「なろう系とラノベ(ライトノベル)の違い」なろう系の特徴、なろう系は悪か?

2023年5月15日

「小説家になろう」で出版された小説は「なろう系」と呼ばれます。「なろう系」は多種多様なのですが、ラノベ(ライトノベル)と何となく違うように感じている人も多いのではないでしょうか。
このエントリーでは「なろう系とラノベ(ライトノベル)の違い」、「なろう系の特徴」、「なろう系は悪か?」の本質を鋭く書いていきます。

また、なろう系叩きで台頭する新たな業界や、ラノベ好きが「なろう系」を嫌いな理由についても触れていきます。
小説投稿サイトで小説を書いている方の頭の整理にも役立つエントリーですので、ぜひ読んでみてください。

 

なろう系とラノベ(ライトノベル)の違い

なろう系とラノベ(ライトノベル)の違いは「公共性」です。
ラノベ(ライトノベル)があくまで古典的な小説から続く「公共(社会一般に通じるさま。 社会の利益に寄与するさま)」の産物であるのに対して、なろう系は「私的」の産物です。

例えば、ラノベ(ライトノベル)はあくまで「公共」のエンターテイメントであろうとしました。
可愛い女性キャラクターが表紙を飾っていても、作中で描かれるのは「青春期に抱く魅力的な異性への憧れ」であり、精神の充足を目指す健全な行為でした。
また、ラノベの主人公はめったに人を殺しません。どんなに憎らしい敵でも赦そうとします。どうしても殺す必要があるときには罪の意識を背負い込みます。

なぜか? ラノベは10代の少年少女をターゲットにしているからです。だから舞台が異世界だろうとも、法治国家日本の公共のルールに則り、子供に見せられない作品は出版しません。それがラノベ(ライトノベル)業界の高尚さであり、矜持だったはずです。

私はラノベ(ライトノベル)業界が「公共」の精神を忘れていないのであれば、出版社の売り上げが減少し、業界が滅亡しかけていたとしても、存在意義はあると考えます。「公共」を貫くのがラノベ(ライトノベル)業界の使命です。
※もし「公共」の精神を貫いてラノベ業界が滅亡するのであれば、それは公共の死でしょう。その場合、ラノベ業界を救うべきといった小さな話ではなく、もっと広い視点での改革が必要です。

 

一方、なろう系は「私的」の産物です。ラノベが「公共(社会一般に通じるさま。 社会の利益に寄与するさま)」を意識しているのに対して、なろう系は私的な欲求から書かれたものです。

なろう系は公共の枷を外した私的な物語が含まれ、公共のタブーが存在しません。
作家は10代から60代、それ以上まで幅広い作家が存在します。幅広い年齢層の作家が、自分の欲求を表現する空間です。その空間の中で最大多数の最大幸福を満たす作品が「なろう系」のトップとして君臨しています。

なろう系の特徴

なろう系は私的の産物と書きました。
なろう系の特徴は、性行為や殺人がタブー視されておらず、利己的・功利主義的な主人公像が許容されていること、必ずしも強い敵と戦う必要がないこと(困難に立ち向かわない)です。

倉名まささんのなろう系とは何かを書いたエッセイの中に、なろう系の特徴を3点ピックアップした結果として、以下の記載があります。
・なろう系ではセックス、殺人、飲酒などラノベが描くことを避けた事物がタブー視されていない
・なろう系の主人公は利己的・功利主義的である
・なろう系に強大な敵は存在しない

そして、なろう系の特徴として「無意識の欲求」をあげています。
人が心の中にもっている「ひそかな欲望、願望、感情」を満たす物語こそが、なろう系だと。この理論に私も賛成です。

なろう系は「私的」の産物であり、公共の枷を外した私的な物語だと考えるからです。気持ちよくなりたいし、邪魔者は壊したいし、自分が一番になりたいし、苦労したくないし、あがめられたい……これらは人が「公共」の場では言えない願望でしょう。
なろう系の物語は、「公共」のルールでがんじがらめになり、建前を演じるのに疲れた人々が、無意識の欲求をかなえるユートピアなのかもしれません。

以下は参考となります。(なろう系とは何か より引用) 

①なろう系ではセックス、殺人、飲酒などラノベが描くことを避けた事物がタブー視されていない
(中略)
 対して、なろう系作品では性行為は忌避されていない。セックスに至るまでの過程は作品により様々だが、ごく当然の帰結として性行為が描かれている。
(中略)
 対して、やはりなろう系では主人公に敵対している相手、非道な行いをしている相手を、ためらいなく殺す。あっさりと。主人公も読者も、相手を殺したことなど次の章に至る頃には忘れているくらい人を殺すことを特別視しない。
(中略)
 対してなろう系。セックス、殺人にためらいがないのに、酒を飲む程度避けるわけがない。
 忌避されない、どころか上記の行為がなければ作品として成り立たない作品もなろう系には少なくない。

