創作ネタが見つからない?|新幹線から見た富士山が教えてくれたこと
2週間、悩みました。
本業をこなしながら執筆に取り組み、25,000字まで進んだところで完全に止まった。アウトラインは出来ている。キャラクターも決まっている。でも次のシーンの「ネタ」が出てこない。
「陽気なキャラクターが憂鬱を抱き、ふとしたきっかけで立ち直る」──プロットの粒度はこのレベルです。問題は、「どういう流れで憂鬱を抱くか」「ふとしたきっかけに、どんなイベントを選ぶか」という具体。ここに作家性が求められ、ここで私は毎回止まります。
そしてそのネタは、まったく予想しない場所で見つかりました。
新幹線の窓から見えた富士山
東京から大阪へ向かう新幹線に乗っていた時のことです。18時頃だったでしょう。ぼんやりと窓を眺めていると、曇りがかった空にわずかな夕日が差し込む黄昏のなかに、富士山の影が見えました。
新幹線に乗るたびに、飽きるほど見てきた富士山です。でもその日は違って見えた。
雄大な姿が不思議と心を打って、「なんとも小さな悩みで困っていたものだ」と苦笑い。忍耐の人・徳川家康が駿河の地に育ったのは、富士山を毎日見上げられる場所にいたからかもしれない──そんなことを感じました。
そして富士山をじっと見ていると、西の空に向けて龍のような雲がかかっていることに気づきました。雲を見て龍を想像する。それができるのが創作者の冥利かもしれません。
「そうだ。雲を見て立ち直ろう」
唐突に、悩んでいた小説のネタと結びつきました。主人公が憂鬱から立ち直る「ふとしたきっかけ」は、空を見上げることだ。屋上で、雲の形に何かを見出して、ふっと笑う。それだけで十分だ。

日常にこそネタがあふれている──ただし条件がある
この体験から私が学んだのは、「ネタは日常にあふれている」という、言い古された教訓です。しかしここに重要な条件があります。
スマホを見ていたら、この富士山には気づきませんでした。
2026年の今、私たちは一日の大半をスマホの画面と過ごしています。通勤電車でもスマホ。休憩時間もスマホ。新幹線でもスマホ。画面の中にも確かに情報はあります。他人の感情が文字となって溢れている。それをキャラクター作りに活かすこともできるでしょう。
でも、小説を書く上で使えるネタは、自分が実際に体験した感情です。スマホ越しに見た他人の感情ではなく、自分の目で見て、自分の身体で感じた経験。新幹線の窓から見た富士山の「重さ」を、スマホで富士山の写真を見ても感じることはできません。
「ネタがない」のではなく「感度が下がっている」
「ネタが見つからない」と悩んでいる作家に、もう少し踏み込んだことを言います。
ネタがないのではありません。ネタを感知するセンサーの感度が下がっているのです。
創作者にとってのセンサーとは「好奇心」です。「これはどうしてこうなっているのだろう?」「あの人はなぜあんな表情をしているのだろう?」──こうした疑問が自然に湧く状態が、創作者のセンサーが正常に作動している状態です。
このセンサーは、スマホの情報洪水で鈍ります。受動的な情報摂取を続けていると、「自分で見つける」「自分で疑問を持つ」という能動的なセンサーが休眠状態に入る。
復活させる方法は単純です。スマホを置いて、外に出る。空を見上げる。コンビニに行く途中の道で、昨日と何が違うか意識して観察する。電車で隣に座った人の靴を見て「この人はどんな仕事をしているのだろう」と想像する。
大げさな体験は要りません。散歩、料理、買い物、友人との会話、親との電話。すべてがネタの宝庫です。ただし、センサーがONになっていれば、の話です。
「体験」と「ネタ」を結びつける3つの技術
センサーをONにしたとして、体験をどうやって小説のネタに変換するのか。3つの技術を紹介します。
技術1:感情に名前をつける
日常で何かを感じた時、その感情を「具体的に」言語化するクセをつけます。
「嬉しかった」ではなく、「差し入れのコーヒーが自分の好きな銘柄だったことに気づいた瞬間、この人は自分のことを見ているんだと感じて、嬉しいと同時に少し怖くなった」──このレベルまで分解すると、それ自体がシーンの素材になります。
技術2:「もし○○だったら」を付け加える
体験した感情に「もし」を足します。
新幹線から富士山を見て心が動いた。→「もしこれが、大切な人を亡くした翌日に見た富士山だったら?」→ キャラクターが喪失の中で自然の雄大さに触れ、涙が止まらなくなるシーンが生まれる。
日常の感動を、キャラクターの状況に移植する。これだけで1シーンのネタが完成します。
技術3:メモは「感情」と「状況」のセットで残す
ネタ帳に書く時、「富士山がきれいだった」だけでは3日後に読み返しても何も思い出しません。
「18時、新幹線、曇りの空に夕日、富士山の影、龍のような雲。2週間悩んでいたネタが突然浮かんだ。悩みが小さく感じた。家康が駿河を選んだ理由を重ねた」──感情と状況をセットで記録しておくと、後から読み返した時に当時の感覚がよみがえります。
「主人公と一緒に感じる」という視点
元の記事で最も伝えたかったことを、もう一度書きます。
主人公が悩むなら、自分も一緒に悩んでみる。主人公が幸せなら、自分も幸せになってみる。
小説のネタとは、テクニックやトリックの話ではありません。自分の日常で感じた「小さな感情の揺れ」を、キャラクターの人生に接続する行為です。
だから日常生活を好奇心で楽しんでください。空を見上げて雲の形に何かを見出してください。コンビニで新しいお菓子を見つけたら「主人公ならどう反応するか」を想像してください。
ネタは、スマホの画面の中ではなく、あなたの目の前にあります。
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