語彙力を鍛える方法|小説家に必須の「語彙の量×質」を高める実践ガイド
「嬉しい」「悲しい」「楽しい」——小説を書いていて、気づけば同じ感情表現ばかり使っていませんか? 語彙力は小説家にとって、画家にとっての絵の具と同じです。持っている色が少なければ、描ける世界は狭くなります。
この記事では、語彙力とは何か、なぜ必要か、そしてどうやって鍛えるかを、具体的な方法とともに解説します。
語彙力とは「量×質」である
語彙力を「たくさんの言葉を知っていること」だと思っている方は多いでしょう。しかし、それだけでは不十分です。
語彙力とは次の二つの掛け合わせです。
語彙の量——頭の中にどれだけ多くの言葉を蓄積しているか。これを専門用語で「理解語彙」と呼びます。読んだり聞いたりしたときに「意味がわかる」言葉のストックです。
語彙の質——蓄積した言葉を場面に応じて適切に使えるか。これを「使用語彙」と呼びます。実際に自分の文章で使いこなせる言葉のストックです。
つまり、「知っている言葉が多く、それを適切に使い分けられる人」 こそ語彙力が高い人です。知っている言葉が10万語あっても、実際に使えるのが1000語なら、小説に反映される語彙力は1000語分しかありません。
語彙力が低いとどうなるか
小説家にとって語彙力不足は死活問題です。具体的にどんな弊害があるか、3つ挙げます。
同じ表現の繰り返しになる
「嬉しい」という感情ひとつとっても、「心が躍る」「胸が高鳴る」「思わず頬がゆるんだ」「泣きたいほどありがたかった」と、ニュアンスによって表現は無数にあります。語彙が足りないと「嬉しかった」「とても嬉しかった」の繰り返しになり、読者は飽きてしまいます。
『葬送のフリーレン』のフリーレンは感情表現が極端に少ないキャラクターですが、だからこそ稀に感情を見せる場面が際立ちます。これは意図的な語彙の制限であり、語彙力があるからこそできる技法です。語彙がないのと、あえて使わないのは全く別のことです。
誤字・誤用が増える
「税金を納める」と書くべき場面で「税金を修める」と書いてしまう。「煮詰まる」(結論が出そう)と「行き詰まる」(進まない)を混同する。語彙力が低いとこうした誤りが増えます。
誤字・誤用が多い文章は、内容がどんなに良くても信頼を失います。新人賞の選考でも「基本的な語彙力がない」と判断されれば、一次で落とされます。
読者に伝える力が弱くなる
小説は文章だけで読者にストーリーを伝える媒体です。語彙が乏しいと、細かなニュアンスが伝わらず、読者の頭の中に鮮明な映像が浮かびません。
「赤い花が咲いていた」——これだけでは読者の脳裏に浮かぶ映像は曖昧です。「深紅のダリアが風に揺れていた」なら、色も花の種類も動きも伝わる。語彙は描写の解像度を決めるのです。
語彙力を高める4つの方法
方法1:自分と対話する
最も重要で、最もお金がかからない方法です。
冬の寒い朝にベッドの中で目が覚めたとき、あなたはどう感じていますか?「寒い」で終わらせず、その感覚をもっと正確に言葉にしてみてください。「布団の中は温かいのに、鼻先だけがひりひりする」「起きたくない、という気持ちが体の重さになっている」——自分の感覚を言葉に変換する練習こそ、使用語彙を育てる最良のトレーニングです。
友人からプレゼントをもらったとき。電車に乗り遅れたとき。カフェでいい音楽が流れてきたとき。そのたびに「自分は今、どんなニュアンスの感情を抱いているか」を意識する。この自分との対話を日常的に続けるだけで、使用語彙は確実に増えていきます。
方法2:読書の「精度」を上げる
多読は理解語彙を増やす王道ですが、ただ読むだけでは使用語彙にはなりにくい。一歩踏み込んだ読み方を紹介します。
「知らない言葉」に出会ったら、その場で意味を調べる。そしてメモを取る。ノートでもスマホのメモアプリでも構いません。本を読んでいるなら、付箋に言葉と意味を書いて本に挟む。栞代わりにもなりますし、読み返したときに復習できます。
さらに効果的なのは、気に入った表現を自分の文脈で書き直すことです。太宰治の「走れメロスは激怒した」を読んで、「自分のキャラクターがこの感情を持ったらどう書くか」を考えて書いてみる。これが理解語彙を使用語彙に昇格させる決定的な一手です。
方法3:類語辞典を手元に置く
類語辞典は、語彙力を「質」の面で高める最強のツールです。