②なろう系の主人公は利己的・功利主義的である
(中略)
 ところが、なろう系の主人公はしばしば、利己的で自分勝手であるか、あるいはそのように自分で思いこんでいる。
 なろう系の多くの作品で、主人公は冒頭で物語の目標を定める。死亡フラグを回避する・追放されたかつての仲間に復讐する・本のない世界で本を作る・失敗したルートをやり直す・ハーレムを築くetc.
 そうと決めたら、あとはその目的のためだけに行動する。その利己的なふるまいが、結果的にその世界の住民たち、ヒロイン・パートナーたちの利益となり、いつの間にか賞賛され、ますます目的のために邁進する、というのがなろう系の典型的なパターンだ。

③なろう系に強大な敵は存在しない
(中略)
 ところがなろう系では、主人公は無双の強さを最初から手に入れている。やりたいことは意中のままに実現し、前世の知識から危険は回避され、ヒロインはすぐデレ、あるいは初めから相思相愛の状態で物語が始まり、奴隷はご主人様に忠実、障壁はとんとん拍子に取り除かれる。
 これではすぐに物語のネタが尽きてしまうのではないか、と危惧してしまうが、あの手この手で主人公は更なるレベルアップを果たし、また新たな無双を繰り広げ続ける。

なろう系は悪か?

ここまで、「なろう系とラノベ(ライトノベル)の違い」や「なろう系の特徴」を書いてきました。
昨今、「なろう系を悪」として、なろう系じゃない作品を求める出版社やコンテストも増えてきました。
彼らに言わせると、なろう系は低俗であり、作家のプライドがないそうです。

しかし私からすれば、指摘する観点がずれており、あまり価値のある指摘ではないと考えています。
なろう系は私的の産物であり、タブーのないところが特長だからです。

確かに、私的な「ひそかな欲望、願望、感情」は公共の場では悪かもしれません。
しかし「なろう系」を評価するときに「公共」の物差しは役に立たない。読んで「ひそかな欲望、願望、感情」がどれだけ叶えられたかを考えるべき、です。

なろう系叩きで台頭する「資本主義ノベル業界」

「なろう系」を叩いているのは、ラノベ(ライトノベル)の目指した高尚さ・矜持の威を借りつつも、お金儲けにまい進する「資本主義ノベル業界」とでも、言えるのではないでしょうか。

ラノベ(ライトノベル)の目指した高尚さ・矜持を貫きたいのなら、貫いて滅亡すればよいだけです。
そうしないで「なろう系」をたたくのは、「なろう系」との対立構造を作り出して話題となり、「なろう系」に批判的な読者をあつめてお金儲けをしたいからでしょう。

私は「資本主義ノベル業界」の台頭を望ましいと感じません。
「公共」に浸かって生きてきたので、正義に必ず勝ってほしいと考えてしまします。
つまり、「なろう系」を叩いて上記が儲け、古き良き「公共」のラノベ(ライトノベル)業界が滅ぶ未来は見たくないのです。
多くの小説クラスタで「資本主義ノベル業界」に対して反発が見られるのは、ラノベ(ライトノベル)の目指した高尚さを好きな人が多いからじゃないでしょうか。ラノベを読むことは「公共」の精神を育んでいるんじゃないでしょうか。

私はラノベ(ライトノベル)業界が「公共」のエンターテイメントを支え、そのまわりで「私的」欲求全開の「なろう系」が面白おかしく盛り上がっているのが、小説界隈にとって健全だと感じます。

 

「公共」×「私的」がヒットする

ラノベ業界の「公共」性も、なろう系の「私的」も価値があります。

しかし現代においては、「公共」と「私的」を上手く掛け合わせるのが一番面白いです。

例えば、私が最近面白いと感じたのは、以下の福祉×賭博のデイサービス・ラスベガス。体操したらギャンブルに使えるコインがもらえる等、漫画カイジのような世界観を「公共」の福祉に適用しています。

私はこの発想、「なろう系」っぽいなと感じました。「公共」の堅苦しさが緩和されて、親近感が湧きます。人間、正論だけで生きてるわけじゃないので、ホワイトの中にグレーを混ぜていくのは有効ですね。職員が何か粗相しても「これでルーレットでも回してきてよお爺ちゃん」とコインを渡せばすみそうです。
今後は現実世界でも、今までタブーとされていたものを「公共」と掛け合わせる流れが来るかもしれません。

 

ラノベ好きが「なろう系」を嫌いな理由

ラノベ(ライトノベル)は好きだけど、「なろう系」は嫌いという人も多いでしょう。
なろう系叩きで台頭する「資本主義ノベル業界」の項でも書きましたが、ラノベが好きな人って『ラノベ(ライトノベル)の目指した高尚さを好き』な人が一定数いると考えています。
そういった人たちが、「公共」の正反対に位置する「私的」な物語であるなろう系に反発するのは至極当たり前です。

特に流行に乗れていないと悩む必要もなければ、流行に無理してついていく必要もありません。
逆に「なろう系」で成功すれば金銭的なメリットがあるので、「なろう系」を書かなきゃ損!と思う方は、「なろう系」を書く素質があります笑 (金銭的欲求を前面に出すとよいかもしれません)

「公共」にどっぷりつかった人は、儲かるから「なろう系」を書くと考えられない人も多いです。そういった人は、ラノベ業界から出版する道もありますので、ラノベ業界を目指すほうが良いでしょう。

できれば、「公共」のエンターテイメントを重視する投稿サイトや出版社が増えるとよりよいと感じます。
出版業界の今後に期待です。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
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