創作ネタ | 手垢のついた物語に、面白さを吹き込む方法

2020年12月6日

 「信長の原理」という本を読みました。

 この本は、織田信長を主人公とした歴史物語です。織田信長の物語なんて、日本人の殆どが知っている、手垢のついた物語ですよね。ですがこの作品は、司馬遼太郎の『国盗り物語』や、山岡荘八の『織田信長』と違う意味で、面白かったです。
※松永久秀が信長の本質を見抜いて裏切るシーンは必見です。

 今回は「信長の原理」から気づいた、手垢のついた物語に面白さを吹き込む方法について、書いていきます。

手垢のついた物語とは何か?

 手垢のついた物語とは、『すでに似たようなものが多く存在していて、新鮮味がなくなり、陳腐化(市場価値の低下した、古臭い)した物語』のことです。

 この定義を見ると、ライトノベル作家にも他人事ではないことがわかります。

 歴史小説化が織田信長を書き倒しているように、ライトノベル作家は異世界転生小説、追放系小説、恋愛小説を書き倒しています。すでに似たようなものが多く存在していて、新鮮味がなくなり、市場価値の低下した、古臭い物語……、といわれて該当する作品を、私たちは簡単に思い浮かべることができるでしょう。

  

手垢のついた物語の特徴

 本書の著者である垣根涼介先生は、信長を題材にした歴史小説全般について下記のように語っています。

「信長を題材にした歴史小説は、"信長の人生から何を抽出するか?"という切り口が曖昧なものが多いように見受けられます。だから、時系列にただ並べたように書いた、ベターッとした語り口になってしまうのかな? と……。」

 この言葉には「手垢のついた物語」に共通する重要なポイントが2つ含まれています。

 ひとつは、物語を通して何を伝えたいのか(主人公の人生から何を抽出するか)が曖昧。
 もうひとつは、時系列にただならべた、ベターッとした語り口。

※時系列にただならべた、ベターッとした語り口というのは、家臣との関係、妻との関係、戦、政治などが時系列順にバラバラと書かれていることを指すでしょう。

 

手垢のついた物語に面白さを吹き込む方法

 では、手垢のついた物語に面白さを吹き込む方法はないのでしょうか。いえ、あります。

 今回ご紹介している垣根涼介先生の「信長の原理」では、信長の人生から「2:6:2の法則」を抽出する……という組織論を抽出することで、面白さ(新鮮さ)を吹き込みました。

 2:6:2の法則とは、どんな組織の人間も2割の懸命に働く蟻、6割の働き者に引きづられてなんとなく働く蟻、2割の働くふりをして仕事をせぬ蟻にわかれるという法則です。有名な「2:8 の法則(パレートの法則)」の応用版です。

 これは企業という組織で動くことが当たり前となった、現代という切り口から見事に歴史を書いた結果だと感じました。垣根涼介先生は下記のようにも語っています。

「現代の人に読んでもらう小説なのだから、当然、現代的な切り口を見出したほうが良い。あれこれ悩んだ末、信長と家臣の間の、組織構造の事案のみにフォーカスを当ててみたくなったんです。これならば現代の人にもきっと我が身に引きつけて読んでもらえるし、組織構造にまつわるエピソードだけをピックアップしていくことで、最短距離で本能寺の変まで辿り着けるんじゃないかと思いました」

「信長は『2:6:2』の法則を知りながらも、構成員の10割、全員のパフォーマンスが100%発揮される組織を目指していた。でも、その考え方には無理があります。『2:6:2』の法則は蟻であれ人間であれ、集団生活をする生物が組織体を構成した際に必ず現れる原理なんです。となれば、完全に機能する組織を目指すトップと、その下にいた家臣たちの心情との間に、乖離が生じるのは事の必然だと感じます」

 織田家はいわば、強力な社長をトップに添えたワンマンベンチャー企業です。織田信長は社員全員を100%働かせようとして、叱責、左遷などパワハラを繰り返します。そんな社長についていけない社員が、袂を分かつ(裏切る)のは、世界の法則なのだ。
 そんなメッセージがこの物語からは感じられます。

