複数人で作ると物語の奥行きが広がる|ヘテロジニアス創作のすすめ

2019年9月21日

一人で書いた物語には、どうしても限界があります。自分の視点、自分の価値観、自分の発想。どんなに頑張っても、1人の人間から生まれるものには偏りがあるのです。

この壁を打ち破る方法が、「ヘテロジニアス創作」——異質なものを混ぜ合わせて物語に奥行きを与える手法です。

ヘテロジニアスとは「異質の、異種の」という意味の形容詞。もともとはIT用語ですが、創作においても、異なる視点を持つ人の力を借りることで、1人では到達できない深みが生まれるのです。

この記事では、ヘテロジニアス創作の効果と実践方法を、映画の制作現場と個人創作者の両方の視点から解説します。

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「天気の子展」で目撃した創作の本質

企画原案と完成品のギャップ

2019年9月、「天気の子」展が松屋銀座で開催されました。劇中歌『グランドエスケープ』にドハマリしていた私は、すぐにチケットを購入して足を運びました。

この展覧会で、創作活動の一番面白い部分を体現する展示を見つけました。それは、新海誠監督の企画原案と、実際のポスターの比較です。

パッと見ただけでも、以下の変更点が確認できました。

• タイトルが変わっている

• 企画原案にいないキャラクターがポスターにいる(須賀の追加)

• キャラの服装がブラッシュアップされている

• 傘が置かれ「雨上がり感」が増している

• 作中で重要な「雲」のデザインが洗練されている

なぜギャップが面白いのか

この変更は、監督の原案イメージをチームで共有し、ああでもないこうでもないとアイデアを出し合いながら、原作者が取捨選択してブラッシュアップした結果です。

つまり、複数の人がアイデアを出し合って、1つのものを創り上げるプロセス。私はこれこそ創作活動の一番面白い部分だと確信しました。

1人の頭の中だけで完結した企画原案が、チームの力で「企画原案を超えたもの」に進化する。この変化の過程にこそ、物語に奥行きが生まれる秘密があります。

ヘテロジニアス創作の効果

効果1:原作者が意図していなかった意味が生まれる

複数の人間が関わると、原作者が深く考えずに書いた台詞やシーンに、思いもよらなかった方向から根拠や意味が与えられることがあります。

具体例を挙げます。

私の作品『境界を超えろ!』第2巻のあるシーンで、リングリットというキャラクターがこう言います。

> 「それは奴隷ではなく献身で、自分で献身する場所を選べるなら、奴隷とは違うんじゃない?」

正直なところ、この台詞を書いたときの私は「リングリットならこう言うだろう」程度の感覚で書いていました。特別な意味を込めていたわけではありません。

ところが、2年後に書かれた外伝で、この台詞に深い意味が付与されました。外伝では、ケルトが「奴隷制はどんな社会にも形を変えて存在する」と主張する場面があり、その議論の中でリングリットが上記の台詞を発する文脈が描かれた。

「誰の言葉にも耳を傾ける」リングリットが、初めてアインの側に立ち、ケルトを批判した。——2年前の自分が無意識に書いた台詞が、別の視点を持つ「2年後の自分」によって、キャラクターの意志を決定づける一言に昇華されたのです。

効果2:キャラクターに奥行きが生まれる

他者(または時間を経た自分)が関わることで、キャラクターの言動に多層的な意味が生まれます。

『5トライブ』に収録された仁藤欣太郎氏の外伝『ドナルド・シャールメイン』では、本編で主人公アインを苦しめた政治家グインが、なぜアインを秘書に抜擢しようとしたのかが、グインの目線から描かれています。

私の中では「グインはアインと戦ってわかりあったのだろう」と漠然と考えていたものが、仁藤氏の筆によって明確な根拠を持つエピソードに変わりました。1人で書いていたら到達しなかったであろう、キャラクターの厚みが生まれたのです。

効果3:作品が「作者を超える」

1人で書いていると、物語は作者の枠を超えられません。しかし複数の視点が入ることで、作品が作者の想定を超えて成長する瞬間があります。

映画でいえば、脚本家が書いた台詞を俳優が自分の解釈で演じることで、脚本を超えた名場面が生まれる。漫画でいえば、原作者の設定をアニメスタッフが映像化する過程で、原作にはなかった演出が加わる。

