笑いの三大理論|優越・ズレ・放出を理解して「笑える小説」を書く
「思わず笑っちゃった!」——そんな小説を書いてみたくありませんか。
小説は人間や社会を描き出すまじめなもの? そんな概念でがんじがらめになる必要はありません。小説で笑ってもいいのです。笑いは読者を物語に引き込み、シリアスな展開をより効果的に際立たせるための強力な武器です。
とはいえ、「笑える小説」を書けと言われても急には書けませんよね。実は笑いにも「理論」というものが存在します。理論さえ理解すれば、笑いは「設計」できるのです。
この記事では、笑いの三大理論——優越の理論、ズレの理論、放出の理論——を解説し、小説への具体的な応用法を示します。
笑いの三大理論とは
笑いの研究には長い歴史がありますが、現在まで支持されている主要な理論は3つに分類できます。
| 理論 | キーワード | 対象 |
|---|---|---|
| 優越の理論 | 他者への優越感 | 感情の理論 |
| ズレの理論(不一致の理論) | 予測の裏切り | 思考の理論 |
| 放出の理論 | 緊張と緩和 | 生理的・心理的理論 |
3つの理論はそれぞれ異なるメカニズムで笑いを説明しています。ここから1つずつ詳しく見ていきましょう。
理論1:優越の理論
定義
笑いは 他人に対する優越感の表現 だとする理論です。古くはプラトンやアリストテレスまで遡る、最も歴史のある笑いの理論です。
メカニズム
ある人が滑稽な行動を起こしたとき、それを見た人は「私はそんなことはしない」という優越感を覚え、笑いが生じます。
• 滑って転んだ人を笑う
• ドッキリに引っかかった人を笑う
• 明らかな間違いをする人を笑う
他人の失敗が目について、思わず笑ってしまう——誰しも経験があるはずです。
小説への応用
コメディリリーフ(笑いの受け皿キャラ) を設定するときに有効です。
うっかりミスを連発するキャラ、空気を読まない言動をするキャラ——読者はそのキャラに対して「自分はそうしない」という優越感を覚え、自然に笑います。ただし重要な注意点があります。
注意:嘲笑にならないラインを守る
優越の理論に基づく笑いは、やりすぎると「嘲笑」「いじめ」になります。笑われるキャラクターにも愛されるべき良さを持たせること、本人もそのミスを受け入れているキャラクター性にすること——このバランスが崩れると、読者は笑えなくなります。
参考作品:ボーボボ
ボーボボーボ・ボーボボは優越の理論の極致です。首領パッチやところ天の助などのキャラクターは常識はずれの行動を繰り返しますが、作品全体が「誰もまともではない世界」として設計されているため、嘲笑の不快感がありません。全員がおかしいなら、優越する対象が読者自身になり、「自分はまともだ」という安心感が生まれます。
理論2:ズレの理論(不一致の理論)
定義
人は無意識に「これはこうなるだろう」と予測して行動しています。この 予測が外れたときのズレ(不一致) が笑いの源泉だとする理論です。
メカニズム
1. 読者に「こうなるはず」と予測させる(セットアップ)
2. 予測を裏切る結果を提示する(パンチライン)
3. 裏切られた驚きが笑いに変換される
お笑い芸人のボケとツッコミの構造も、このズレの理論で説明できます。ボケが予測を逸脱し、ツッコミが「それはおかしい」と指摘することで、観客のなかのズレが言語化される。
小説への応用
読者の予測を構築してから裏切る という二段構えが必要です。
重要なポイントは、裏切りの方向です。
1. 予想外だが筋は通っている → 笑いが成立する
2. 予想外で意味不明 → 笑いではなく困惑になる
良いズレは「なるほど、そっちか!」と読者が納得できるもの。悪いズレは「何がしたいのかわからない」もの。この違いを意識してください。
参考作品:銀魂
銀魂は「少年ジャンプのバトル漫画」という読者の予測を基盤にしたうえで、メタ的な発言やパロディで予測を裏切り続けます。ズレの理論の教科書的作品です。
