ファンタジー酒場の知識|中世の酒場・宿屋の実態と創作での描き方を徹底解説

2025年7月2日

ファンタジー作品で「酒場」は物語の交差点として機能します。冒険者が依頼を受け、旅人が情報を交換し、密謀が囁かれる場所。RPGの冒頭は酒場から始まるのがお約束です。

しかし、中世ヨーロッパの酒場の実態を知ると、もっとリアルで面白い描写ができるようになります。この記事では、酒場の種類、提供された酒と食事、間取り、集まる人々、そして創作テクニックを整理します。

酒場の種類

中世ヨーロッパには、機能の異なる複数の「飲食・宿泊施設」がありました。

名称英語機能特徴
酒場Tavern酒と食事の提供ワインが主体。都市部に多い。看板にブドウの房
居酒屋Alehouseエールの提供自家醸造のエールを提供。庶民向け。門口にエールポール(棒)を掲げる
宿屋Inn宿泊+酒+食事+厩舎街道沿いに立地。旅人向け。馬の世話も可能
修道院の宿坊Hospice巡礼者の無料宿泊修道院が運営。慈善事業として運営されるが、寄付が期待される
パブPublic House酒+食事+社交近世以降に発展。Tavernの後継

提供された酒

酒場で提供される酒の種類は客層を映す鏡でした。庶民はホップなしの甜いエールを日常的に飲み、富裕層はボルドーやブルゴーニュのワインを嘆みました。北欧ではミード(蜂蜜酒)が好まれ、ブドウ栽培が難しい北方ではリンゴの発酵酒(サイダー)が庶民の酒として親しまれていました。

酒の種類特徴客層
エール(Ale)ホップなしの大麦発酵酒。甘く濁っている。日持ちしない庶民の日常飲料。水より安全
ビール(Beer)ホップ入りのエール。苦味があり長期保存可能。15世紀以降に普及都市の中間層
ワインブドウの発酵酒。産地(ボルドー・ブルゴーニュ・ライン)で価格差が大きい貴族・富裕層
ミード(蜂蜜酒)蜂蜜を発酵させた酒。北欧で特に人気ヴァイキング文化圏
サイダー/ペリーリンゴ/洋梨の発酵酒ブドウ栽培が難しい北方の農民
ヒポクラスワインに香辛料(シナモン・生姜・砂糖)を加えた薬用酒貴族の宴会

中世ヨーロッパでは水の衛生状態が悪かったため、エールは日常的な水分補給の手段でした。朝食にもエールを飲み、子供には薄いエール(スモールビール)を与えていました。

酒場の食事

酒場で出される食事は素朴なものが中心でした。大鍋で常に煮込まれているポタージュが主食であり、パイやローストミートは比較的裕福な宿屋の特別メニューでした。最も安いのはパンとチーズだけのセットで、断食日には塩漬け魚が出されました。

メニュー内容
ポタージュ(煮込み)野菜と穀物、肉片を煮込んだスープ状の主食。大鍋で常に火にかけている
パイ肉や魚を小麦粉の生地で包んで焼いたもの。パイ生地は食器の代わり
ローストミート鶏・豚・羊の回転焼き。特別な日や裕福な宿屋で提供
チーズ・パン最も安価な食事。硬いパンとチーズだけのセット
塩漬け魚鰊や鱈の塩漬け。断食日(水曜・金曜・土曜)の定番

酒場の間取り

酒場の内部は機能ごとに区分されていました。誰もが集う大テーブルと暖炉のある主室、密談に使われる個室、藡のベッドが並ぶ二階の大部屋、街道沿いの宿屋には必須の厩舎など、物語のシーンに直結する空間が多数存在しました。

区画機能
主室(Common Room)大きなテーブルと長椅子が並ぶ。暖炉がある。旅人同士が相席
カウンター/サービスハッチ酒を注いで渡す窓口。樽の並ぶ酒蔵に通じている
個室(Private Room)富裕な客のための別室。密談や商談に使われる
二階の寝室宿泊客用の部屋。大部屋(ドミトリー)が一般的。個室は高額
厩舎(Stable)街道沿いの宿屋に必須。馬の飼葉代は別料金
中庭(Courtyard)大きな宿屋にはキャラバンの荷馬車を停める中庭がある
厨房(Kitchen)暖炉と同じ場所か、別棟の調理場

