エタる理由 未完の小説は悪か?

エタる小説……未完の小説について、小説クラスタで話題になっていました。物事を中途で投げ出す人間は信用されないので、ソードマスターヤマト方式でもよいから、必ず完結はさせるべきという意見が発端です。確かに固定ファンの信頼を勝ち取るために、完結は一つ武器になります。10万文字を超えて完結している作品は、少ない数が書籍化しています。

本エントリーでは「エタる」とは何か、「エタる理由」、「未完の小説は悪か?」について書いていきます。

エタるとは何か

エタるとは、未完結の連載作品にも関わらず、を長期間更新がなく放置されている作品の状態のことを言います。エタるの語源はEternal(エターナル=永遠)未完結であり、永遠に終わらないという意味で名付けられました、

なお、日本語には「絶筆」という言葉もあり、書き続けてきた物の続きを書かないことや、書くのをやめることを絶筆と言います。

エタると絶筆の違い

絶筆の場合は「作者の明確な意思で書くのをやめる」「作者の死等により執筆中止を余儀なくされる」という意味が強く含まれます。

エタるの場合、作者がTwitterなどで「続き書かないと…」などと活動を続ける姿勢を見せていたり、エタった作品とは別に新作を投稿している点が違いとしてあるでしょう。

つまり

絶筆は執筆と絶縁すること。エタるは執筆に未練を残しているが書かないこと。

となります。では、なぜ作家は執筆と絶縁していないのに、書かなくなってしまうのでしょうか。

エタる理由

エタる理由は人によって異なりますが、多くの場合以下の4つに大別されるでしょう。

※全体をまとめて言うならば「やる気の低下」なのですが、モチベーションが失われる原因にはたくさんの理由があるということです。

時間がない

モチベーションが失われる原因は、時間がないことです。仕事の都合、受験、子育て、介護などで毎日を忙しく過ごしていたら、小説のアイデアを練り上げる時間も取れないですし、執筆時間も取れません。

私も仕事で何度も経験していますが、時間がなく、期限に追われていると他のことをできる精神状態ではなくなります。

時間がない……はモチベーションが下がる一番の原因であり、エタる原因でしょう。

※人によっては「時間がないを言い訳にする人は、執筆の優先度を落としているので覚悟がない」と言う人もいます。しかし生活のための行動と、趣味の行動は分けるべきです。人にはたくさんの価値観があります。趣味が価値観ランキングの一番最後に来る人もいます。時間がない、は恥ずかしいことじゃないです。

それではどうすれば良いのか?まずは自分の時間を確保することです。仕事でいえば定時に上がれる職に転職するなどし、自分の時間を確保することが大事です。筋トレをして体力をつけることで、ダルくて何もできない時間を減らし、執筆にあてるというのも良いでしょう。転職と筋トレが全てを解決します。

あとは無駄な付き合いを減らすことです。しかし一見無駄な付き合いの中でアイデアが生まれることもあるので、一概に良いとも言えません。気分が乗らない時は執筆もどうせ進まないので、そういうときの気晴らしに留めておき。執筆のやる気が出たら付き合いを断るような抑揚をつけましょう。時間がないを解決することで次のステップに進めます。

プロットの崩壊(矛盾)

2番目はプロットの崩壊です。例えば400字詰め原稿用紙200枚まで書いてから、最初の30枚とキャラの行動原理や、舞台装置、世界観などに致命的な矛盾を発見したら、やる気は一気になくなりますよね。例えば以下のようなものです。

・最初の30枚で友達想いだった主人公が、200枚目で友達を見捨てる決断をしたのだが、最後まで書き切っても友達を見捨てたという薄情なイメージを払拭できる見込みがない。

・舞台装置として用意した飛行要塞が200枚を超えるあたりで地上に落ちるのだが、最初の30枚で地上にあると厄災を引き起こすので要塞を空に飛ばしたと語っていた。地上に落とした後の厄災を考えていないし、要塞は最後まで地上に残り続けるプロットになっている。

・人が死んだら生き返らない世界観で、蘇りの魔法を登場させたため、その後戦闘シーンに緊張感がなくなった。

 

これらの原因はプロットを作り込んでいないことです。物語のコンセプトを作り込んだり、SAVE THE CATの法則で紹介されている最強の物語構成用テンプレート「ブレイク・スナイダー・ビート・シート(=BS2)」を利用して、最後までのプロットを作成してから書き始めると良いですね。

