切ない物語の書き方|読者の心をしめつける3つの要素

2020年4月11日

「なんでこんなに胸が苦しいんだろう」

読み終えたあと、しばらく本を閉じられない。胸の奥がきゅっと締めつけられる。——「切ない物語」に出会ったときの感覚です。

切なさは偶然生まれるものではありません。3つの要素を意図的に設計すれば、再現できます。

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結論:切なさとは「あるべきところにないこと」

切なさの正体をひとことで言うと:

「本来あるべき場所に、あるべきものがないこと」

幸せの形は見えている。手が届きそうなのに届かない。その「見えているのに届かない距離」が切なさを生みます。

最初から絶望しかない物語は「切ない」ではなく「つらい」。切なさには希望の残像が必要です。

切ない物語の3つの要素

① 着地点が見えているのにたどり着けない

読者(と主人公)は「こうなればいいのに」という理想の着地点を共有している。しかし、物語はそこにたどり着かずに終わる。

例:好きな人が他の人と付き合ってしまう

主人公は片思いしている。読者は「告白してうまくいけばいいのに」と思っている。しかし、好きな人は別の誰かと付き合い始める。着地点は見えていたのに、到達できない。

例:甲子園優勝を目指して3年練習した高校生が、準優勝で終わる

3年間の努力は描かれる。着地点(優勝)は明確。あと一歩で届くのに、届かない。あと一歩というのが重要で、完敗よりも一点差の惜敗のほうが切ない。

② 再起不能(もう戻れない)

切なさが「悔しさ」と違うのは、やり直しが不可能な点。

時間が巻き戻せない。場所が消えてしまった。人が死んでしまった。——「もう一度」がない不可逆性が、切なさを決定的にします。

例:思い出の場所が再開発でなくなる

再開発を止めることは現実的に不可能。主人公が何をしても場所は消える。不可逆。この「どうにもならない」感覚が切なさです。

例:先生に褒めてほしくて勉強したのに、先生が転勤した

先生はもういない。100点を見せる相手がいない。過去に戻れない。

③ コントロールできない(自分の意志では止められない)

3つ目の要素が切なさを最大化します。

主人公自身が選択して結果を招いた場合は「後悔」になります。しかし、自分ではどうにもできない力によって奪われた場合は「切なさ」になります。

例:変わらずにいたい気持ちが変わってしまう

亡くなった妻への想いを保ち続けたい。でも新しい出会いがあり、心が少しずつ動いてしまう。本人は望んでいないのに、感情が変化する。意志ではコントロールできない。

3要素の組み合わせ

3つの要素はそれぞれ単独でも効果がありますが、組み合わせるほど切なさの強度が上がります。特に3要素がすべて揃ったとき、「静かなのに胸が締めつけられる」という独特の読後感が生まれます。

要素加えると切なさの変化
①だけ着地に届かない「残念」程度
①+②届かない+やり直せない切なさが生まれる
①+②+③届かない+やり直せない+自分では止められない最大の切なさ

3要素が揃ったとき、読者は主人公の無力さに共感し、「どうにかして」と願いながらも、どうにもならないと知っている。この願いと諦めの同居が切なさの核心です。

切なさとバッドエンドの違い

切ない物語は必ずしもバッドエンドではありません。

むしろ、切なさの中に救いを織り込むのがプロの技術です。

テクニック:「他の誰かのハッピーエンド」を抱き合わせる

主人公は恋が叶わなかった。でも、主人公の友人は幸せになった。主人公が報われなくても、物語の世界そのものが暗闇に閉ざされるわけではない。

「主人公は届かなかったが、世界には希望がある」

この構造が、切なさを読後の余韻に変えます。完全に暗い結末は「鬱展開」になり、読者を失います。

→ バッドエンドの設計と注意点 → セントラルクエスチョンとは

2025年の「切ない作品」に学ぶ

近年ヒットした切ない作品を3要素で分析してみます。

葬送のフリーレン

• ① ヒンメルと過ごす時間の着地点 → もう到達できない(ヒンメルは死んだ)

• ② 不可逆 → エルフの長命ゆえに取り戻しようがない

• ③ コントロール不能 → フリーレンの長命は本人の選択ではない

3要素が完璧に揃っている。だから「静かな物語」なのに胸が締めつけられます。

ヴァイオレット・エヴァーガーデン

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』も、3要素が見事に重なる作品です。「感情を知らなかった少女が、愛を知ったときには愛した人がもういない」という設計は、切なさの教科書的作品と言えます。

• ① 「あいしてる」を理解する着地点 → 理解したとき少佐はいない

• ② 戦争での喪失 → 不可逆

• ③ 感情を知らなかった自分 → コントロール外の過去

まとめ

要素内容
① 着地不到達理想の結末が見えているのに、届かない
② 再起不能やり直しが効かない。不可逆
③ 制御不能主人公自身の意志では止められない
救い他の誰かのハッピーエンドを抱き合わせる
核心切なさ=「あるべきところに、あるべきものがないこと」

次に読むべき記事

• ワクワク=切なさの反対の感情設計 → ワクワクする物語の正体

• 感情の変化=物語の理論 → 劇的な展開がなくても物語は成立する

• 悲劇の構造設計 → 悲劇の作り方

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