小説を書くことは健康に良い|ライティングセラピーと創作がもたらすメンタルヘルス効果

2020年12月13日

「小説を書くことは健康に良い」——こんなことを言ったら、笑われるかもしれません。でも、私はわりと本気でそう考えています。

カロリンスカ医学大学教授のエーバ・ボイナー・ホルビッツは、著書『健康のための文化活動』で「文章を書くことで身体の免疫システムが強化される」という理論を提唱しました。文章を書く行為が、単なる趣味を超えて心身の健康に影響を与えるという主張です。

本エントリーでは、ライティングセラピー(筆記療法)やポジティブサイコセラピーといった心理学的知見を紹介しながら、「小説を書くことがメンタルヘルスに良い」という実感を掘り下げてみます。

創作ノウハウ200超|小説の書き方ガイド

小説を書くことでストレスが解消される

これは私自身の経験ですが、小説を書くことは確かにストレス解消になっています。

以前、わたしたちが物語を書くべき理由という記事で「自分の中に抱えているモヤモヤを形にすることで、自分が救われることがある」と書きました。実際、私は自作小説のワンシーンに心を救われた経験があります。

家族に言えなかった不満を、キャラクターの言葉として吐き出すことができる。あのとき伝えられなかった感謝の言葉も、物語の中でなら伝えられる。そうやって 自分の内面を物語に昇華すること が、過去を精算し、ストレスを解消してくれるのだと感じています。

小説の良いところは、直接的に誰かを傷つけることなく、自分の感情を外に出せることです。日記に書くのとは違い、フィクションの衣をまとわせることで、より自由に、より深く、自分の内面に向き合えます。

ライティングセラピー(筆記療法)という心理療法

心理療法の中に、 ライティングセラピー(筆記療法) というものがあります。

「思考や感情を文章化することで、感情をうまく処理することができ、メンタルを浄化したり、癒やしたりする効果がある」——これは学術的にも示されている事実です。

テキサス大学のジェームズ・ペネベーカー教授による研究が有名です。ペネベーカー教授は、被験者にトラウマ体験について1日15〜20分、4日間書いてもらう実験を行いました。その結果、書いたグループは書かなかったグループに比べて、半年後の医者の通院回数が有意に減少したのです。

つらい経験を言語化するだけで、心だけでなく身体の健康にも好影響が出る。 これは驚くべき結果ではないでしょうか。

私自身、30歳のときに自分史を書くことで、それまで悩み続けていた病気や家族との関係を少しずつ整理することができました。書くことで「これは自分の人生にとってどんな意味があったのか」を客観的に見られるようになったのです。

考えてみれば、創作活動そのものが、日頃のネガティブな感情を形にして処理する手段だったのかもしれません。

書いたことが自分に影響を及ぼす——言葉のブーメラン効果

ここで一つ、注意しておきたいことがあります。 書いた言葉は、自分自身にも影響を及ぼす ということです。

たとえば、人生が嫌なことばかりだと感じているとき、X(旧Twitter)を開くと愚痴ばかり書いてしまいます。書いた瞬間はスッキリするかもしれませんが、後で自分のタイムラインを見返したとき、愚痴が延々と並んでいて憂鬱になる。

以前デイトレードをしていたころ、Xに損益報告ばかり書いていたことがあります。結局1年間の損益がトントンだったのですが、残っていたのは愚痴と後悔のツイートだけでした。あのとき「何のためにやっていたんだろう」と虚しくなったのを覚えています。

これは ネガティブなアウトプットが、ネガティブな自己認識を強化してしまう 構造です。愚痴を書く→読み返す→自分は不幸だと再確認する→さらに愚痴を書く……という悪循環。

逆に言えば、 ポジティブなアウトプットは、ポジティブな自己認識を強化してくれる はずです。一日にあった些細な良いこと、面白いことを書き留めてみる。一週間にひとつしか見つからなくてもいい。そうした小さな積み重ねが、いざ振り返ったときの「いい思い出」になるのだと、今は確信しています。

ご機嫌で書き続けた結果、いい思い出しか残らなかった

実はこのブログ自体が、その実践例になっています。

2019年9月——ブログを始めたばかりの頃、私はやたらと尖った記事を書いていました。まだ30記事程度しかなく、余裕がなかったのでしょう。「他と違った鋭い記事を書かないと」と力んでいました。

しかし2020年11月の記事群を読み返すと、自分でも驚くほど穏やかな文章を書いています。200記事を超え、方向性が定まり、気持ちに余裕が出てきたのかもしれません。

