第2回:「ファンタジーに逃げる人の心理」── それは“弱さ”ではなく、心を守るための技術かもしれない

なぜ人は“物語の世界”に逃げ込むのか

「なんでまたこんなラノベ読んでるんだろう」「現実逃避してるだけじゃないか」
ふと我に返って、そんなふうに自分を責めたことはないでしょうか。ファンタジーの世界に浸っているとき、現実とはまったく違う感情や論理が支配する空間に身を置くことになります。魔法、騎士、転生、ダンジョン攻略……どれも日常とは無縁で、どこか子どもじみたもののように思えるかもしれません。

でも、それって本当に「逃げている」だけなのでしょうか? そもそも、ファンタジーの世界に心を惹かれる人は、どんな想いや背景を持っているのでしょうか。


ファンタジーとは“守られた世界”である

ファンタジー作品には、一定の法則と秩序があります。魔法を使うにはMPが必要で、勇者には使命があり、悪には必ず理由がある。理不尽ではあっても、“筋が通っている”のです。

一方で、現実の世界はどうでしょうか。努力しても報われない。理不尽なことが横行する。善人が損をし、悪人がのうのうと暮らしているように見える。そんな社会の中で生きる私たちは、時に“理由のある世界”に身を置きたくなるのです。

ファンタジーは、心を守るための「心理的シェルター」として機能します。それは甘えではなく、むしろ人間が心のバランスを保つために用いる、ある種の高度な自己防衛反応なのです。


「青春」もまた現代日本のファンタジーである

ファンタジーというと、ヨーロッパ風の城や剣と魔法の世界を思い浮かべがちですが、現代の日本ではもう一つの主流ジャンルがあります。それが「高校生活もの」です。

青春ラブコメや部活に打ち込む日々、学園祭での奇跡的な出来事――これらも立派なファンタジーです。なぜなら、実際の高校生活は、そこまでドラマチックでもキラキラしているわけでもないからです。

クラスで孤立している子にとっては、友達がたくさんいて恋をして、自分を認めてくれる先生がいる「理想の高校生活」はまさに夢の世界。だからこそ、学園モノの小説やアニメは一定の需要を持ち続けています。

日常の中にファンタジーを見出すこと。それもまた、人間の想像力の力です。


現実から目を逸らすためのファンタジー、現実と向き合うためのファンタジー

ファンタジーに浸る人々は、必ずしも「現実が嫌いだから」そうしているとは限りません。むしろ、過酷な現実に向き合うために、“一時的に逃げ込める安全地帯”が必要なのです。

面白いことに、ファンタジーを好む人ほど、自分の内面に対して真面目で繊細な傾向があります。彼らは、ただ逃げたいわけではなく、「何とか折り合いをつけたい」と願っているのです。

物語を読むことで、自分を癒し、立て直し、また現実に戻る――その繰り返しの中に、人は強さを育んでいくことができます。


「逃げること」は弱さではない

よく「逃げるのは弱い人だ」と言われます。しかし、心理学的には、逃げることで生き延びるという行動はとても合理的です。
むしろ、無理に向き合い続けて心が壊れてしまう方が、はるかにリスクが大きい。

大切なのは、逃げた先で「何を得るか」です。ファンタジーの中で出会った価値観や、自分と似た登場人物の成長、心を打つセリフ。それらは決して現実と無関係なものではありません。


ファンタジーは、再び立ち上がるための“休息所”である

本を閉じたあと、アニメを見終えたあと、ふと現実に戻って「よし、もう少し頑張ってみようかな」と思える。
その気持ちになれたなら、あなたはただ“逃げている”のではなく、ちゃんと「休んでいる」んです。

ファンタジーの世界は、ずっと浸っていたら確かに危うい。でも、それがあることで現実と距離を取れ、冷静になれる瞬間があるなら、それは尊い時間です。


おわりに:物語は、現実を照らすためにある

ファンタジーは“もう一つの現実”です。
そこに逃げることは、恥ではありません。むしろ、現実を生きる勇気を取り戻すためのプロセスです。

だから、異世界転生でも、学園ラブコメでも、あなたがその物語に救われたなら、それはあなたの人生にとってかけがえのない真実です。

物語は、私たちの“もう一つの足場”になってくれる。現実が辛いときは、どうか遠慮なく、物語の中に逃げ込んでください。そして、また戻ってこればいいんです。
ファンタジーは、あなたが戻ってくることをいつだって待っています。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
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