小説の冒頭文の書き方|読者を掴む「冒頭の技術」を名作の例文付きで解説

2021年12月6日

冒頭文を上手く書く唯一のコツ。結論から言います。「出し惜しみせず、派手にやる」——これだけです。

少年ジャンプ+のデータ担当者によれば、漫画ですら最初の3〜5ページで読むかどうかが判断されるそうです。漫画は絵のインパクトがあるにもかかわらず、です。ならば文章だけの小説では、冒頭の3〜5行、長くても10行で勝負が決まると考えるべきでしょう。

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「でも大事なことを冒頭で言ってしまったらもったいない……」——そう思いますか? いいえ。冒頭こそサビから始めるべきなのです。この記事では、その理由と具体的な技法を、名作の冒頭文とともに解説します。

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冒頭の役割は「興味づけ」

小説に限らず、読者に読んでもらって初めて意味を為すものは、「興味がない」と判思われた時点で終わりです。折り込みチラシも、書籍のあらすじも、YouTubeのサムネイルも原理は同じ。そもそも読む気のない相手を振り向かせるためには、冒頭で強烈な「興味づけ」を行う必要があります。

音楽でいえば「サビ」から始めるようなものです。Aメロの静かなイントロから始めて徐々に盛り上げる——それは曲を最後まで聴いてくれる前提があってこそ成立します。小説の読者にその前提はありません。いきなりサビを歌い上げて、「え、何?」と思わせることが先決です。

冒頭で書くべき「特殊な状況」

興味づけに最も有効な手段は、「特殊な状況を提示する」ことです。

人が好奇心を持つ情報には共通点があります。それは「恐怖・不詳・異常」という特性です。

恐怖:怪奇事件、犯罪、暴力、反社会的な行為

不詳:謎、怪奇現象、意味深なこと、伏線

異常:ピンチ、意外性、珍しいこと、常識からの逸脱

これらの要素を冒頭に配置することで、読者は「何が起きた?」「なぜ?」「この先どうなる?」と興味を持ちます。

名作の冒頭文4選——なぜ読者を掴むのか

例1:伊坂幸太郎『重力ピエロ』

> 「春が二階から落ちて来た。」

たった一行で事件が起きています。「春」は人名なのか季節なのか? 二階から落ちてきたとは? 無駄な説明や会話は一切ないのに、頭の中に映像が浮かぶ。「どうしたの?何が起きた?」と先を知りたくなる。これが「恐怖×不詳」の冒頭です。

この冒頭が秀逸なのは、情報が少ないからこそ気になるという点です。もし「春という名前の弟が、二階の窓から飛び降りて庭に落ちてきた」と書いてしまったら、一文に情報を詰めすぎて興味は半減します。

例2:YA!アンソロジー「友達なんかいない」

> 「わたしは、『イジメ』をしたことがある。」

告白形式の冒頭です。誰しも心の奥に引っかかっているようなことを、いきなり口にする。読者はドキッとします。「異常」——つまり普段は表に出さないことの開示が、強烈な興味を生んでいます。

ここで重要なのは、「イジメ」がカタカナ+鉤括弧で書かれていること。漢字の「苛め」でも平仮名の「いじめ」でもなく、カタカナにすることで異物感を出している。表記の工夫一つで冒頭の切れ味が変わる好例です。

例3:椎名誠『ぱいかじ南海作戦』

> 「失業と離婚が同時だった。」

「恐怖」というほどではないが、明らかに「特殊な状況」です。失業だけでも大変なのに離婚まで同時。人の不幸は蜜の味——とは言いますが、こう書かれると「で、どうなった?」と気にせずにはいられません。

わずか10文字の一文ですが、主人公の状況、感情、この先の展開への予感がすべて詰まっています。短い文は長い文より記憶に残る。冒頭はとにかく短く、インパクトのある一文から。

例4:湊かなえ『少女』

> 「子どもなんてみんな、試験管で作ればいい。」

通常の常識を真っ向から否定する一文です。「異常」に分類される冒頭で、「何があったのだろう?」「この人はなぜそう思うのだろう?」と読者の想像が一気に広がります。一瞬ゾッとする感覚もあり、ホラー的な興味の引き方にも通じています。

冒頭で「やってはいけない」3つのこと

NG1:情報を一度に出しすぎる

特殊な状況を書こうとすると、背景説明が長くなりがちです。冒頭では最低限の情報だけを出し、説明は展開とともに少しずつ開示していきましょう。

❌「彼は幼い頃に両親を亡くし、祖父に育てられ、16歳で武道の師匠に弟子入りし、3年の修行を終えて今、旅に出ようとしている。」

⭕「旅に出る朝だった。師匠は何も言わず、背中を向けたままでいた。」

冒頭に必要なのは状況の提示であって履歴書ではありません。

NG2:説明文が長い

「この物語は〇〇年の△△を舞台にした、主人公の□□が……」のような説明文で始まると、読者は論文を読まされている気分になります。説明は短く。できれば動作台詞で始めましょう。

NG3:無駄な日常会話

「やあ」「おはよう」「今日もいい天気だね」——何も起きていない会話で冒頭を使うのはもったいない。日常会話はストーリーが動き始めてから入れても遅くありません。

冒頭は「書き直す」もの

最後に一つ大事なことを。冒頭は一発で完成させる必要はありません。

多くのプロ作家は、物語を書き終えてから冒頭を書き直しています。物語全体が見えたうえで「この作品で最もインパクトのある場面はどこか?」を考え、その要素を冒頭に凝縮する。これがサビから始めるということの具体的な実践方法です。

最初は思いつくままに書き始めてOK。ただし、推敲の段階で「この冒頭で読者は興味を持つか?」と自問してください。もし弱いと感じたら、物語の中盤や終盤にある「衝撃的な一場面」を冒頭に持ってくる。映画の予告編が後半のクライマックスシーンから始まるのと同じ発想です。

まとめ

冒頭文で読者を掴むコツは「出し惜しみせず、短く、特殊な状況を提示する」こと。恐怖・不詳・異常の要素を数行に凝縮し、情報は最小限に絞る。名作の冒頭はいずれもこの原則に従っています。冒頭はサビから。出し惜しみは厳禁です。


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