトルがウケる」という潮流ができると、新人作家もそれに倣うようになります。他の作品が皆長いタイトルだと、自分も似たテイストにした方が読者に「なろう系らしさ」が伝わると思うのは自然でしょう。t事実、「追放ざまぁ」や「現代知識チート」といった人気要素を盛り込んだ長い題名がランキングを賑わす状況では、「とりあえず同じ形式にしておこう」という心理も働くはずです。こうして長文タイトルがさらに量産され、長文であること自体が定番となっているのです。もちろん今でも短いタイトルの作品も存在しますが、それらは内容で圧倒的な強みがあるか、あえて書籍化を狙って短くしている場合が多い印象です。長文タイトルが主流の中で短いタイトルで勝負するのは茨の道とも言えますから、多くの作者にとって長めのタイトルはある種の保険でもあるのでしょう。
補足:昔はどうだったの?
ちなみに、ライトノベル全体で見るとタイトルが長くなり始めたのはここ数年のことです。2010年代前半までの人気作(例:『ログ・ホライズン』『魔法科高校の劣等生』『この素晴らしい世界に祝福を!』など)はタイトル自体は比較的シンプルでした。2019年にアニメ化された『うちの娘。』こと『うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない。』あたりから、いわゆる二行タイトルが登場し始め、2020年以降は一気に長文化が加速した印象です。今や「なろう発=長いタイトル」のイメージが定着していますが、この流行も時代と共に生まれたものなのですね。
おわりに:
以上のように、「なろう」で長文タイトルが流行る背景には、競争の激しさと読者の嗜好、そして流行の相乗効果があります。大海の中で自作品を見つけてもらう工夫として長文タイトルが選ばれた結果、今ではすっかり市民権を得たと言えるでしょう。事実、タイトル文字数の傾向を分析したデータでも、2016年頃を境に30文字超えタイトルが急増し、2021年には平均47文字に達したと報告されています。
もっとも、短いタイトルが完全に淘汰されたわけではなく、『異世界はスマートフォンとともに。』や『本好きの下剋上』のようにシンプルでもヒットする例もあります。それでも「まずはクリックしてもらう」ために長文タイトルを付けるのは、現状では有効な戦略であることは間違いありません。私自身、なろうで新作を漁るときはつい長~いタイトルに目が行ってしまいますし、「タイトルにつられて読んでみたら案外面白かった!」なんて経験もしばしばです。タイトルは小説の第一印象。流行に敏感な作者たちが腕によりをかけて考案した長文タイトルの数々には、思わず感嘆してしまいますね。
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