「面白さ」とは何か|物語が人を惹きつける構造を分解する

2019年9月16日

「面白い小説を書きたい」。

そう思わない書き手はいないでしょう。でも、「面白い」って具体的に何なのかを突き詰めて考えたことはありますか?

この記事では、「面白さ」の定義を理論的に探っていきます。面白くするための「コツ」や「テクニック」は別記事で扱いますが、まずは面白さの正体を知ることが出発点です。

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面白さの定義 ――「予想を外す」ということ

『純粋娯楽創作理論 第一章・面白さの基礎原理』という本で、面白さは「予想を外すこと」だと定義されています。

辞書で「面白い」を引くと、大きく6つの意味が並んでいます。

1. 興味をそそられて、心が引かれるさま ──「この作品は面白かった」
2. つい笑いたくなるさま ──「この漫画は面白い」
3. 心が晴れ晴れするさま ──「面白く過ごした」
4. 一風変わっている、普通と違って珍しい ──「面白い声」
5. 思ったとおりである、好ましい ──「結果が面白くない」
6. 風流だ、趣が深い

このうち1と4は、まさに「予想を外す」ことに関わっています。

興味をそそられる人というのは、自分の思い通りにならずハラハラする人ではないでしょうか。予想を外すから目を離せなくなり、心が引かれる。

また、「一風変わっている」人に面白さを感じるのも、結局はその人が予想と違うことを言ったりするから面白いと思うわけです。

認知科学が解き明かす「予測誤差理論」

2020年代に入り、認知科学の分野で「面白さ」の研究が進んでいます。

予測誤差理論(Prediction Error Theory)によれば、人間の脳は常に「次に何が起こるか」を予測しており、その予測が外れたときにドーパミンが分泌されます。このドーパミンが「面白い」「もっと知りたい」という感覚を生み出しています。

つまり、面白さとは脳科学的にも「予測との差異」なのです。

ただし、予測からの逸脱が大きすぎると「意味不明」「ついていけない」になり、逆に快感ではなくストレスになる。面白さが成立するのは、予測が「ちょうどよく」外れたとき――想像の範囲を少しだけ超えたとき――です。

この「ちょうどよさ」を、心理学では「最適不一致」と呼びます。名作と呼ばれる物語は、この最適不一致を絶妙にコントロールしているのです。

「予想を外す以外」の面白さもある

しかし、辞書の定義には予想を外すこと以外の面白さもあります。これらも物語に深く関わるので、一つずつ見ていきましょう。

「心が晴れ晴れする」面白さ ── カタルシス

悩みや苦しみがある状態から解放されるから面白い。

物語に感情移入して、主人公がどん底に追い込まれる。そこから這い上がる展開を見たとき、読者の心は晴れ晴れする。これは古代ギリシアの時代からカタルシス(浄化)と呼ばれてきた原理です。

少年漫画のバトルもの、スポーツ小説のクライマックス、ミステリーの謎解き。すべてに「抑圧→解放」の構造が組み込まれています。

「思ったとおりである」面白さ ── 願望充足

これは予想を外す面白さと矛盾します。にもかかわらず、確かに面白い。

たとえば異世界に飛ばされた主人公が最強の能力を得て、次々と敵を倒し、周囲から認められていく展開。異世界転移という導入を見た時点で、ある程度の方向性を予測する読者は多い。そして予測通りに進んでくれることに快感を覚えるのです。

認知科学で言えば、これはパターン完成の快感。音楽で「ドレミファソラシ……」と来たら「ド」で終わってほしいのと同じ心理です。

予測不能な現実に対して、物語の中くらいは予想通りに進んでほしい。その安心感が面白さの源泉になっています。

「趣が深い」面白さ ── 知的快感

隅々まで根拠が行き届いている作品に対して、「深い」と唸るような場面。

物語が急展開したとき、その背景に科学的なロジックや歴史的事実が織り込まれていると、「そんなことがあるのか、知らなかった!」という知的発見の喜びが生まれます。

アニメで絶望的なシーンでキャラクターが右を向いている。「右=前進=ポジティブ」という映像文法を知っていれば、監督が絶望の中に希望を忍ばせていることに気づく。その気づきが「深い」「尊い」という感動になるのです。

面白さの4類型 ―― あなたはどのタイプ?

ここまでの分析を整理すると、面白さは大きく4つのタイプに分類できます。

タイプキーワード代表的な作品例
予想を外す意外性・驚き・裏切りミステリー、叙述トリック
カタルシス抑圧→解放バトルもの、感動ドラマ
願望充足予想通り・安心感俺TUEEE系、ハーレム
知的快感発見・学び・趣の深さ知識型ファンタジー、歴史もの

ここで重要なのは、矛盾する面白さが共存しているということ。

「予想を外す」と「予想通り」は対極の概念です。だから1つの作品ですべてを満たす必要はない。どれかに「特化」したほうが、物語は力を持ちます。

2024-2025年ヒット作の面白さを分析する

近年のヒット作品がどのタイプの面白さを使っているか、分析してみます。

『葬送のフリーレン』 ──「予想を外す」+「知的快感」。「冒険の『あと』を描く」という視点が既存ファンタジーの予想を外し、魔法理論の深掘りが知的快感を与えている

『薬屋のひとりごと』 ──「予想を外す」+「知的快感」。宮廷×薬学という異色の組み合わせで予想を外し、毒や薬の知識が学びになる

『推しの子』 ──「カタルシス」+「予想を外す」。芸能界の抑圧→真実の暴露というカタルシス構造と、展開の急転直下

『転生したらスライムだった件』 ──「願望充足」。圧倒的な力で問題を解決していく安心感と爽快感

あなたが好きな作品は、どのタイプの面白さを持っていますか?

「面白くない」と言われたとき――批評の受け取り方

ここで実用的な話をします。

自分の作品を「面白くない」と批判されたとき、その批評者がどのタイプの面白さを求めているかを考えると、気分が楽になります。

「予想を外す」ことが面白いと感じる書き手が、「予想通り」であることを面白いと感じる読者から批判されたとする。この2人は面白さの価値観が違うのだから、批判は「否定」ではなく「不一致」です。

同じ価値観を持つ読者には、認められる可能性がある。クリエイターは自作に対してポジティブでいなければ続けられません。この心構えは、長く書き続けるための武器になります。

まとめ ――面白さとは何か

面白い物語とは、以下の要素の1つ以上を持つ作品です。

予想を外す ── 読者の予測を「ちょうどよく」裏切り、ドーパミンを引き出す

カタルシス ── 抑圧された感情が解放される構造

願望充足 ── 読者が「こうなってほしい」と予想する展開の実現

知的快感 ── 知らなかった知識・視点との出会い

すべてを入れる必要はありません。矛盾する要素もあるのだから、どれかに特化するのが正解です。

まず考えるべきは、自分が何を面白いと感じるのか。それを自覚できれば、自然と「何を書くべきか」が見えてきます。


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