アイデアが出てこない?|「解釈の力」で無意味から意味を生み出す2つの方法
プロットを考える時に最も頭を悩ませるのは、「アイデアが出てこない」という問題です。
「どうして自分はこんな凡庸な発想しかできないんだろう」──そう悩んだことは、何度もあります。机に向かって3時間。白紙のスクリーン。カーソルだけが点滅している。
そんな時に私が見つけた突破口は、意外なところにありました。現代アートです。
大前提:「無意味なもの」を作るほうが難しい
現代アートの世界には、一見すると意味不明な作品が溢れています。便器を展示台に置いただけのマルセル・デュシャンの「泉」。キャンバスを真っ青に塗っただけのイヴ・クラインのモノクローム。
なぜこれらが「作品」として成立するのか。それは鑑賞者が勝手に意味を見出すからです。「なぜ便器なのか?」「この青は何を意味するのか?」──人間の脳は、意味のないものを見ると自動的に意味を投影する。これが「解釈」の力です。
芸術家に言わせれば、無意味なものを創るほうが難しい。なぜならどこにでも意味は生まれるから。
この「解釈の力」を小説のアイデア出しに応用するのが、私が提案する2つの方法です。
方法1:興味を惹かれたものを、とりあえず物語に放り込む
世界観に馴染まないものを、あえて物語に投入してみる方法です。
テニスの王子様──巨人が出てきた時、何が起きたか
典型例は『テニスの王子様』です。テニスの試合中に選手が巨人化する。冷静に考えれば意味が分かりません。テニスに巨人は要らない。
ところが、作中の観客や他のキャラクターが巨人を当然のように受け入れていると、読者もいつしか「なぜ巨人化したのか」ではなく「どうやって巨人を倒すのか」に意識が移る。
これが「解釈の力」です。作者が巨人を放り込んだ。読者は勝手に意味を見出した。そして巨人を倒す展開が新しいアイデアを呼び、物語が前に進んだ。
正直に言って、巨人を倒すロジックは何度読んでも理解できません。でも面白い。「とりあえず放り込んで、後から解釈で風呂敷を畳む」──これは凄まじいアイデア術です。
実践のコツ:論理的に説明しないこと
アイデアを膨らませる時の最大のポイントは、論理的・科学的に説明しないことです。
元の記事で「この石が月の母親なんだよ」という意味不明な台詞を例に挙げました。この台詞を「月はジャイアント・インパクトで地球から分かれた衛星だから、地球の一部であるこの石も月の母親だ」と科学的に説明してしまうと、そこで話が終わります。発展の余地がなくなる。
代わりに「月がこの小石を中心に回っているから、母親」という非科学的な──しかし詩的な解釈を与える。すると「なぜ月が小石の周りを回るのか?」「その小石にはどんな力があるのか?」と、疑問が連鎖してアイデアが膨らむ。
論理で説明すると話が閉じる。解釈で投げかけると話が開く。この違いが分かるだけで、アイデアの出方は劇的に変わります。
方法2:登場人物に意味のない台詞を言わせる
こちらはもっと実践的な方法です。物語の脈絡を無視した台詞をキャラクターに言わせ、その台詞に後から意味を与える。
ワンピース第1話──「海賊王に俺はなる」
ルフィの「海賊王に俺はなる」という宣言。第1話の時点で「海賊王」は定義されていません。海賊の王とは何か。すべての海賊を従える支配者なのか、最も自由な海賊のことなのか。
読者は「なんとなく」想像しました。それが読者の解釈です。
そして25年以上連載が続いた結果、第1話で想像された「海賊王」と、物語の現在地で目指している「海賊王」は、おそらく別物になっています。最初は「すべての海賊を従える王」というイメージだったものが、今は「すべての人々を自然と惹きつける存在」へと変容した。
つまり尾田栄一郎先生は、意味の固定されていない台詞を第1話で放り込み、その意味を物語全体をかけて定義し続けているのです。これは「意味のない台詞から物語を紡ぐ」手法の、世界最高峰の実例です。
実践ステップ
1. キャラクターに、脈絡のない一言を言わせる(「この石が月の母親なんだよ」でも何でもいい)
2. その台詞を「なぜこのキャラはこんなことを言ったのか?」と解釈する
3. 解釈から生まれた設定を、物語に組み込む
4. 組み込んだ設定が、また新しい疑問を生む
5. 疑問が連鎖して、アイデアが枝分かれしていく
「アイデアが出てこない」のは、白紙の状態から完成形を出力しようとしているからです。代わりに、断片を投げ込んで、解釈の力でアイデアを「育てる」。この発想の転換が、凡庸な自分から脱出する鍵です。
科学の隙をつくアイデアが最も面白い
元の記事で書いた「論理的・科学的な説明の隙をつける発想が、いいアイデアといえます」という点を補足します。
「この石が月の母親」──この台詞に対して、「月がこの小石の周りを回っている」という解釈を付けました。科学的に正しいかどうかは問題ではありません。「潮汐力で毎日満潮と干潮の差が出る。それは中心軸がずれているからじゃないか? 月が小石の周りを回っていると考えても不自然ではない」──こう言われると、一瞬「もしかして?」と思ってしまう。
この「一瞬もしかして」が、読者を物語に引き込む瞬間です。
完全な嘘は読者に拒否されます。完全な真実には驚きがない。その中間──「嘘だけど、もしかしたら?」という絶妙なラインが、フィクションの最もおいしい場所です。
SF作品はこの技術の宝庫です。『STEINS;GATE』のタイムリープ理論も、『三体』のVR没入型ゲームも、科学の隙を創作的に突いた例です。現実の科学をほんの少しだけ飛躍させる。その「ほんの少し」に、アイデアの核がある。
アイデアは「降ってくるもの」ではなく「育てるもの」
最後にまとめます。
アイデアが出てこないと悩んでいる人の多くは、「完成されたアイデア」が天から降ってくることを期待しています。でもアイデアは天から降りません。
代わりにやるべきことは:
1. 脈絡のない断片を物語に投げ込む
2. 「解釈の力」でその断片に意味を与える
3. 意味が新しい疑問を生み、疑問がアイデアに育つ
テニスの王子様の巨人も、ルフィの「海賊王」も、最初は意味の定まっていない断片でした。それが連載の中で解釈され、磨かれ、物語の核になった。
あなたの物語にも、まだ意味の定まっていない断片を投げ込んでみてください。その断片が何に育つかは、あなたの「解釈の力」次第です。
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