この「想定を超える」体験は、創作者にとって最高の喜びの1つです。

個人創作者のためのヘテロジニアス実践法

「複数人で作るのは理想だけど、自分は1人で書いている」——そう思った方のために、個人でもヘテロジニアス創作の効果を得る方法を5つ紹介します。

方法1:時間の力を使う——過去の自分は別人

前向きに生きていれば、昨日の自分よりも今日の自分は少し成長しています。5年も経てば、かなり別人のような視点を持っているはずです。

5年前に書いた作品を引っ張り出して、今の自分の感性で補完してあげる。すると、まるで2人で書いたかのような奥行きが生まれます。

私の作品は、2015年に完成させたものを何度も改稿し、外伝を追加し、継ぎ足し続けています。「過去の自分+今の自分」のヘテロジニアスであり、だからこそ作品は時間とともに成長し続けています。

方法2:AI壁打ち——疑似ヘテロジニアス

2025年の個人創作者には、ChatGPTやClaudeなどのAIという強力な「壁打ち相手」がいます。

自分のキャラクター設定をAIに渡して、「このキャラなら、この場面でどう行動すると思う?」と問いかける。AIは自分とはまったく異なるロジックで回答するため、自分では思いつかなかった行動パターンや台詞案が返ってくることがあります。

もちろん、AIの出力をそのまま使う必要はありません。「なるほど、そういう視点もあるのか」「これは違うけど、こっちの方向は面白い」——この壁打ちのプロセスそのものが、ヘテロジニアス創作の効果を生むのです。

方法3:外伝を書く——自作品の二次創作

外伝とは、本編では描けなかった場面を別の視点から描くことです。これは自分の作品に対する二次創作とも言えます。

本編をAの視点で書いた後、同じ場面をBの視点で外伝として書いてみる。すると、Aの視点では見えなかったBの内面が見え、物語に新しい層が加わります。

外伝は「本編の補足」ではなく、物語の奥行きを構造的に拡張する装置です。

方法4:信頼できる読者にキャラ解釈を聞く

友人や創作仲間に作品を読んでもらい、「このキャラってどういう人だと思う?」と聞いてみてください。

自分が意図していなかったキャラ解釈が返ってくることがあります。それが新しい発見につながることも珍しくありません。

同人誌即売会の共同制作文化は、まさにこのヘテロジニアス効果を自然に活用している好例です。合同誌では、同じ世界観を複数の作家がそれぞれの解釈で描くことで、作品世界が立体的に広がります。

方法5:別ジャンルの知識を混ぜる

小説を書いている人が映画の演出を学ぶ。ファンタジー作家が経済学を学ぶ。恋愛ものを書いている人が格闘技を始める。

異質な知識を自分の中に取り込むことで、自分の中にヘテロジニアスな視点が生まれます。これも立派なヘテロジニアス創作です。

ヘテロジニアス創作の注意点

注意点1:原作者の「軸」は守る

複数の視点を取り入れることは有益ですが、最終的な判断は原作者が下すべきです。「天気の子」の例でも、チームのアイデアを取捨選択したのは新海誠監督でした。

他者の意見をすべて受け入れると、作品の一貫性が失われます。異質な視点から刺激を受けつつも、自分の軸はブラさない——この姿勢が重要です。

注意点2:創作パートナーとの距離感

合作をする場合、互いのリスペクトと距離感が不可欠です。相手の書いた部分を勝手に改変しない。意見の相違があったらまず聞く。求められていないアドバイスはしない。

創作は繊細な行為です。ヘテロジニアスの「異質さ」が摩擦を生むこともあるため、コミュニケーションのルールを事前に決めておくことをおすすめします。

まとめ:自分の作品を生涯愛せるのは自分だけ

ヘテロジニアス創作の効果を整理します。

3つの効果
1. 原作者が意図していなかった意味が台詞やシーンに生まれる
2. キャラクターに多層的な奥行きが加わる
3. 作品が作者の想定を超えて成長する

個人でも実践できる5つの方法
1. 時間の力を使う(過去の自分は別人)
2. AI壁打ち(疑似ヘテロジニアス)
3. 外伝を書く(自作品の二次創作)
4. 信頼できる読者にキャラ解釈を聞く
5. 別ジャンルの知識を混ぜる

1人で創作活動をしている人にこそ、ヘテロジニアスの発想を取り入れてほしいと思います。

昔書いた作品を引っ張り出して、今の自分の感性で補完してあげる。それだけで作品に奥行きが生まれます。自分の作品を生涯愛せるのは自分だけです。だからこそ、時間という名の共作者と一緒に、作品を育て続けてみてください。


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