ワクワクする物語の正体|読者の心を「落ち着かせない」技術

2020年9月12日

「この物語、ワクワクするね」——そう言われたいのに、書いてみるとなぜか退屈になる。

面白いはずの設定、魅力的なはずのキャラクター、練り上げた世界観。それでもワクワクしない。

原因は「設定の質」ではなく「構造」にあります。ワクワクは再現可能な技術です。


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ワクワクの辞書的定義から逆算する

辞書で「わくわく」を引くと、「期待や喜びで心が落ち着かないさま」とあります。

ここにすべてのヒントが詰まっています。分解すると:

心が落ち着かない = 未解決の状態がある

期待や喜び = ネガティブではなくポジティブな方向

つまりワクワクとは、「読者の心をポジティブな意味で落ち着かせない状態」のことです。

逆に言えば、読者の心が「落ち着いてしまう」物語はワクワクしません。


心が落ち着いてしまう3つの状態

読者のワクワクを消す要因を具体的に見ていきます。

① 主人公が目標を達成している(=未達成の消失)

恋愛ストーリーで、主人公がヒロインと付き合い始めた瞬間、ワクワクは減退します。

理由は明確です。「この二人は付き合えるのか?」という疑問が解消されたから。答えが出た瞬間、心は落ち着く。少年漫画でラスボスを倒した直後にテンションが下がるのも同じ原理です。

② 主人公が完成している(=未完成の消失)

最初から完璧なキャラクターには、読者はワクワクしません。

「こいつはまだ未熟だ。ここからどう成長するんだ?」——この伸びしろがワクワクの原動力です。

野球漫画で、補欠だったピッチャーが少しずつ上達していく過程にワクワクする。すでにエースで大会優勝しているピッチャーには、さほどワクワクしない。

③ 主人公が勝っている(=未勝利の消失)

バトル漫画で主人公が無双する展開は、爽快ではあってもワクワクとは異なります。

「こいつは負けるかもしれない」という不確実性がなければ、心は落ち着いてしまう。勝利が確定した試合に興奮できないのと同じです。


ワクワクの方程式

心を落ち着かせる3要素を排除し、かつポジティブな方向に向かっていること。これがワクワクの条件です。

> ワクワク =(未達成 + 未完成 + 未勝利)× ポジティブな方向性

つまり:

• まだ叶っていないがある

• まだ成長途中で、伸びしろがある

• まだ勝っていない。でも勝てそうな予感がある

まだ」が多いほどワクワクは強くなります。


ポジティブな方向性の3条件

「未達成・未完成・未勝利」だけでは、単なる敗北の物語です。ワクワクに変換するには、ポジティブな方向性が不可欠です。

条件1:夢に向かっている(主体性)

主人公が自分の意志で動いていること。受け身のキャラクターにはワクワクしません。

「海賊王に、おれはなる!」——ルフィは自分で宣言し、自分で動き出します。周囲に流されるのではなく、自分の意志で夢に向かっている。

さらに重要なのは一貫性です。途中で夢を変えたり、諦めたりすると、ワクワクは一気に冷めます。

条件2:成長している(根拠ある上達)

成長にも根拠が必要です。

NGOK
修行した → いきなり最強になった修行で新しい技を1つだけ覚えた
覚醒して全員倒したその技で前回負けた相手の弱点を突いた
読者は納得しないギリギリ勝った → 読者が興奮する

「修行量に見合った、根拠のある成長」がワクワクを生みます。

条件3:卑怯ではない(正々堂々)

読者が主人公の勝利を素直に喜べること。これが意外に重要です。

もしルフィがドフラミンゴの首を背後から絞めて勝ったら? 技術的には「勝利」ですが、読者は嬉しくない。

正面からぶつかり、苦戦し、最後に逆転する。読者が「よくやった!」と声を出せる勝ち方であること。


ジャンル別ワクワクの設計法

ワクワクの方程式は汎用的ですが、ジャンルによって力点の置き方が変わります。

ジャンルワクワクの主な源泉設計のコツ
バトルもの「勝てそうな予感」×「まだ勝っていない」主人公の新技は「1つの弱点を補う」程度に留める
恋愛もの「両思いの予感」×「まだ告白できない」「あと一歩」の状態を長く維持する設計
探索もの「謎が解けそうな予感」×「まだ解けていない」手がかりを小出しにする。一気に解決しない
成長もの「できそうな予感」×「まだできない」「かすかに設定した目標」の積み重ねで成長を見せる
ダークファンタジー「生き延びそうな予感」×「まだ安全ではない」「希望の光」を絶望の中に小さく置く

共通しているのは「もう少しで手が届きそう」という感覚です。手が届かないほど遠いと「絶望」、すでに届いていると「満足」。その中間、「あともう少し」の距離感がワクワクを生みます。


ワクワクを殺す3つのNG

せっかく仕込んだワクワクも、以下のNGで一瞬で崩壊します。

NG行動理由崩壊のメカニズム
序盤で最強にする「未完成」がなくなる伸びしろゼロ。どこに向かう物語かわからない
主人公を受け身にする主体性がないポジティブな方向性が生まれない
都合のいい成長を書く根拠がない読者がしらける。「ご都合展開」と感じる

特に「序盤で最強にする」は、異世界転生ものでよく見られるパターンです。爽快感はあるものの、ワクワクとは異なる快感です。ワクワクを維持したいなら、「強いけど足りない」状態を設計することが重要です。

ワクワクと切なさの関係

ワクワクと切なさは対極にあるように見えますが、交互に使うことで物語のダイナミクスが生まれます。

ワクワク → 切なさ → ワクワク → 切なさ → 最大のワクワク

ずっとワクワクだけだと読者は疲れます。ずっと切ないだけだと読者は離脱します。感情の緩急が長編を支えます。

『鬼滅の刃』はこの交互構造の好例です。修行編のワクワク(成長の予感)と、十二鬼月戦の切なさ(仲間の犠牲)が交互に訪れるからこそ、最終決戦のカタルシスが最大化するのです。

→ 感情曲線の設計 → 感情曲線6パターン×物語類型12パターン

まとめ

ポイント内容
ワクワクの正体心をポジティブに落ち着かせない状態
心を落ち着かせるNG目標達成済み / キャラ完成済み / 勝利済み
ポジティブ条件主体的に夢に向かう / 根拠ある成長 / 正々堂々
方程式(未達成+未完成+未勝利)× ポジティブ方向

ワクワクは「なんとなく」で生まれるものではありません。設計できる技術です。方程式に当てはめて、物語のどこでワクワクが生まれ、どこで消えているかをチェックしてみてください。

最後に、ワクワクを作る上で最も重要なことをひとつ。それは「書いている自分がワクワクしているか」です。作者が「次の展開が楽しみだ」と感じながら書いている物語は、読者にも伝わります。「書かなきゃいけない」ではなく「書きたい」と思える展開を設計すること。それがワクワクの最も深い源泉です。

次に読むべき記事

• 切なさの設計(ワクワクの対極) → 切ない物語の書き方

• 感情変化そのものが物語 → 劇的な展開がなくても物語は成立する

• カタルシスの設計 → カタルシスとは何か

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