小説家が学ぶべきは、銀魂が 基盤となるフレームワーク(ジャンプ漫画の文法)を尊重している 点です。フレームワークを知っているからこそ、どこを逸脱すれば面白いかがわかる。何もないところからズラすのではなく、「予測の土台」を先に作ってからズラすのが鉄則です。
理論3:放出の理論
定義
緊張が高まり不要となったとき、溜まった 心的エネルギーが笑いとして放出される という理論です。フロイトが提唱した概念に基づいています。
メカニズム
1. 緊張感のあるシーンを描く
2. 緊張が急激に緩和される
3. 溜まっていた心的エネルギーが笑いとして解放される
「緊張と緩和」と表現されることも多く、お笑いの世界では最も実践的に活用されている理論です。
小説への応用
シリアスなシーンのあとに、不意打ちのように脱力する瞬間 を挿入する方法です。
例えば——お葬式のシーンで皆が涙に暮れている。すると突然、棺桶から故人がひょこっと起き上がり、弔問客に「あのときの金、まだ返してもらってないぞ」と文句を言い始める。しかもなぜか強烈な方言で。
緊張が高ければ高いほど、緩和の瞬間に生まれる笑いは大きくなります。
参考作品:鬼滅の刃の善逸
鬼滅の刃の我妻善逸は、放出の理論の見事な体現者です。恐怖で泣き叫ぶシリアスな緊張と、それが眠った瞬間に最強の剣士に変わるギャップ。読者は緊張から解放された瞬間に笑い、同時に感動もする——放出の理論とヒロイズムの融合です。
三大理論の組み合わせ
実践では、3つの理論を組み合わせて使うことが多いです。
組み合わせ例1:ズレ+優越
キャラクターAが真剣に計画を立てるが、実行段階でまったく違う結果になる(ズレ)。その失敗を見た読者が「そうはならんやろ」と笑う(優越)。
組み合わせ例2:放出+ズレ
シリアスなバトルの直後(緊張の蓄積)、主人公が敵の正体を知って「え、お前そんなやつだったの?」と拍子抜け(ズレによる緩和→放出)。
組み合わせ例3:三位一体
チェンソーマン85話のコベニのハンバーガーシーンは、三大理論すべてが機能しています。次の記事で詳しく分析していますので、あわせてご覧ください。
お笑い芸人と小説家の共通点
テレビで見るお笑い芸人は、適当そうにふるまっていますが、実はこの三大理論を本能的に、あるいは意識的に使いこなしている「笑いの哲学者」です。
漫才のセットアップ(予測の構築)とパンチライン(予測の裏切り)は、ズレの理論そのもの。コント中の急な静寂や突然の大声は、緊張と緩和(放出の理論)を利用しています。
小説家もまた、文章で読者の予測・感情・緊張感を操作する「笑いのエンジニア」になれるはずです。理論を知っているか知らないかで、笑いの精度は大きく変わります。
2025年の笑いトレンド
ギャグ漫画・ラノベの現在
近年のギャグ漫画・ラノベでは、メタ的な笑いと日常系の笑いの二極化が見られます。メタ的な笑いの代表は「銀魂」や「このすば」——作品自体がフィクションであることを前提にしたボケや、ジャンルのお約束をいじる笑いです。日常系の笑いでは「よつばと!」や「先輩がうざい後輩の話」のように、派手なボケではなく生活の中の小さなズレで笑わせます。
小説家が取り入れやすいのは後者の日常系の笑いです。キャラクターの些細な癖や口癖が思わぬ場面で発動する——こうした「小さなズレ」の積み重ねが、物語に温かみのある笑いを加えます。
まとめ
笑いは三大理論で設計できます。
1. 優越の理論:読者に「私はそうしない」と思わせる(嘲笑にならないラインに注意)
2. ズレの理論:予測を構築してから裏切る(筋の通った裏切りに限る)
3. 放出の理論:緊張を溜めてから緩和で解放する(緊張が強いほど笑いも大きい)
小説で笑いを書くことは、シリアスな場面をより引き立てる演出でもあります。笑いと感動は対極にあるのではなく、コインの表と裏。あなたも笑いの哲学者になって、「思わず笑っちゃった!」そんな小説を書いてみませんか。