酒場に集まる人々

酒場には実に多様な人々が集まりました。情報通の宿屋の主人、遠方のニュースを持ち込む旅人、仕事を探す傭兵、歌と物語で食事と宿を得る吟遊詩人、情報を売買する密偵、サイコロ賭博を仕掛ける賭博師まで、酒場は中世社会の縮図でした。

人物類型役割
宿屋の主人/女将酒場の経営者。情報通で人脈が広い
旅人/商人遠方のニュースと噂を持ち込む
傭兵/冒険者仕事の依頼を探す。護衛や討伐の仲間を募る
吟遊詩人(バード)歌と物語を提供し、食事と宿を得る
乞食/物乞い酒場の外や入口付近に集まる
密偵/情報屋各地の情報を売買する
娼婦中世の酒場にはしばしば付属していた
地元の農民/職人日常的な社交の場として利用
賭博師サイコロ賭博・カード遊びを仕掛ける

酒場の看板と命名

中世の酒場は識字率が低い時代に合わせて、絵看板で店を識別させていました。

看板の絵柄意味
ブッシュ(ブドウの枝葉)ワインを扱う酒場の印。「Good wine needs no bush」(良いワインに看板は不要)ということわざの語源
エールポール/エールステークエールを醸造した家が掲げる棒。醸造完了の合図
動物(赤い獅子、白い鹿など)酒場の固有名。現在のイギリスのパブにもこの伝統が残る
職業道具(鍛冶のハンマーなど)特定のギルドの職人が集まる酒場を示す

酒場の名前は「形容詞+動物」のパターンが多く、「赤い獅子(Red Lion)」「白い馬(White Horse)」「黒い雄牛(Black Bull)」「鷲と子供(Eagle and Child)」などが定番です。ファンタジー作品で酒場の名前を考える際にもこのパターンが応用できます。

酒場の社会的機能

酒場は飲食の場にとどまらず、中世社会で多くの公共的機能を果たしていました。街道の安全や戦争の情報が交換され、傭兵の雇用や職人の求人が行われ、非公式の裁判や政治集会が開かれることもありました。旅人に伝言を託す「郵便局」としての役割も担っていました。

機能内容
情報交換の場街道の安全、戦争の噂、市場の相場、政治的な動向
雇用の場傭兵の雇用、護衛の依頼、職人の求人
裁判の場中世イングランドでは、酒場が非公式の裁判所として機能した例がある
政治集会革命前夜のフランスでは、カフェと酒場が政治的議論の温床に
賭博場サイコロ・カード・闘鶏(違法だが横行)
郵便局旅人に伝言を託す。酒場が中継地点

ポップカルチャーでの酒場

酒場はフィクションでも物語の要所として描かれてきました。『指輪物語』の踍る子馬亭はフロドとストライダーの出会いの場であり、『スター・ウォーズ』のカンティーナは「宇宙の酒場」の元祖です。『ドラゴンクエスト』のルイーダの酒場はゲーム内でのパーティー編成という機能的な役割を確立しました。

作品酒場ポイント
『指輪物語』躍る子馬亭(Prancing Pony)ブリーの宿屋。フロドとストライダーの出会いの場
『スター・ウォーズ』モス・アイズリーのカンティーナ「宇宙の酒場」の元祖。「ドロイドお断り」
『ドラゴンクエスト』ルイーダの酒場パーティー編成の場。ゲーム内での機能的酒場の原型
『ウィッチャー3』各地の酒場情報収集・依頼受注・グウェント(カードゲーム)の場
『ゴブリンスレイヤー』冒険者ギルドの酒場ギルドに併設された依頼受注の場
『異世界居酒屋のぶ』居酒屋「のぶ」異世界と現代日本の酒場が接続する異色の設定

まとめ

酒場は単なる飲食店ではなく、中世社会における情報交換・雇用・政治・娯楽の複合拠点でした。提供される酒の種類(エール・ワイン・ミード)で客層が決まり、間取り(大広間・個室・厩舎)で物語の展開が変わり、集まる人々(傭兵・吟遊詩人・密偵)でドラマが生まれます。「酒場のシーン」はファンタジー作品の定番ですが、これらのディテールを意識すると、お決まりの場面が物語を動かす重要なステージへと変わるでしょう。酒場で何を飲み、誰と話し、何を耳にするか——そのすべてが物語の分岐点になり得ます。


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