マクガフィンとは?|物語を動かす「中身のない鍵」の正体と使い方

2022年9月30日

あなたの物語に「マクガフィン」はありますか?

「マクガフィン」——戦隊モノのヒーローの名前のようですが、れっきとした物語用語です。映画・小説・ゲーム、ジャンルを問わず使われているのに、いざ説明しようとすると「なんだかよくわからない」。今回は、そんなマクガフィンの正体をとことんわかりやすく解説し、あなたの物語での活用法まで踏み込みます。


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マクガフィンとは何か

ヒッチコックが普及させた概念

マクガフィン(MacGuffin / McGuffin)は、映画界の巨匠アルフレッド・ヒッチコックが1930年代に普及させた用語です。

ヒッチコック自身の定義はこうです。

> マクガフィンとは、スパイものに登場する「書類」のようなものだ。登場人物たちはそれを必死に追いかけるが、観客にとってはどうでもいい。重要なのは、それをきっかけにして展開されるサスペンスの方だ。

つまりマクガフィンとは、 物語を動かすための「目的」や「対象」でありながら、それ自体の中身や正体にはさほど意味がないもの のことです。

一言で言えば「中身のない鍵」

鍵がなければドアは開かない。でも鍵そのものの形や材質は物語にとって重要ではない——この感覚がマクガフィンです。

物語を前に進めるために必要な装置であり、登場人物が追いかける目的でもある。しかしその「中身」が別のものに替わっても物語は成立する。それがマクガフィンの本質です。


具体例で理解するマクガフィン

ワンピースの「ワンピース」

漫画『ONE PIECE』のタイトルにもなっている「ワンピース」は、まさにマクガフィンの代表例です。

ルフィたちは「ワンピース」を求めてグランドラインを冒険しますが、読者が夢中になるのは「ワンピースの正体」より、航海の中で出会う人々との物語 です。極端な話、最終的に見つかるものが黄金であろうと古代兵器であろうと「ロジャーの手紙」であろうと、読者がルフィたちの冒険に感動する構造は変わりません。

※もっとも、2025年現在の連載ではワンピースの正体が少しずつ明かされ、物語的意味を帯びてきています。マクガフィンが途中から「マクガフィンではなくなる」展開もあり得る——これも覚えておくと応用が利きます。

チルチルミチルの「青い鳥」

メーテルリンクの童話『青い鳥』で、子どもたちは「幸せの青い鳥」を追いかけます。この「青い鳥」は「赤い鳥」でも「白い鳥」でも物語が成立します。重要なのは「幸せを探す旅そのもの」であり、鳥の色ではありません。

ただし「青」には「青い空=希望」「青い海=未知」というイメージがあり、象徴として最適だから青が選ばれた ことも事実です。ここにマクガフィンの奥深さがあります。

スパイもののブリーフケース

スパイ映画で登場人物たちが命を懸けて奪い合う「機密書類」。中身が核兵器の設計図であろうと暗殺リストであろうと、物語が成立することに変わりはありません。007シリーズでもミッション:インポッシブルでも、ブリーフケースの中身が変わっても映画の面白さは変わらないのです。


マクガフィンの見分け方——「代替テスト」

マクガフィンかどうかを見分ける方法は、じつはとてもシンプルです。

「それを別のものに置き換えても、物語の構造に影響がないか?」

影響がなければ、それはマクガフィンです。

作品対象別のものに替えたら?判定
ONE PIECEワンピース「伝説の地図」でも冒険は成立するマクガフィン
青い鳥青い鳥「赤い鳥」でも旅の物語は変わらないマクガフィン
デスノートデスノート「名前を書くと死ぬノート」自体がルールであり代替不可マクガフィンではない
鬼滅の刃鬼舞辻無惨別のラスボスに替えると物語全体が崩れるマクガフィンではない

デスノートの「ノート」は代替できません。ノートの特性そのものが物語のルールであり、プロットの根幹だからです。物語そのものを規定するアイテム はマクガフィンではない——この区別が重要です。


「たかがマクガフィン、されどマクガフィン」

ヒッチコックは「マクガフィンの中身にはこだわらない」と言いましたが、本当にこだわらなくていいのでしょうか?