どちらの時期も、実際にはつらいことがたくさんありました。でも、 残っているのはいい思い出だけ なのです。ご機嫌で書いたものだけが記録として残り、苦しかった日々の記憶は薄れていく。

これはまさに、次に紹介する「ポジティブサイコセラピー」の効果を、無自覚のうちに体験していたのだと思います。

ポジティブサイコセラピー——良いことだけを書き留める技術

心理療法の中には、 ポジティブサイコセラピー という手法があります。

具体的には、「ポジティブな自己紹介」を書いて最高に成功していた時期の物語を語ったり、その日に起きた良いことを2〜3個書く「いいこと日記」をつけたりするものです。

私自身は日記を続けるのが苦手なので実施したことはありませんが、やっていることはブログと本質的に同じです。 ポジティブなことだけを書き溜めて、後で振り返る。 するとその時期が「良い時期だった」という記憶になる。

小説でもこの原理は応用できます。作品の中でポジティブなメッセージを込めて書いたシーンは、 作者自身のメンタルにも良い影響を及ぼす のです。読者に希望を届ける物語を書くことが、同時に作者自身を癒やしているとしたら——創作活動にはそういう側面が確かにあります。

「なろう小説を書くと鬱が治る」は根も葉もない話ではない

「なろう小説を書くと鬱が治る」「作者が小説から得る快感は、読者の10倍近くになります」——こんなツイートが以前話題になりました。

一見すると大げさに聞こえますが、ここまで書いてきたライティングセラピーやポジティブサイコセラピーの知見を踏まえると、 あながち誇張でもない と感じます。

実際、私自身も主人公を称賛したら気持ちよかったという記事で体験を書いています。「スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました」をリスペクトして、自作の主人公を思い切り称賛してみたところ、書いている 作者自身が ものすごく気持ちよくなれたのです。

考えてみれば当然です。読者は完成した物語を受け取るだけですが、作者はゼロから生み出す過程のすべてに関与しています。キャラクターの言葉は、自分の言葉でもある。キャラクターの成功は、ある意味で自分の成功体験でもあるのです。

さらに実用的な視点で言えば、 鬱が治るくらい主人公を称賛した作品 は、読者にとっても気持ちがいいはずです。土日祝日も勉強しながら必死で生きている現代人が求めているのは、疲れを癒やしてくれる物語。作者のメンタルケアと読者のニーズが一致するという、なかなか素敵な構造ではないでしょうか。

「書く」という行為そのものが持つ治癒力

ここまでの論点を整理してみましょう。

ライティングセラピー の知見によれば、思考や感情を文章化することで感情を処理でき、メンタルを浄化する効果がある。ペネベーカー教授の研究では、身体的な健康指標すら改善しています。

ポジティブサイコセラピー の視点では、ポジティブなことだけを書き溜めて振り返ることで、記憶そのものが良い方向に再構成される。実際にブログ運営で体験しました。

小説執筆 の特殊性として、キャラクターを通じて自分の感情を安全に外部化でき、さらに主人公の成功体験を通じて作者自身が快感を得られる。

つまり、小説を書くことは ストレスの言語化、記憶のポジティブな再構成、そして疑似的な成功体験 という三つのメンタルヘルス効果を同時にもたらしているのです。

孤独が文章を深くする理由|創作者にとっての「ひとりの時間」でも触れましたが、一人で黙々と書く時間は、孤独ではなく「自分と対話する時間」です。その対話が、知らず知らずのうちに心を整えてくれている。

もちろん、小説を書くことが医療行為の代替になるわけではありません。深刻な症状がある場合は専門家に相談すべきです。しかし、日常的なストレスケアとして「書く」という行為が持つ力は、もっと広く認知されてもいいのではないでしょうか。

まとめ:自分を癒やすために書き始めてもいい

あなたが小説を書き始める動機は何でもいいのです。大賞を獲りたい、書籍化したい、承認欲求を満たしたい——どんな動機でも構いません。

そしてもう一つ、 「自分を癒やしたい」という動機からでも、小説を書き始めて大丈夫 です。

ライティングセラピーの研究が示すように、書くことには心身を整える力があります。ポジティブサイコセラピーが教えてくれるように、良いことを書き溜めれば記憶は塗り替わります。そして何より、自分が気持ちよくなれるような物語を書けば、それを読む人も気持ちよくなれるのです。

時代は意外と、そんな優しい小説を歓迎してくれるかもしれませんよ。

小説を初めて書くあなたには、20代で「書く習慣」を身につけた人間が、腰を壊した後も生き残れる話もおすすめです。書く習慣は、創作力だけでなく人生の耐久力を底上げしてくれます。


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