書いていて面白くない

3番目は書いていて面白くない問題です。実はこれはプロットを作り込みすぎることで発生する場合があります。

物語がどう転ぶかわからないから書いていて面白い!と感じる人は、プロットを作り込みすぎると、なんで同じこと2回書いてるんだと感じて面白くなくなります。こういう人は、燃え尽きないプロットの書き方をすると良いです。以下のエントリーで紹介していますので参考にしてください。

ただし、シナリオのコンセプトや、矛盾させたくない部分については、先に考えておきましょう。ポイントはキャラの行動原理や、舞台装置、世界観です。特にキャラの行動原理は違和感がないよう仕上げます。

おそらく、プロット通り書いてて面白くない人は、指輪物語のように緻密な世界観やストーリーを書くのに向いていません。最悪、物語に矛盾があってもいいやくらいの気持ちで、完璧を目指さずいきましょう。それが結果として予想できない面白い物語を生み出します。

新作を書きたくて仕方がない

最後に紹介するのは、新作を書きたくて仕方ないのでエタる事例です。

これは新しい物好きで、流行に乗るのが得意な人に多いイメージです。

だとすると、そうした人たちは新作をどんどん書いた方がよいです。新しいものや流行に乗れるのは一種の才能ですし、流行に乗ることがヒット作を生む一番簡単な方法ですからね。

ただし、書籍化するためには10万文字必要なことを忘れてはいけません。いざとなったら10万文字まで膨らませる構想を持って、新作に取り組みましょう。

 

エタる、未完の小説は悪か?

ここまでエタる理由を見てきました。最後に問いたいのは「エタる、未完の小説は悪か?」と言うことです。

確かに冒頭で問題提起されたように、物事を途中で投げ出す人は信用されないので完結させるべき。未完の作品が多数ある作家は,風呂敷を畳めない、どうせ終わらせられない人だと読者から思われ信用をなくす。

という話もあります。

しかし一方で、読者が作家の過去の未完作品をどれほど気にするか?は未知数です。私たち自身、大ヒット漫画家の過去の読み切り作品などほとんど興味がないように。大ヒット小説さえ書ければ、過去の実績などあってないようなものです。

未完の小説がバカにされるのは、もしかしたらネット上だけかもしれません。私たちはもっと、気軽に小説を書き始めて良いのです。

※ただし、10万文字書かないと書籍化できないことは覚えておきましょう。1万文字の作品を10個書いても本にはならないので、文字数を書けることは大事なことです。

 

なぜ「エタる、未完の小説は悪」と見られる?

ではなぜ、「エタる、未完の小説は悪」という価値観が生まれるのか。それは、作家に完璧主義者が多いからじゃないでしょうか。

私自身、物語があるべきところに着地する美しい作品が大好きです。

そのため、中途半端な物語は書きたくないと思うし、中途半端で終わる物語は嫌いです。ですが世の中にはハンターハンターをはじめ、未完の大ヒット作品がたくさんあります。むしろ収め方を考えず風呂敷を広げる方が人気です。

Web小説の革命

なぜ自分がそれをできないのかと言えば、風呂敷を畳む自信がないからです。畳めるレベルでしか風呂敷を広げない……とすると自分の力をセーブしていることにもなります。エタることを恐れずに、風呂敷を広げることも時には必要かもしれません。

思えば公募小説は、1冊で風呂敷を畳むことが求められます。公募の世界では完璧主義者が有利です。

しかしWeb小説は風呂敷を広げ続けることができる媒体です。もちろん書籍化の際に手は加えられますが、1冊目で四天王のうち1人しか登場していなくても許されます。

この風呂敷の可動域が、Web小説の革命だったかもしれません。週刊漫画が当たり前のようにやっていた風呂敷を広げる行為を、ようやく小説もできるようになったということです。

だとすると、私たちはエタることを恐れず、10万文字というマイルストーンに向けて、どんどん風呂敷を広げて、自分が面白いと思う小説を書き続けるのが良いのではないでしょうか。現代において「エタる、未完の小説は悪ではない」。そう考えるだけで、小説を書くのがグッと楽になる気がするのです。

ぜひ皆さんも気楽な気持ちで、小説を書き始めてみてくださいね。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
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