象徴は読者の記憶に残る

「青い鳥」と「黒い鳥」では、読者に与える印象がまるで違います。物語上の機能は同じでも、象徴としてのインパクトが異なるのです。

「青い鳥」と聞いて、多くの人があの物語を思い浮かべる。これは「青い鳥」という象徴が、作品のアイコンとして機能しているからです。

つまりマクガフィンには2つの役割があります。

1. 物語装置としての役割 — 物語を動かすエンジン。代替可能
2. 象徴としての役割 — 作品の印象を決めるアイコン。代替するとニュアンスが変わる

ヒッチコックが「こだわらない」と言ったのは役割1について。しかし役割2を意識すれば、マクガフィンの選び方ひとつで作品の印象が大きく変わるのです。

SPY×FAMILYの「オペレーション〈梟〉」

『SPY×FAMILY』では、黄昏(ロイド)が「オペレーション〈梟〉」という任務をきっかけに、疑似家族を作ります。

任務の目的は「デズモンドに接近する」こと。物語を動かすマクガフィンです。しかし物語が進むにつれ、この任務は「家族としての絆」にすり替わっていきます。

マクガフィンが物語の中で変質する——最初は装置だったものが、テーマそのものになる。これはマクガフィンの高度な使い方です。


マクガフィンを活用する3つのコツ

コツ1:序盤で「追いかける理由」を明確にする

マクガフィンがうまく機能するためには、登場人物がそれを追いかける理由が読者に伝わる必要があります。

「なぜ主人公はそれを求めるのか?」が不明確だと、読者は物語について行けません。マクガフィンの中身が何であれ、追いかける動機に説得力があれば物語は走ります。

コツ2:マクガフィン自体に「こだわり」を持つ

前述の通り、マクガフィンは象徴です。象徴としてのこだわりは持ちましょう。

具体的には以下を意識してください。

名前に力がある — 青い鳥、ワンピース、賢者の石。一語で物語を想起させる力

見た目が印象的 — カバンに隠された正体不明の何か、光り輝く石

作品タイトルとの連動 — マクガフィンをタイトルにすると作品のアイコンになる

コツ3:正体を明かさない選択肢も有効

マクガフィンの中身が決まらないなら、最後まで明かさないという手もあります。

たとえばカバンの中に何かが入っている。物語を通じてその中身を巡って争奪戦が起きる。しかし最後まで中身が何かは語られない——読者の想像に任せる構造です。

クエンティン・タランティーノの映画『パルプ・フィクション』のブリーフケースがまさにこれ。中身が語られないからこそ、何十年も議論が続き、作品が語り継がれています。

マクガフィンの正体を隠す=読者の想像力を永遠に刺激し続ける という強力な演出なのです。


マクガフィン設計チェックリスト

あなたの物語にマクガフィンを設計するとき、以下の項目を確認してみてください。

チェック項目確認
登場人物がそれを追いかける理由は明確か?
別のものに置き換えても物語が成立するか?(=マクガフィンとして機能するか)
象徴としてのインパクトはあるか?(名前・見た目・タイトル連動)
物語の途中で「変質」する可能性を検討したか?
正体を明かすタイミングは設計したか?(明かさない選択肢も含む)

まとめ:マクガフィンは「何でもいい」からこそ難しい

マクガフィンは「中身のない鍵」です。物語を動かすための装置であり、代替可能な存在。

しかしだからこそ、象徴としての選び方に神経を使うべきです。「青い鳥」と「黒い鳥」で物語の印象は変わります。タイトルにも使える象徴力を持つマクガフィンを選べたとき、その作品には読者の記憶に残るアイコンが生まれます。

たかがマクガフィン、されどマクガフィン。神は細部に宿ります。あなたの物語の「鍵」に、こだわりを込めてみてください。


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