 私は「信長の原理」を読んで、「信長はカッコいい」「信長は天才」「裏切り者さえいなければ天下を取っていた」という従来の信長観がひっくり返りました。
 構成員の10割を100%働かせたいというのは、リーダーであれば誰でも思いつくことです。それを仕組みづくり(パワハラによる恐怖や、腰を落ち着ける土地を奪い貸し付けること)によって徹底したのが、信長だったということです。それでいて、蟻ですら従う生物の特性を無視した、理に沿わぬことをしているのだから、裏切り者が出てくるのは当たり前です。

 また、私は、組織の人間だけでなく、人生すら『2:6:2』の法則にしたがっていたように感じました。若い頃は懸命に働く蟻だった人が、いつしかなんとなく働く蟻となり、最後には仕事をせぬ蟻になってしまう。ありそうでは、ないですか?

 それどころか、1年間のうち2.5ヶ月は全力で働き、7ヶ月は流れに任せて過ごし、2.5ヶ月は何もしない……人間の生活って本来はそんなものなのだと思います。1年間全力で働き続けるなんて、できやしない。

 私は信長自身も最後の方は、仕事をせぬ蟻になったのではないかと感じます。『2:6:2(1:3:1)』の法則があるから、家臣を4人以下にすれば仕事をせぬ蟻はいなくなる……という考えに囚われたのは、まさに老いでしょう。『2:6:2(1:3:1)』の法則があるなら、人を増やせば働く人間も増えるのだと考えられなかった点。これは秀吉より劣っていたと感じます。

 読後に感じたのは、功績こそ凄いものの信長も普通の人だったということでした。新しい視点です。

 手垢のついた物語に面白さを吹き込む方法は、このように新しい視点を入れることです。

 

新しい視点の見つけ方

 では、新しい視点を入れるにはどうすればいいのでしょうか。実は簡単な方法があります。

 それは、様々なランキングに目を通すこと。

 2,3年前でしたかね。雑誌「歴史街道」で上司にしたい歴史上の人物ランキングが載っていました。そこで上司にしたいランキング第1位は織田信長でした。私自身、「信長はカッコいい」「信長は天才」「裏切り者さえいなければ天下を取っていた」という考えを持っていましたから、織田信長を上司にしたいと考えたことがあります。

 ですが垣根涼介先生の「信長の原理」を読めば、信長を上司にしてはいけない……そんな思いが強くなるはずです。

 ここから学べることは、様々なランキングには、その時代時代の価値観が反映されているということです。

 そして新しい視点とは、そのランキングを否定することです。こう考えると新しい視点が山程出てくると思います。

 ただ、ライトノベルでいうと、ランキングにラブコメが多いからラブコメ以外を書く……とかすると失敗します。ラブコメ、異世界転生、追放といったジャンルの中でランキングを見て、上位作品を否定するような作品を書いてみる。そうすると、各ジャンルで流行に飽きた人たちが、新しい視点だと楽しんでくれるでしょう(ただし、流行に手垢がつくまでは、流行に乗ったほうが正解です。誰もがそろそろ流行に飽きてきたころ、新しい視点の物語がはじめて日の目を見ます)。

  

まとめ

 手垢のついた物語に、面白さを吹き込む方法について書きました。

 流行に乗って、テンプレートをなぞるだけの物語を書くと、物語を通して何を伝えたいのか(主人公の人生から何を抽出するか)が曖昧になったり、時系列にただならべた、ベターッとした語り口になったりします。

 これでは手垢のついた物語だと読者に見放されてしまいます。

 そこで、現代だからこそできる新しい視点……または、あなただからこそできる新しい視点から物語を書いてみる。それが新鮮さとなり、面白さを吹き込むことに繋がります。

 そして、手垢のついた流行に対する新しい視点とは、様々なランキングから気づくことができます。ランキング1位という、誰もが望んでいる常識に対し、否定をしてみる。これが新しい視点となり、流行の過ぎ去ったころに、日の目を見るときがくる。という話を書きました。

 あなたの物語ライフのお役に立てば幸いです。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
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