「悲しい」を調べると、「哀しい」「切ない」「もの悲しい」「侘しい」「寂しい」「やるせない」「胸が詰まる」「目頭が熱くなる」……と大量の選択肢が出てきます。それぞれの微妙なニュアンスの違いを確認しながら、場面に最も合う言葉を選ぶ。この作業を繰り返すことで、単語の使い分け能力が磨かれます。
紙の辞典が最も一覧性が高くておすすめですが、Webの類語辞典(Weblio類語辞典、連想類語辞典など)も便利です。推敲中に「もっとぴったりの言葉があるはず」と感じたら、すぐに引く癖をつけましょう。
方法4:安易な言葉を封印する
「やばい」「すごい」「可愛い」「エモい」「まじ」——日常会話でよく使うこれらの言葉を、一日だけ封印してみてください。
驚くほど多用していることに気づくはずです。封印すると、代わりの言葉を探さざるを得なくなる。「やばい(おいしい)」を「口の中で香りが広がる」に、「すごい(早い)」を「まばたきの間に過ぎ去った」に。この言い換え筋トレが、使用語彙を飛躍的に増やします。
食レポで「おいしい!」とだけ言うレポーターよりも、「表面はカリッと香ばしくて、中からジューシーな肉汁があふれ出す」と表現できるレポーターのほうが、言葉で味を伝えられますよね。小説も同じです。
まとめ
語彙力は「量×質」の掛け算です。理解語彙を増やすには読書とインプット、使用語彙を増やすには自分との対話と言い換え練習。そして類語辞典は推敲の相棒にする。日々の小さな積み重ねが、いつか鮮やかな文章となって原稿に表れます。
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おまけ:語彙を増やすために役立つ感情類語辞典
第1巻 感情編
古今東西、どんな名作にも必ず共通するのは、登場人物たちの「感情」が豊かに描かれていること。でも、頭で考えるだけでは、どうしてもいきづまりがちで、気づくといつも同じリアクションをさせてしまったり、大げさに書きすぎてリアルでなくなってしまったり…。こうした失敗に陥らずに、そのキャラクターらしい、自然でオリジナルな表現を生み出すには、どうすればよいのでしょうか?
本書は、人間の喜怒哀楽を項目化し、それぞれの感情に由来する行動や反応を集めた、創作者のための新しい「類語辞典」です。本書が手元にあれば、お決まりの表現に頼らずに、登場人物をより人間らしくリアルに描き、物語を引っ張っていく魅力的なキャラクターを生み出すことが可能になります。
ある感情における、目に見える「外的なシグナル」、体の内側に起こる「内的な感覚」、心理状態を表わす「精神的な反応」、そしてその感情が強烈だったり、長期にわたる場合のサインや、本人が周囲に隠したり、自覚がない場合のサインなど、ひとつの感情につき、60~90個前後の「類語」が収録されています。
アメリカの小説家志望者向けの創作支援サイト「Writers Helping Writers」で読者からその実用性を高く評価され、待望の書籍化が実現した本書は、米アマゾンで星4.7点(979レビュー)、書評サイト「Goodreads」で星4.5点(2182票)と、多くの読者から高い評価を獲得しています。(※2015年11月時点)
第2巻 性格編「ポジティブ編」
爆発的ヒット『感情類語辞典』シリーズに「性格」版が登場!「ポジティブ編」では「優しさ」「責任感」、「情熱」といった活動的で前向きな99項目の属性を分析。小説家、脚本家、漫画家、アニメ・ゲーム作家、演出家、俳優の創作のヒントとしてはもちろん、人間の行動心理にひざを打つこと間違いなし!
たとえば、何事も諦めず困難に立ち向かう、溌剌とした性格の主人公を作り上げたい場合、ただポジティブな性質ばかり加えても、すべての人の記憶に残るヒーローやヒロインを生み出せるとは限りません。リアルで誰からも好かれる人物には、目標を達成させるためのポジティブな長所を与えると同時に、成長するために克服するべき欠点が必要なのです。ひとえに「ポジティブ」なキャラクターと言っても、多様な要素が重なり合うことで、より説得力のある登場人物が作られるのです。
ではどのようにしてポジティブなキャラクターに強度を持たせればよいのでしょうか? 単純な成功ストーリーだけに頼らず、性格心理に裏づけられた人間味のあるキャラクターを描くには、どうすればよいのでしょうか?
