カタルシスとは何か|小説の「抑圧→開放」が生む快感の正体

2022年1月3日

物語を読み終えたあとの「あー、スッキリした!」という感覚。

あの快感の正体を、一言で言い表す概念があります。カタルシス

カタルシスは感覚的なものではなく、構造的に設計できるもの。この記事では、カタルシスの定義と設計の基本を解説します。

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カタルシスの語源

カタルシスという言葉は、3つの分野で使われてきました。

① 哲学(アリストテレス)

古代ギリシャの哲学者アリストテレスは『詩学』で、悲劇の効果をカタルシス(浄化)と呼びました。

観客が悲劇を見て「怖れ」と「憐れみ」を感じ、その感情が昇華される——これがアリストテレスの言うカタルシスです。
重要なのは、アリストテレスが「不快な感情を感じること」を肯定している点です。怖い、悲しい、苦しい——これらは通常、人が避けたい感情です。しかし物語の中で体験すると、それが「浄化」になる。ホラー映画を見て「怖かったけどスッキリした」という感覚も、まさにアリストテレス的カタルシスです。
→ アリストテレスの詩学を詳しく → アリストテレスの『詩学』に学ぶ

② 心理学・精神医療

フロイトの精神分析では、抑圧された感情を意識化し、言語化することで感情のしこりが解消される現象をカタルシスと呼びます。

溜め込んだ感情を吐き出す → 心が軽くなる。これも「抑圧と開放」の構造です。

③ 日常用語

映画を見て泣いたあとの爽快感。スポーツ観戦で応援チームが逆転した瞬間の興奮。「カタルシスを感じた」——この日常的な用法がもっとも一般的です。

小説におけるカタルシスの定義

3つの語源に共通する構造は「抑圧 → 開放」です。

小説でのカタルシス = 読者が感じる「抑圧からの開放」の快感。

登山に喩えるとわかりやすい。

険しい山道を何時間もかけて登る。足が痛い。息が切れる。もう無理だと思う。——これが抑圧

山頂に立ったとき、目の前に壮大な景色が広がる。風が吹き抜ける。「ここまで来てよかった」——これが開放

抑圧が深いほど、開放の快感(カタルシス)が大きくなります。
だからこそ、小説で「主人公をいじめすぎだ」「『虐待』のレベルが高い」と言われる作品がありますが、それがカタルシスのための設計である場合、「抑圧の深さ」は意図的なものです。ただし注意が必要で、抑圧を深くするのは「開放のため」であって、抑圧そのものが目的ではありません。開放がない抑圧は、ただのストレスです。

シンデレラで見る抑圧→開放のサイクル

カタルシスは1回で終わるものではなく、波のように繰り返す構成が効果的です。

シンデレラの構造を見てみましょう。


【抑圧1】義母と義姉に冷遇される → 日々の使用人生活
 ↓
【開放1】魔法使いが現れ、ドレスとガラスの靴を得る → 舞踏会に出席
 ↓
【抑圧2】時間切れ → ドレスが消え、靴を落として逃げる → 灰被り姫に戻る
 ↓
【開放2】王子がガラスの靴の持ち主を探し当てる → 結婚 → ハッピーエンド

抑圧→開放→抑圧→開放 のサイクル。2回目の抑圧が1回目より深いので、2回目の開放のカタルシスが最大になる。

カタルシス設計の3つの原則

原則①:抑圧は長く、開放は短く

抑圧の時間を長くとり、開放は一瞬で。

RPGでいえば、ダンジョンを10時間かけて攻略し、ボスを倒す瞬間は3分。10時間の忍耐が3分の快感に凝縮される——これがカタルシスです。

小説でも同じ。主人公が苦しむ描写をじっくり書き、解決はテンポよく書く。

原則②:抑圧は「具体的」に

「主人公はつらかった」では読者は共感しません。

何がつらいのか。いつ。どこで。誰に。どのように。——抑圧を具体的なシーンで描くことで、読者は追体験し、開放時のカタルシスが増幅されます。

原則③:開放は「読者が望んだ形」で

読者が「こうなればいいのに」と願っていた結末で開放する。

意外性は予想外の驚きを生みますが、カタルシスは予想通りの快感を生みます。「やっぱりそうなった!」——この安堵と満足がカタルシスの核心です。

どんでん返しとカタルシスは、似ているようで違います。

どんでん返し = 予想を裏切る → 驚き

• カタルシス = 予想を裏切らない → 満足

カタルシスの強さが物語の評価を左右する

Web小説のブックマーク数、アニメの評判、映画の興行収入——ヒット作を分析すると、カタルシスが強い作品が商業的にも成功しています。

理由は単純で、カタルシスは再体験したくなるから。「あの瞬間をもう一度味わいたい」というリピート欲求がPVを押し上げます。ライトノベルの「神回」と呼ばれるエピソードは、そのほとんどがカタルシス回です。読者が「この巻だけは読め」と勧める巻も、たいていカタルシスの強い巻です。つまりカタルシスは、口コミが生まれる「語りどころ」を生み出す機能も担っているのです。

まとめ

ポイント内容
カタルシスの定義抑圧からの開放が生む快感
語源アリストテレスの浄化 / フロイトの感情放出
構造抑圧→開放→抑圧→開放のサイクル
原則①抑圧は長く、開放は短く
原則②抑圧は具体的に描く
原則③開放は読者が望んだ形で

次に読むべき記事

• カタルシスの実践テンプレート → カタルシスを生む最強プロット集

• カタルシスの起源を深く学ぶ → アリストテレスの『詩学』に学ぶ

• ワクワクとカタルシスの違い → ワクワクする物語の正体

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