文学とは何か?ライトノベルと文学
文学とは何かについてエントリーを書こうと、調べていました。
そこで思い出したのが、下記のエントリーを書く際に読んだ『文学のトリセツ』という本です。
文学とは何かから、いま文学を学ぶ意味、文学の批評の方法までが書かれている、とても素晴らしい本です。
この本の内容をいくらか紹介しながら、文学について考えてみます。
文学はフィクションなのか?
『文学のトリセツ』では、夏目漱石や宮沢賢治などのフィクションが文学としてとりあげることもあるけれど、兼好法師の『徒然草』や福沢諭吉の『学問のすゝめ』のような、フィクションでない作品も日本文学として名を残していることが書かれています。
また、フィクションでも文学としてとりあげられない例として、大森藤ノの『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』と、同じ年に発表された村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を比較して、大ベストセラーのダンまちに対して、評論家が見向きもしなかったが、村上春樹は発売直後から評論家による批評が行われた件をとりあげています。
文学は道徳教育の道具なのか?
『文学のトリセツ』では、優れた文学作品として、『ごんぎつね』『モチモチの木』『スイミー』をとりあげ、『ごんぎつね』から罪を償うことの大切さ、『モチモチの木』から真の勇気とは何か、『スイミー』から一致団結の精神の大切さを理解できることが書かれています。
しかしながら太宰治のように、救えない男の話……『人間失格』を書くような文学作家もいます。直木賞作家・檀一雄の『火宅の人』などは、家庭を捨て、新劇女優と同棲するなど、苦悩を抱えながらも自由奔放に生きた放浪の作家・壇一雄の自伝的小説です。
これらは道徳教育として望ましいのか?が投げかけられ、作品の内容だけでは文学と非文学の線引をすることは難しいようだと結論づけています。
文学は美しい文章なのか?
では、「文学テクな作品とは、独特なテクニックと美しい言葉を使っている作品だ」と『文学のトリセツ』の作者は想定し、検討されました。そもそも芸術自体が美を求めるものなのだから、芸術である文学も美しいことが条件なのでは?という考え方です。
しかしこれも否定されています。美文家として知られる作家谷崎潤一郎は『文章読本』の中で『文章に実用と芸術的との区別はないと思います』と述べたそうです。「カッコいいコトバ」と「フツーのコトバ」とを区別することに、あまり良い印象をもっていないことがうかがえますね。
これは本には書いていないですが、実際どんなコトバでも、カッコいいかフツーかは時と場合によりますよね。例えば天気の子で森嶋穂高が天野陽菜を「陽菜」と呼ぶシーンは(私は)カッコいいと感じるのですが、文章だけで見ると何の変哲もない名前です。
結論、文学とは何か
核心に向かう中で、『文学のトリセツ』では、大学で文学部という研究機関が出来た背景に触れています。文学部を設立したのは19世紀のイギリスで、下記の背景のもとで文学部が創設されたと書かれています。
・政府に従順だった労働者階級が反抗的になったこと
・植民地における不満
【詳細】政府に従順だった労働者階級が反抗的になったこと
労働者の不満をおさえていた教会の権威が、19世紀に失われていました(原因はダーウィンの進化論や、「神は存在しない」と主張するマルクス主義といった思想の変化です)。これに対して新たな道徳(政府への服従)を教えるための道具が必要だった……という背景がひとつ。
【詳細】植民地における不満
19世紀といえば大英帝国全盛期(1830〜1870)。アフリカやアジアの広大な植民地を有していたころです。イギリスは安い賃金で植民地の人々を働かせ、莫大な富を築いていました。そうなるともちろん支配されていた人々は不満を抱きます。人々の感情に訴える仕方で道徳(イギリスへの従順)を教えるための手段として、文学が用いられたというのがふたつ。
ですので、何が文学であるかは、その時々の権力と関係しているのではないか。社会の変化によって形を変えていく、幻想のようなものなのではないかと締めくくられています。
ライトノベルと文学
実は2020年、東海大学の国語の問題として涼宮ハルヒの憂鬱が出題されていました。
こういった潮流を踏まえると、いずれはライトノベルが学問として取り扱われるときがくるのかなと感じます。ライトノベルが大好きで、深く洞察して読んでいる人が増えて、そういった人が大学で好きを突き詰めたら、自然と題材はライトノベルになりますよね。
そして大学でライトノベルを論じた人たちが教授になって、本を書いて、教科書をつくるような立場になったら……小中学校もライトノベルを題材に、授業をすることになるかもしれません。ライトノベルが文学と呼ばれるそのときを、楽しみに待ちたいと思います。
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