本書では、キャラクターが持ちうる「属性」のポジティブな面を列挙し、その要因、行動、態度、思考パターンなどを類語としてまとめています。1つの性質を通じて人格がみるみる深まり、無限に連鎖していく発想と創作のヒントが満載です。読者と登場人物のあいだに絆を生み、感情移入できる魅力的なキャラクター創作のために役立つ、あらゆる「表現者」のための類語辞典です。
第3巻 性格編「ネガティブ編」
爆発的ヒット『感情類語辞典』シリーズに「性格」版が登場!「ネガティブ編」では「意地悪」「疑い深い」「臆病」といった人間の闇の部分106項目の属性を分析。小説家、脚本家、漫画家、アニメ・ゲーム作家、演出家、俳優の創作のヒントになることはもちろん、欠点が人物に与える複雑な効果に感心すること間違いなし!
人物は、ポジティブな要素だけで成り立っているわけではなく、短所は長所の鏡であり、むしろネガティブな要素にこそ魅力が隠されています。不安定な心の変化や悩み、葛藤などについて理解、考察して登場人物を描写することによって、ブレのない、ひねりのきいたストーリーが生まれるのです。
本書では、人間の「欠点」について考えられる要因や行動、態度、思考などを通して、キャラクターのネガティブな属性の効用を学ぶことができます。実際の文学や映画作品にみられる事例も豊富に紹介し、創作者にとってはわかりやすく、また鑑賞者にとっても登場人物に照らし合わせて楽しむことができる内容です。
一見、キャラクターの暗い面に光を当てていますが、ポジティブな面も同時に認識することで、「魅力的な欠点」づくりができる仕組みになっています。出入りの激しい感情と異なり、性格は一貫して存在し続けるものであり、行動を決定づける上で大きな役割を果たします。人間の両面を知ることは物語に深みを与えるだけでなく、読者の心の奥にある、自分自身について知りたい欲求を鷲掴みにし、キャラクターに自己投影していくでしょう。読者と登場人物のあいだに絆を生み、感情移入できる魅力的なキャラクター創作のために役立つ、あらゆる「表現者」のための類語辞典です。
第4巻 場面設定編
創作者のための虎の巻、類語辞典シリーズ第4弾は物語の舞台・世界観をつくりあげる「場面設定」のノウハウを伝授! 読者が主人公と一緒になって人生を体験するには物語への没入感が重要です。本書では「郊外編」「都市編」合わせて全225場面を通じ、「見えるもの」「聴こえるもの」「味」「匂い」「質感」等の要素から、例文とともに「場面設定」のキモを徹底解説します。
物語をつくるうえで見落とされがちな要素が「場面設定」です。規模の大小、実在か架空かにかかわらず、ユニークかつ印象深い「場面設定」は、読者と感情的な絆を結ぶために極めて重要な効果を生みます。設定は背景を伝える役割としてだけでなく、雰囲気の構築や物語の誘導、登場人物を特徴づける手段として、読者の感覚を深めるための重要な情報を提供するのです。
「場面設定」はあくまでも、視点となる登場人物や語り手の描写であることを忘れずにいることが重要です。本書では表現のテクニックを紹介すると同時に、よくある落とし穴について注意を促しています。とりとめのない描写のしすぎや説明過多、無秩序な時系列といった読者を混乱させる可能性のある表現について、解決方法を示しているので安心してください。本書を活用することにより、説得力のある設定、場面に読者を深く引きつける技術を獲得することが可能となるはずです。
第5巻 トラウマ編
私たちは誰もが、大小さまざまな形で「トラウマ」と呼ばれるものを抱えているのではないでしょうか。不意の事故や予期せぬ災害、幼少期の体験、失恋や社会不安……自らの経験に基づいた心の傷はいつの間にか消え去ってしまうものもあれば、日常に訪れた些細な出来事によってふとした瞬間に蘇り、そのたびごとに心を締め付け、そしてときにはさらなる傷を生み出すかもしれません。
本書は、キャラクター形成と物語を牽引するために不可欠である「心の傷/トラウマ」が作品にどのような作用をもたらすか、その原因となる具体的な事例とともに詳細にまとめた、画期的な辞典です。
物語に登場するキャラクターにはもちろん過去があり、その過去にひも付いたトラウマは彼らの行動を動機づけるばかりでなく、具体的な動作・振る舞いにも多大な影響を及ぼします。本書は、トラウマによって、キャラクターがどのような先入観を抱き、どのように人格を変化させがちになるのか、どのような行動や態度を生み出すのか、あるいはトラウマがもたらす物語の起伏にはどのようなケースが想定できるのか、読者の共感を呼び起こすことができるトラウマ設定のバリエーションをコツコツと収集。物語創作における心理描写の核心ともいえる心の傷/トラウマについて、100を超える事例とともにその状況設定を網羅的に解説します。
Twitterから爆発的に広まった<類語辞典>シリーズは、小説家、脚本家、漫画家、演出家、俳優、ライター、二次創作者(ライトノベル・同人誌)など、多くの創作者、表現社たちにとって重宝され続けています。過去のシリーズ愛用者はもちろん、作品により深みを出したい、妄想をよりリアルなものにしたいなど、使い方次第でいかようにも楽しめる強力なツールです!
