アイデアは持ってくるもの|こち亀とドラえもんは同じ構造である
2023年、TSF(性転換フィクション)創作を書きたい人に向けたあるメッセージがX(旧Twitter)で話題になりました。要約するとこうです。
「良いと思った作品を10個並べろ。何がいいと思ったのか箇条書きにしろ。その中からいいと思った要素を選んで、シチュエーションを真似して書け。要素だけを真似すれば、大抵お前だけの表現になる」
とても的確なアドバイスです。しかし、私はこのメッセージだけを頼りに作品を作るのは非常に難しい──失敗する可能性が高い──と考えます。
なぜか。その答えを教えてくれたのが、岡田斗司夫氏のこの言葉でした。「アイデアを作るときは、ゼロから作ると間違います。アイデアは基本的に持ってくるものと考えるのが良いです」
最初にこの言葉を聞いた時、正直「それはパクリでは?」と思いました。しかし構造を持ってくることと、内容を盗むことは、まったく別の行為です。
この記事では、冒頭のメッセージが「惜しい」理由と、「構造を借りて要素を入れ替える」というアイデア術の本質を、具体例で解き明かします。
「こち亀とドラえもんは同じ構造」という衝撃
岡田斗司夫氏の説明で最も腑に落ちたのが、「こち亀とドラえもんは同じ構造」という指摘です。
ドラえもん:困っている人(のび太)と解決する人(ドラえもん)が登場し、困っている人が最終的に欲に負けて失敗する。
こち亀:困っている人と解決する人が同一人物(両津)で、アイデアを出して解決しようとするが、調子に乗って失敗する。
絵柄も世界観もキャラクターも完全に異なる2作品が、「困る→解決策→調子に乗る→失敗」という構造で一致している。でも誰もこち亀をドラえもんのパクリだとは言いません。構造が同じでも、要素が違えば、まったく別の作品になるからです。
これが「構造を持ってくる」の意味です。
カレーと肉じゃがの構造は同じである
岡田斗司夫氏はさらに分かりやすい例を出しています。
カレーと肉じゃが。どちらも「肉とじゃがいもを煮込んで、最後に調味料を加える」という構造は同じ。違うのは最後の調味料が「しょうゆ」か「カレー粉」かだけ。
物語に置き換えると、構造が「レシピ」、要素が「調味料」です。同じレシピでも調味料を変えれば別の料理になる。同じ構造でも要素を変えれば別の作品になる。
ここで重要なのは、「すでに成功しているレシピ」を使うことです。自分でゼロからレシピを発明する必要はない。世の中にはすでに美味しいレシピが無数にある。そこから構造だけを借りてくればいい。
追放ものの構造分析──実例で見る「構造と要素」
Web小説で一時代を築いた「追放もの」を例に、構造と要素の分離を実践してみます。
追放ものの基本構造:
1. 主人公がパーティから追放される
2. 追放された主人公が別の場所で力を発揮する
3. 元のパーティが主人公の不在で崩壊する
4. 主人公は新しい仲間と幸せに暮らす
この構造はどの追放ものもほぼ同じです。では何が作品ごとの個性を生んでいるのか。
| 要素 | 変換例A | 変換例B |
|---|---|---|
| 追放の理由 | 能力が地味だから | 年齢が高いから |
| 新天地 | 辺境の村 | 異世界の学園 |
| 発揮する力 | 支援スキルの真価 | 経験値の応用 |
| 元パーティの崩壊理由 | 支援がないと戦闘が成立しない | リーダーシップの不在 |
構造は同じ。要素が違う。これだけで別の作品になります。
冒頭で紹介したTSF創作のメッセージ──「好きな作品を10個並べて、何がいいか箇条書きにしろ」──の本質もここにあります。好きな作品群に共通する構造を抽出し、要素を自分なりに入れ替える。これが「アイデアを持ってくる」行為です。
ただし、冒頭のメッセージだけでは足りない理由
元の記事で指摘した通り、好きな作品を10個分析してピックアップした要素を混ぜ合わせて物語として整える難易度は、実はとてつもなく高い。
なぜなら「要素の掛け合わせ」は指数関数的に複雑になるからです。3つの作品から3つずつ要素を抜き出すと、組み合わせは27通り。しかもその27通りから「物語として成立する組み合わせ」を選び出さなければならない。
だから岡田斗司夫氏は、「複数の構造から要素を寄せ集める」のではなく、「一つの構造をまるっと持ってきて、要素だけを入れ替える」方法を推奨しています。
つまり:
• 非推奨:A作品の要素 × B作品の要素 × C作品の要素 = 新作品(複雑すぎる)
• 推奨:A作品の構造 + 自分独自の要素 = 新作品(シンプルで失敗しにくい)
元となる構造が「すでに成功した作品」であれば、物語としての骨格は保証されています。あとは味付けの部分──キャラクター、世界観、具体的なイベント──に自分の好みと個性を注ぎ込めばいい。
要素を「別ジャンルから」持ってくるとオリジナルになる
構造と同じジャンルから要素を持ってくると、似た作品になります。ファンタジー追放ものの構造に、ファンタジーの要素を入れると、またファンタジー追放ものが出来上がるだけ。
岡田斗司夫氏の教えの真髄は、「要素は自分が好きな別のジャンルから持ってくる」という点です。
たとえば追放ものの構造に、料理漫画の要素を入れる。追放されたシェフが辺境の村で食堂を開き、かつての高級レストランが人材流出で崩壊する──これだけで追放ものでありながら、料理ものとしても読める新しい作品が生まれます。
少年漫画の構造に少女漫画の要素。ミステリーの構造にSFの要素。自分の「好き」と作品の「構造」が交差する地点に、オリジナリティは生まれます。
「パクリ」と「構造の借用」の境界線
ここで多くの人が気にする問題に答えておきます。
構造を借りることは、パクリではありません。なぜなら物語の構造は著作権で保護されないからです。「困る→解決→失敗」という構造は誰のものでもない。
パクリになるのは、具体的な要素──キャラクターの外見、固有名詞、特定のシーン描写、台詞──をそのまま使った場合です。
元の記事でも書きましたが、「大抵のオリジナリティはまずは模倣やリスペクトから生まれていく」。模倣を恐れてゼロからの創出にこだわると、結果として何も作れなくなります。
先人の知恵を使いましょう。構造は借りる。要素は自分で選ぶ。この2ステップが、アイデアを「持ってくる」技術の全てです。
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