マクガフィンとは?|物語を動かす「中身のない鍵」の正体と使い方
あなたの物語に「マクガフィン」はありますか?
「マクガフィン」——戦隊モノのヒーローの名前のようですが、れっきとした物語用語です。映画・小説・ゲーム、ジャンルを問わず使われているのに、いざ説明しようとすると「なんだかよくわからない」。今回は、そんなマクガフィンの正体をとことんわかりやすく解説し、あなたの物語での活用法まで踏み込みます。
マクガフィンとは何か
ヒッチコックが普及させた概念
マクガフィン(MacGuffin / McGuffin)は、映画界の巨匠アルフレッド・ヒッチコックが1930年代に普及させた用語です。
ヒッチコック自身の定義はこうです。
> マクガフィンとは、スパイものに登場する「書類」のようなものだ。登場人物たちはそれを必死に追いかけるが、観客にとってはどうでもいい。重要なのは、それをきっかけにして展開されるサスペンスの方だ。
つまりマクガフィンとは、 物語を動かすための「目的」や「対象」でありながら、それ自体の中身や正体にはさほど意味がないもの のことです。
一言で言えば「中身のない鍵」
鍵がなければドアは開かない。でも鍵そのものの形や材質は物語にとって重要ではない——この感覚がマクガフィンです。
物語を前に進めるために必要な装置であり、登場人物が追いかける目的でもある。しかしその「中身」が別のものに替わっても物語は成立する。それがマクガフィンの本質です。
具体例で理解するマクガフィン
ワンピースの「ワンピース」
漫画『ONE PIECE』のタイトルにもなっている「ワンピース」は、まさにマクガフィンの代表例です。
ルフィたちは「ワンピース」を求めてグランドラインを冒険しますが、読者が夢中になるのは「ワンピースの正体」より、航海の中で出会う人々との物語 です。極端な話、最終的に見つかるものが黄金であろうと古代兵器であろうと「ロジャーの手紙」であろうと、読者がルフィたちの冒険に感動する構造は変わりません。
※もっとも、2025年現在の連載ではワンピースの正体が少しずつ明かされ、物語的意味を帯びてきています。マクガフィンが途中から「マクガフィンではなくなる」展開もあり得る——これも覚えておくと応用が利きます。
チルチルミチルの「青い鳥」
メーテルリンクの童話『青い鳥』で、子どもたちは「幸せの青い鳥」を追いかけます。この「青い鳥」は「赤い鳥」でも「白い鳥」でも物語が成立します。重要なのは「幸せを探す旅そのもの」であり、鳥の色ではありません。
ただし「青」には「青い空=希望」「青い海=未知」というイメージがあり、象徴として最適だから青が選ばれた ことも事実です。ここにマクガフィンの奥深さがあります。
スパイもののブリーフケース
スパイ映画で登場人物たちが命を懸けて奪い合う「機密書類」。中身が核兵器の設計図であろうと暗殺リストであろうと、物語が成立することに変わりはありません。007シリーズでもミッション:インポッシブルでも、ブリーフケースの中身が変わっても映画の面白さは変わらないのです。
マクガフィンの見分け方——「代替テスト」
マクガフィンかどうかを見分ける方法は、じつはとてもシンプルです。
「それを別のものに置き換えても、物語の構造に影響がないか?」
影響がなければ、それはマクガフィンです。
| 作品 | 対象 | 別のものに替えたら? | 判定 |
|---|---|---|---|
| ONE PIECE | ワンピース | 「伝説の地図」でも冒険は成立する | マクガフィン |
| 青い鳥 | 青い鳥 | 「赤い鳥」でも旅の物語は変わらない | マクガフィン |
| デスノート | デスノート | 「名前を書くと死ぬノート」自体がルールであり代替不可 | マクガフィンではない |
| 鬼滅の刃 | 鬼舞辻無惨 | 別のラスボスに替えると物語全体が崩れる | マクガフィンではない |
デスノートの「ノート」は代替できません。ノートの特性そのものが物語のルールであり、プロットの根幹だからです。物語そのものを規定するアイテム はマクガフィンではない——この区別が重要です。
「たかがマクガフィン、されどマクガフィン」
ヒッチコックは「マクガフィンの中身にはこだわらない」と言いましたが、本当にこだわらなくていいのでしょうか?