第6巻 感情編 その2
愛、憎しみ、孤独、懐かしさ……物語を生き生きと描くためには、さまざまな場面に置かれた登場人物・キャラクターの心理を、生き生きと「描写する」ことが不可欠ですが、頭で考えるだけではどうしても行き詰まってしまいがち。気づくといつも同じリアクションをさせてしまったり、ドラマ性のない説明文になってしまったり、大げさに書きすぎてリアリティがなくなってしまったり…こうした失敗に陥らずに、そのキャラクターらしい、自然でオリジナルな表現を生み出すには、どうすればよいのでしょうか?
本書は、人間の喜怒哀楽を項目化し、それぞれの感情に由来する行動や反応を集めた、創作者のための新しい「類語辞典」です。ある感情における目に見える「外的なシグナル」、体の内側に起こる「内的な感覚」、心理状態を表わす「精神的な反応」、そしてその感情が強烈だったり、長期にわたる場合のサインや、本人が周囲に隠したり、自覚がない場合のサインなど、ひとつの感情につき60〜90個前後の「類語」が収録されているので、お決まりの表現に頼らずに、人間らしくリアルな、物語を引っ張っていく魅力的なキャラクターを生み出すことが可能になります。
さらに増補改訂版では、より細かい感情を表現するために、項目数が75から130と大幅に増量。「読むだけで心に突き刺さる」と評判だった、悩める創作者を導く「まえがき」の部分も加筆されています。また、各感情に結びついた行動を描写しやすくするため、その感情を強く想起させる動詞のリストを新たに追加。また、キャラクターの感情が今後どう移り変わっていくのかをわかりやすくするため、各感情が発展あるいは後退すると、どの感情に至るのかが参照できるようになりました。
小説家だけでなく、脚本家、シナリオライター、漫画家、さらには演出家や俳優など、物語の執筆だけでなく、キャラクター作りや役作りといった<人間を表現する仕事>のよき相棒として、あらゆる創作者を助けてくれる「類語辞典」です。
第7巻 職業設定編
キャラクターの人生にとって欠かせない要素=職業を適切に設定し、読者や観客をのめり込ませるために必要な知識が詰まった最強のガイドブック!
物語に登場するキャラクターの職業を決めなければならないとき、つい自分の経験や憧れ、面白そうだという思い込みだけで選んでしまっていないでしょうか。または特定の職種の役柄を演じたり想像するときに、どこかで見たことがある“ベタ”なキャラクターばかりを思い浮かべたりしていないでしょうか。
現実に生きる私たちと同様に、作品に登場するキャラクターも、なぜその職業を選択したのか、自分の仕事が好きなのか嫌いなのか、その仕事の何を信念として持ち、人生においてどんな目標を達成したいのかはそれぞれ異なり、存在に係わる重要な意味を持ちます。
本書ではあらゆる職業における特徴や必要な知識、スキルなどの基本的なデータ、その職業に就くことで抱えがちな葛藤、または場面における立ち振る舞いから、スレレオタイプを避けるためのアドバイスといった、非常にユニークな視点から構成された辞典です。軍人や弁護士、小説家やプロスポーツ選手といった数多くの作品に登場する職種から、剥製師や料理評論家、霊術療法士といったストーリーにインパクトを与えるような職種まで、120を超える職業の設定の肝を詳細に記述しています。
仕事をめぐる登場人物の特質や選択は、どのように特徴づけられ、プロットに結びつき、必要とあれば対立関係を吹き込むことができるのか。どうすれば読者や観客が登場人物を自分に重ね、作品にのめり込むことができるのか。本書によって職業設定に紐づくストーリーテリングの無限の可能性が広がることでしょう。