象徴は読者の記憶に残る
「青い鳥」と「黒い鳥」では、読者に与える印象がまるで違います。物語上の機能は同じでも、象徴としてのインパクトが異なるのです。
「青い鳥」と聞いて、多くの人があの物語を思い浮かべる。これは「青い鳥」という象徴が、作品のアイコンとして機能しているからです。
つまりマクガフィンには2つの役割があります。
1. 物語装置としての役割 — 物語を動かすエンジン。代替可能
2. 象徴としての役割 — 作品の印象を決めるアイコン。代替するとニュアンスが変わる
ヒッチコックが「こだわらない」と言ったのは役割1について。しかし役割2を意識すれば、マクガフィンの選び方ひとつで作品の印象が大きく変わるのです。
SPY×FAMILYの「オペレーション〈梟〉」
『SPY×FAMILY』では、黄昏(ロイド)が「オペレーション〈梟〉」という任務をきっかけに、疑似家族を作ります。
任務の目的は「デズモンドに接近する」こと。物語を動かすマクガフィンです。しかし物語が進むにつれ、この任務は「家族としての絆」にすり替わっていきます。
マクガフィンが物語の中で変質する——最初は装置だったものが、テーマそのものになる。これはマクガフィンの高度な使い方です。
マクガフィンを活用する3つのコツ
コツ1:序盤で「追いかける理由」を明確にする
マクガフィンがうまく機能するためには、登場人物がそれを追いかける理由が読者に伝わる必要があります。
「なぜ主人公はそれを求めるのか?」が不明確だと、読者は物語について行けません。マクガフィンの中身が何であれ、追いかける動機に説得力があれば物語は走ります。
コツ2:マクガフィン自体に「こだわり」を持つ
前述の通り、マクガフィンは象徴です。象徴としてのこだわりは持ちましょう。
具体的には以下を意識してください。
• 名前に力がある — 青い鳥、ワンピース、賢者の石。一語で物語を想起させる力
• 見た目が印象的 — カバンに隠された正体不明の何か、光り輝く石
• 作品タイトルとの連動 — マクガフィンをタイトルにすると作品のアイコンになる
コツ3:正体を明かさない選択肢も有効
マクガフィンの中身が決まらないなら、最後まで明かさないという手もあります。
たとえばカバンの中に何かが入っている。物語を通じてその中身を巡って争奪戦が起きる。しかし最後まで中身が何かは語られない——読者の想像に任せる構造です。
クエンティン・タランティーノの映画『パルプ・フィクション』のブリーフケースがまさにこれ。中身が語られないからこそ、何十年も議論が続き、作品が語り継がれています。
マクガフィンの正体を隠す=読者の想像力を永遠に刺激し続ける という強力な演出なのです。
マクガフィン設計チェックリスト
あなたの物語にマクガフィンを設計するとき、以下の項目を確認してみてください。
| チェック項目 | 確認 |
|---|---|
| 登場人物がそれを追いかける理由は明確か? | |
| 別のものに置き換えても物語が成立するか?(=マクガフィンとして機能するか) | |
| 象徴としてのインパクトはあるか?(名前・見た目・タイトル連動) | |
| 物語の途中で「変質」する可能性を検討したか? | |
| 正体を明かすタイミングは設計したか?(明かさない選択肢も含む) |
まとめ:マクガフィンは「何でもいい」からこそ難しい
マクガフィンは「中身のない鍵」です。物語を動かすための装置であり、代替可能な存在。
しかしだからこそ、象徴としての選び方に神経を使うべきです。「青い鳥」と「黒い鳥」で物語の印象は変わります。タイトルにも使える象徴力を持つマクガフィンを選べたとき、その作品には読者の記憶に残るアイコンが生まれます。
たかがマクガフィン、されどマクガフィン。神は細部に宿ります。あなたの物語の「鍵」に、こだわりを込めてみてください。
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